アビエイター

20世紀の伝説となった富豪の劇的な半生
成功と陰謀、持病の神経症など特異な逸話の数々に
ディカプリオ×スコセッシが挑んだ野心作

  • 2005/03/11
  • イベント
  • シネマ
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ハワード・ヒューズ(1905‐1976)。14歳で世界一のパイロット、世界一の映画作家、世界一の大金持ちになると宣言し、その通りのことをやってのけたアメリカの富豪にして、ハリウッドの奇人。本作は実業界と映画界で数々の伝説を残したハワードの半生を映し出した人間ドラマである。主演はハワードの伝記に10代の頃から惚れ込んでいたというレオナルド・ディカプリオ、監督はマーティン・スコセッシと、キャストもスタッフもこれでもか、と有名どころが名を連ねた大作である。

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他界した父親から18歳で莫大な財産を受け継いだハワード・ヒューズ。その後、全財産を抵当に入れてまでハリウッドで作り上げた映画『地獄の天使』は大成功、飛行艇を製作する会社を設立し、航空会社を買収。大物女優キャサリン・ヘップバーンとの恋も順調のように思えたが……。

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巨万の富と名声を得て成功を収めたものの、実業界の陰謀によって追い詰められ、航空事故で瀕死の重傷を負い、強迫神経症が悪化し……とさまざまな問題を抱えていくハワード。浮世離れしたエピソードの数々は興味深く、ディカプリオは渾身の演技を披露している。ハワード・ヒューズという良くも悪くもケタ外れの人物伝を、ハリウッドのトップクラスの人間たちが熱意も製作費もしっかりかけて作り上げた入魂の作品、ということはとてもよくわかる。衣装もセットも絢爛豪華、映像のディティールも凝りに凝っていて、確かにすごい。すごいのだが、ストーリーは外側から見たドラマや事件が中心で、ハワード本人の精神的な成長や深く心を揺り動かされたことについては、あまり描かれていないように思えた。ディカプリオもスコセッシもかなり執拗に史実にこだわり、脚本家とともに物語を仕上げていったとのこと。実在した故人をとりあげる場合、遺族や関係者、資料に頼るしかない。そして精神面を描くとなると、ある程度の推測を織り交ぜていくことになるので、それを避けたのだろうか。個人的には、頂点とドン底という激しい起伏のある人生を歩みながら彼の心はどう変わっていったのか、それをもっとしっかりと見せてほしかった。

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第62回ゴールデン・グローブ賞ではドラマ部門の作品賞、主演男優賞、作曲賞を獲得。そして第77回アカデミー賞では11部門の最多ノミネートより5部門を受賞したものの、ケイト・ブランシェットの助演女優賞受賞以外は主要な賞をすべて逃した本作。『ギャング・オブ・ニューヨーク』以来3年ぶり、といわれていた本作の来日プロモーションはあっさりキャンセルされた。理由はディカプリオ×スコセッシ監督の次回作『The Departed』の撮影準備が早まったため、とされているが、それだけではないような。なにしろディカプリオとスコセッシのショックは相当なもので、アカデミー賞授賞式後にビバリーヒルズで行われた記者会見では、賞関連の質問は一切受け付けないという異例のお達しがあり、スコセッシは会場に姿を現さなかったという。この会見でディカプリオは、「成功するためには自らチャンスを得るよう努力せねばだめだ。チャンスは待っていても決してやってこない」と語ったとのこと。彼はこれからもきっと、賞狙いの作品づくりに野心的に取り組んでいくことだろう。だけどもしかしたら、狙った作品はことごとく無冠のまま、ある時ころっと作ったヒューマンものの小品か何かで重要な賞を得たりするのかも。本物の感動は野心とは相容れないものであったりするし、彼に実力がないわけではないのだから。

作品データ

アビエイター
公開 2005年3月26日公開
丸の内ルーブルほか全国ロードショー
制作年/制作国 2005年 アメリカ
上映時間 2:29
配給 松竹、日本ヘラルド映画
監督 マーティン・スコセッシ
脚本 ジョン・ローガン
出演 レオナルド・ディカプリオ
ケイト・ブランシェット
ケイト・ベッキンセール
アレック・ボールドウィン
ジュード・ロウ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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