私の中のあなた

ドナーとして創られた子供が反乱を起こしたら――
白血病の娘をめぐる家族たちの闘いと絆を描く。
サスペンスにしてホームドラマである感動作

  • 2009/10/02
  • イベント
  • シネマ
私の中のあなた© MMIX New Line Productions,Inc.All Rights Reserved.

白血病の姉のため、パーフェクトなドナーとして遺伝子操作で生まれてきた妹。11歳になった妹は、ドナーとなることを拒否して両親を提訴した――。アメリカの女流作家ジョディ・ピコーが’04年に発表したベストセラー『MY SISTER’S KEEPER(邦題:わたしのなかのあなた)』を映画化。出演は人気女優のキャメロン・ディアス、11歳でオスカーにノミネートされたアビゲイル・ブレスリン、監督は『きみに読む物語』のニック・カサヴェテス。静かなサスペンスであり明るいホームドラマであり、心をゆさぶる人間ドラマでもある。趣と重さのある、色彩豊かな感動作である。

白血病を患う姉ケイトの症状がじわじわと悪化してきた頃。完璧なドナーとして遺伝子操作で生まれたデザイナーベビーの妹アナは、「もう姉のために手術を受けるのはイヤ」と有名な弁護士のアレグザンダーに依頼して両親を提訴。弁護士のキャリアも捨てて、ケイトを治すことだけにすべてを捧げてきた母親のサラは激怒。父ブライアンはアナを理解しようと心を砕き、兄弟のジェシーは幼い頃からの孤独を昇華しながら傍観者に。ケイトは自分の病気のせいで家族が壊れてしまうのはイヤだと思っている。そんな折、アナの提訴による裁判が開廷。訴えられた母サラは弁護士として、自分で自分の弁護を担当。11歳の娘と実母が法廷で対立することになる。

ジェイソン・パトリック、キャメロン・ディアス、ソフィア・ヴァジリーヴァ

最新医療の倫理を投げかけ、10代の重病患者の青春と闘いを映し、家族の強くあたたかい絆を描き、法廷の争いの果てに迎える結末とは。家族に病人がいる独特の空気が大仰すぎることなくフラットに、やさしくもシビアに描かれているところが胸に響く。家族はいつも悲壮というわけでは当然なく、日常は普通にあって、冗談を言えばレジャーもするし、ケンカしたり仲直りしたりの平凡で幸せな生活を送っている。ただ、“最悪の事態”がいつ引き起こされてしまうのか、という思いが常に心のどこかにある、ということ。実生活で父として、心臓病の娘を育ててきたカサヴェテス監督だからこそ、原作の本質的な要素をくっきりと映像化できたのかもしれない。

ディアスは病気の娘のために闘う母サラをほぼノーメイクで熱演。初めての母親役であり、スキンヘッドにするシーンもあり、さまざまに話題を集めている。ブレスリンは提訴に立ち向かうアナをひたむきに表現。重病の姉を見捨てて自分が生きることを訴えるという難しい役ながら、観客に憎まれずに引きつけていくところに確かな存在感を感じる。ケイト役はソフィア・ヴァジリーヴァ、アレグザンダー弁護士役をアレック・ボールドウィン、父親にジェイソン・パトリック、女判事にジョーン・キューザックと実力派が顔をそろえている。

アビゲイル・ブレスリン、ソフィア・ヴァジリーヴァ、エヴァン・エリングソン

アメリカの人気作家である原作者のジョディ・ピコーは、自身も三児の母とのこと。本作をはじめ『すべては遠い幻』『偽りをかさねて』などのベストセラーがあり、作品がTVや映画で映像化されていることでも知られている。

ソフィア・ヴァジリーヴァ、アビゲイル・ブレスリン

家族ひとりひとりの視点から丁寧に描かれていく人間ドラマ。個人的には、女性判事とアナが交わす静かな会話に打たれた。アナの心がスッと見える瞬間である。そして映画の結末と原作の結末が表面的には決定的に違うことについては、思うところが山ほどある。が、ネタバレを避けるためにおさえて、このふたつだけ。きっとカサヴェテス監督は、ケイトとアナというキャラクターを実の娘のように愛している。ある意味、原作と映画それぞれの結末はそれほどかけ離れてはいないようにも思える。重いテーマを軸にすえつつ、人が生きていくために必要な力強い希望がわかりやすく示されている作品。一人で泣くもよし、皆で議論するもよし。心を波立たせる何かに、本作で触れてみてはいかがだろう。

作品データ

私の中のあなた
公開 2009年10月9日公開
TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 1:50
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
監督 ニック・カサヴェテス
脚本 ジェレミー・レヴェン
ニック・カサヴェテス
原作 ジョディ・ピコー
出演 キャメロン・ディアス
アビゲイル・ブレスリン
アレック・ボールドウィン
ジェイソン・パトリック
ソフィア・ヴァジリーヴァ
へザー・ウォールクィスト
ジョーン・キューザック
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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