アルトマンの思いがはっきりと示された遺作
人間臭さも神秘もまるごと愛した名匠が
最後に観客に託した、あたたかな群像劇
映画作家ロバート・アルトマンが、2006年11月20日に81歳で他界した。これまでにカンヌ(『M★A★S★H』)、ヴェネチア(『ショート・カッツ』)、ベルリン(『ビッグ・アメリカン』)と世界3大映画祭で最高賞を、2006年のアカデミー賞で名誉賞を受賞した名匠の遺作とは? 出演はオスカー女優メリル・ストリープや6回のエミー賞受賞で知られるコメディエンヌのリリー・トムリンをはじめ、演技派からアイドルまでバラエティに富んだ有名人たちがズラリ。全米に根強いファンをもつ実在の長寿ラジオ番組「プレイリー・ホーム・コンパニオン」をモチーフに、番組の司会・台本を手がけるギャリソン・キーラーが原案・脚本、そして本人役で出演。のどかカントリーミュージックにのせて出来事の終焉と再生を描く、アルトマン印の群像劇である。
「プレイリー〜」の公開録音が、今日もミネソタ州のフィッツジェラルド劇場で行われる。司会のキーラー、姉妹デュエットのヨランダ(ストリープ)とロンダ(トムリン)、カウボーイスタイルの男性デュオ(ウディ・ハレルソン、ジョン・C・ライリー)らが楽屋に集う。番組のボディガード(ケヴィン・クライン)は、白いトレンチコート姿の謎めいた金髪美人が気になって仕方がない。
観終わってすぐ「すごい。こんな綺麗な逝き方ってそうあることじゃない」と、ただただ思った。愛もやさしさも、皮肉もユーモアも下品さも全部ひっくるめて、アルトマン監督の意思や情熱はあまりにも健全で独自の調和が美しく、後半から涙が止まらなかった。まるで監督自身が天使か妖精だったかのよう。私たちに必要なメッセージやキーワードをおしみなく授けて、《素晴らしい河岸》へと微笑んで渡っていったかのようだ。
キーラーの脚本には、アルトマンの思想や言葉がすばらしく生きている。ストリープが演じるヨランダが、自殺を詩に綴る愛娘(リンジー・ローハン)に語るシーンでは、人生哲学がさりげなく、はっきりと示される。「経験をまだ生かしきってないなら、自分にまだまだ可能性がある。だから絶望するな。閉まるドアもあれば開くドアもある。人生にムダはない。きっと道は開ける」。また「老人の死は悲劇ではない」という言葉には、「悲しんでくれるな」と、自分の死後に残された人々を思いやるかのようなアルトマンの広い愛を感じ、くらくらと眩暈がした。
淡々とした佳作にして、この上ない遺作。それでも往生際の悪い筆者は、まだまだアルトマンのつくる作品を観続けたかった(実際、監督は本作を遺作と思っていたわけではなく、次回の企画をいつも通り練っていたそうだ)。アメリカのトップ・アイドル、リンジー・ローハンを起用したこの作品が、監督を愛する映画好きの大人たちだけでなく、若い世代が観るきっかけとなることを祈る。アルトマン監督の思いができるだけ広い世代に、世界中の多くの人々に届きますように、と心から切に願う。
公開 | 2007年3月3日公開 銀座テアトルシネマ、Bunkamuraル・シネマほかにて全国ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2006年 アメリカ |
上映時間 | 1:45 |
配給 | ムービーアイ |
監督・脚本 | ロバート・アルトマン |
脚本・原案 | ギャリソン・キーラー |
原案 | ケン・ラズブニク |
出演 | メリル・ストリープ リリー・トムリン ギャリソン・キーラー ケヴィン・クライン リンジー・ローハン ウディ・ハレルソン ジョン・C・ライリー ヴァージニア・マドセン マヤ・ルドルフ トミー・リー・ジョーンズ |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。