ブラインドネス

原因不明の感染によって人々が次々と失明。
隔離され、無法地帯となり、その果てに―?
根源的な人間のモラルを問うパニック・サスペンス

  • 2008/11/14
  • イベント
  • シネマ
ブラインドネス©2008 Rhombus Media/O2 Filmes/Bee Vine Pictures

ノーベル文学賞受賞作家ジョゼ・サラマーゴが1995年に発表した小説『白の闇』を、カナダ=ブラジル=日本の合作によるインディペンデントで映画化。出演は演技派のジュリアン・ムーア、舞台でも活躍するマーク・ラファロ、日本から伊勢谷友介と木村佳乃、ベテランのダニー・グローヴァー、若手のラテン系人気俳優ガエル・ガルシア・ベルナル。監督は『シティ・オブ・ゴッド』『ナイロビの蜂』で知られるブラジル出身のフェルナンド・メイレレス。突然視力を失う原因不明の感染症に侵された人々は、どこへ向かっていくのか。観る者に精神性やモラルの在り方を投げかける、ディープなヒューマンドラマである。

ある都市の街角、車の運転席で信号待ちをしていた日本人男性は、急に眼が見えなくなってしまう。その後、彼の車を盗んだ泥棒、彼が診察を受けた眼科医などが次々と失明。原因不明の“ブラインドネス(白の闇)”の感染防止対策として、政府は感染者たちを隔離施設に強制連行。感染した眼科医が収容される際、眼の見える妻が盲目のふりをして同行。感染者が次々と運ばれてくる中、不思議と感染しない眼科医の妻は眼が見えることを隠して、周囲の面倒を見る孤独な日々に。そんな中、施設内で自らを“王”と名乗る独裁者が現れ、人々を銃で脅して支配するようになる。

ガエル・ガルシア・ベルナル

もし自分が、愛する人たちが突然視力を失ってしまったら? 家族から引き離され、隔離され、共同体になり、やがて無法地帯になり、独裁者が現れ、対立が起こり…。非衛生的な環境、蔓延する絶望。人の本性がむき出しになっていくさまがとてもシビアに描かれていく。確かにパニック・ムービーなのだが、「薄っぺらいホラーやパニックものには絶対にしない」という製作側の明確な意思が伝わってくる、ストイックな仕上がりだ。

そもそも再三にわたる映画化の申し入れを「映画は想像力を破壊する」という理由から原作者のサラマーゴは断り続けてきたとのこと。しかし本作の脚本家ドン・マッケラーとプロデューサーのニヴ・フィッチマンは食い下がり、メジャー・スタジオが関与しないインディペンデントの手法で製作し、配役や撮影方法などが自由であることを熱心に伝え続け、サラマーゴの承諾を遂に獲得。メイレレス監督にオファーしたところ、監督も以前から『白の闇』の映画化を考えていたというから面白い。そして製作にあたり、“視覚障害者ワークショップ”にキャストはもちろん監督をはじめ主要スタッフも参加。独特のリアリティを感じさせる、白い影がゆれる失明した人々の視界イメージを生み出したという。

伊勢谷友介、木村佳乃、ジュリアン・ムーア

眼が見えないフリをしながらも、夫や人々を献身的に支えていく女性をムーアが好演。ボロボロの憔悴しきった様子もありのままに伝える女優魂はさすが。失明しても人間性を必死で保とうと努力する医師の夫をマーク・ラファロが、最初に失明する日本人の男を伊勢谷友介が、その妻を木村佳乃が好演。留学経験のある伊勢谷と木村は流暢な英語で物語に自然に溶け込んでいる。本作の脚本家であり俳優でもあるマッケラーは泥棒役で出演。ペルナルは本当に憎らしく思えるほどの横暴な独裁者をストレートに表現。目の不自由なアーティストであるスティービー・ワンダーの名曲「I Just Called to Say I Love You」をペルナルが皮肉たっぷりに歌うシーンも。
 とある国のとある街。すべての登場人物に名前も経歴もない。いつでもどこでも誰にでも起こりえる物語。もし極限まで追い詰められたら、自分は人間性や秩序を保っていられるだろうか? 静かに問いを投げかける作品である。

作品データ

ブラインドネス
公開 2009年11月22日公開
丸の内プラゼールほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2008年 カナダ・ブラジル・日本合作
上映時間 2:01
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
監督 フェルナンド・メイレレス
脚本 ドン・マッケラー
原作 ジョゼ・サラマーゴ
出演 ジュリアン・ムーア
マーク・ラファロ
アリス・ブラガ
伊勢谷友介
木村佳乃
ダニー・グローヴァー
ガエル・ガルシア・ベルナル
モーリー・チェイキン
ミッチェル・ナイ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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