酔いどれ詩人になるまえに

世界中のクリエイターたちが強力に支持する
作家ブコウスキーの自伝的小説を映画化。
退廃に反骨とユーモア、人肌のぬくもりを描く

  • 2007/07/13
  • イベント
  • シネマ
酔いどれ詩人になるまえに© 2005 Copyright Bulbul Film As/Factotum Inc

ショーン・ペンが自伝的映画の主演を1ドルで申し出て、U2のボノが一節を歌にし、トム・ウェイツに「最高だ」と言わしめる。現代アメリカ文学界で、その反骨精神とむき出しの率直な言葉によってカルトな人気を誇る詩人にして作家チャールズ・ブコウスキー。作家として認められる以前、酒びたりでアメリカを放浪した数年を基にした自伝的小説『勝手に生きろ!』を映画化。出演は俳優として再評価されているマット・ディロン、インディペンデント映画で活躍するリリ・テイラー。自称“作家”の男が酒を呑み、女と寝て、自作の詩や小説を出版社に送りつけては不採用、そしてまた酒を呑み…という退廃的な生活を描く。ゆる〜くビターでイタいながらも、どこか憎めずにブラックな笑いがこみあげてくる、味わい深い作品である。

ポツダム会談取材のため、ベルリンを訪れたアメリカ人記者のジェイクは、滞在中の運転手として当地に駐留する米軍兵士タリー伍長を紹介される。タリーが付き合っている売春婦レーナにせがまれ、国外脱出の一計を案じる中、レーナがジェイクの昔の情婦だったと知る。タリーはイギリスへ、ジェイクはアメリカへ、それぞれにレーナを連れ出そうと考えるが…。

酔いどれ詩人になるまえに

泥酔で18回、飲酒運転で2回の逮捕。運送業、タクシー運転手、ピクルス工場と何をしても続かずに職を転々とするヘンリー・チナスキー。バーで知り合った女、ジャンの部屋に転がり込み、自作の詩や小説を出版社に送り続けるがまったく認められない。呑んでは寝るという退廃的な生活を重ね、チナスキーが競馬で日銭を得るようになった頃、上昇志向のあるチナスキーと刹那主義のジャンは価値観のズレからかみあわなくなってくる。

自分は作家であるべきなのに誰からも才能を認められず、悶々としながら酒と女に溺れる日々。ダメダメの上塗りをのうのうと繰り返し、ブラックユーモアをそこかしこに含み、時たまスッと刺すような真理に近い言葉に迫る。反骨の人でありながら、小金が入ると仕立てのいいスーツと上等な葉巻、と上流のものを好んだりもする。作家として認められる前は小市民的な上昇志向や俗っぽさがあった、というところが微笑ましく、それを隠そうともしない率直さが胸に響く。

酔いどれ詩人になるまえに

フランシス・フォード・コッポラの『アウトサイダー』で一躍アイドルとして人気を博しながらも低迷し、脇役としてマイナーに活動しつつ、『クラッシュ』などここ数年の活躍で再評価されているディロン。俳優生活で認められない時期のあったことがチナスキーと重なる彼は、本作で人間臭い味な演技を披露。全米の批評家からも高評されている。またテイラーは、目の前の幸せだけを求めるジャンの純粋さと野太さを自然に演じ、作品の流れを支えている。

監督、プロデューサー、共同脚本を手がけたのは、本国ノルウェーやヨーロッパで認められているベント・ハーメル。ともするとスタイルだけの独りよがりで退屈な作品になりがちな内容でありながら、独特のゆるい間合いやブラックユーモア、自堕落でも憎めない人々の性格や生活をしみじみと描き、最後はブコウスキーのメッセージで締めるところがお見事。ラストがいきなりストレートすぎて気恥ずかしくもなるが、それもまたよし。監督が人間そのものを丸ごといとおしむ感覚が、じんわりと伝わってくる。挫折や失敗を味わってきた人間へのエールのような、ほろ苦くもぬくもりのある作品である。

作品データ

酔いどれ詩人になるまえに
公開 2007年8月18日公開
銀座テアトルシネマほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2005年 アメリカ+ノルウェー合
上映時間 1:34
配給 バップ+ロングライド
監督・脚本 ベント・ハーメル
制作・脚本 ジム・スターク
出演 マット・ディロン
リリ・テイラー
マリサ・トメイ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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