ステキな金縛り

殺人事件の唯一の証人は落ち武者の幽霊だった――
崖っぷち弁護士エミは被疑者の無実を証明できるのか!?
法廷モノにしてホラー、コメディから感動まで小気味良く

  • 2011/09/16
  • イベント
  • シネマ
ステキな金縛り© 2011 フジテレビ 東宝

三谷幸喜の脚本・監督による最新作。出演は深津絵里、西田敏行、阿部 寛、竹内結子、浅野忠信、中井貴一ほか主役クラスの有名俳優が多数出演。三流弁護士エミは、殺人容疑をかけられた男の弁護をすることに。男の無実を証明する唯一の証人は、事件当日に男を金縛りにかけていた幽霊だった――。法廷ミステリーでホラーでコメディ、ヒロインの成長物語にして人情や絆もくっきりと描く。観終わるとやさしい気持ちになるような、見どころ満載の良作である。

ドジで失敗ばかりの崖っぷち弁護士エミは、殺人容疑をかけられた男の弁護をすることに。資産家の妻殺しの容疑者である矢部五郎は、事件当夜、“旅館で落ち武者の幽霊にのしかかられ、金縛りにあっていた”と自らのアリバイを主張。この奇天烈な案件で、事務所のボスから結果を出すように言われたエミは、アリバイの裏取りをするべく矢部の宿泊した旅館「しかばね荘」へ。宿の主人や女将に話を聞き、矢部が宿泊した部屋で就寝したエミは、首尾よく金縛りに。エミは目の前にのしかかる落ち武者に気合で向き合い、裁判で証言するように直談する。

誰にでもわかりやすく楽しめる、思いやりのあるエンターテインメント。そもそも三谷氏が“幽霊が証人として法廷の証言台に立つ”というエピソードを思いついたのは今から10年以上前、’01年の映画『みんなのいえ』を撮り終わった後だったとのこと。それから映画の企画会議でそのアイディアを何度か提案したものの、法廷モノは“相当な演出技術が必要なので時期尚早”として見送られ、5作目の監督作品にして今回ようやく実現したそうだ。主人公は当初、男性の設定だったものの、本作が三谷映画で初となる女性の主人公となった理由は、観客が物語に入りやすくるすためとのことだ。

中井貴一、西田敏行、深津絵里

ドジでひたむきな弁護士の宝生エミ役は、深津絵里がかわいらしく。シリアス〜コメディ〜ヒューマンと、さまざまな要素をちりばめて展開していくなかで情感の表現が歯切れよく、ありえないはずの物語に観客を巻き込んでゆく。落ち武者の幽霊、更科六兵衛役は西田敏行がコミカルに。尊大に愉快にふるまい、物語を盛り上げている。エミの事務所のボス速水役は阿部 寛が飄々と、エミと対立する現実主義者の敏腕検事・小佐野徹役は中井貴一が真面目一徹を貫こうとし、双子の姉妹である矢部鈴子役と日野風子役は竹内結子が一人二役でクラシックな女優風に、風子の夫である日野 勉役は山本耕史がいかにも女たらし風に演じている。そして陰陽師の阿倍つくつく役に市村正親、歴史学者の木戸健一役に浅野忠信、エミが幼い頃に他界し人権弁護士として有名だった父・宝生輝夫役に草g 剛、容疑者の矢部五郎役にミュージシャンのKAN、謎の男・段田譲治役に小日向文世、エミと同棲中の役者・工藤万亀夫役に木下隆行(TKO)、法廷画家の日村たまる役にベテランの山本 亘が。また三谷作品でおなじみの小林 隆、戸田恵子、浅野和之、梶原善、阿南健治、近藤芳正ら実力派が脇をかため、スクリーンの隅々までぬかりないところがいつもながら小気味が好い。ちょい役で生瀬勝久、深田恭子、唐沢寿明、エンドロールの写真にだけ大泉 洋が登場し、’08年の三谷映画『ザ・マジック・アワー』のキャラクターである俳優・村田大樹役で佐藤浩市が、’06年の三谷映画『THE有頂天ホテル』のキャラクターのコールガール、ヨーコ役で篠原涼子が現れる、というプチサプライズも効いている。

本作では、これまでの三谷映画の特徴のひとつであるワンシーンワンカット(カットを割らずに、1台のカメラの視点から1シーンを撮影)にこだわらず、カット割りを多用。三谷氏は語る。「自分は舞台からきた人間だから、映像テクニックよりは、俳優さんの芝居をちゃんと見せるほうが向いてるなと思って、これまでワンシーンワンカットを多用して映画を作っていたんですよね。でも、“カットを割る”ことでも、同じ効果がでるんじゃないかと思って。弁護士、裁判官、検察官、被告人が対峙し合う法廷ドラマは、そもそもカットを割らないと撮れない。だからこれは自分への挑戦でもあるんです」。

深津絵里、西田敏行、阿部 寛

劇中とエンドロールに流れる本作の主題歌「ONCE IN A BLUE MOON」は、三谷氏が作詞を担当。エミと六兵衛のつながりを歌いつつも、普遍的なラブソングになるように心がけたそう。透明感のある愛らしい歌声の深津絵里とミュージカルでも知られる西田敏行がデュエットし、中井貴一、阿部 寛、KAN、小林 隆ら“法廷ボーイズ”がコーラスで参加。ミュージカルムービーの名曲を彷彿とさせる、ロマンティックなメロディが心地よい。余談ながら、映画の冒頭部分に流れる賛美歌風の楽曲に、なんちゃってラテン語の歌詞をつけたのも三谷氏とか。

小日向文世、深津絵里、西田敏行

421年前に死んだ武士の幽霊から死後の魂、現世ではない異界にまつわることにサラリと触れている本作。個人的には、非科学的なことを受け入れ難い人たちにもそれなりに納得できるように、スピリチュアルがらみの表現について、理屈の裏づけを明確に整然と示すところにグッときた。科学では解明できない曖昧な神秘のあたりを、深刻すぎず軽んじすぎず、キャラクターの妙で笑いや感動に落とし込むあたり、三谷さんは人を説得することに長けていらっしゃる、としみじみ。本作について三谷氏は、「当初の予定では、最後にちょっとだけ感動できる映画にしようと思っていたのですが、試写会では、ラストシーンで泣いてしまうお客さんが続出。かなりの感動大作になりました」と“嬉しい誤算”があったともコメントしている。この映画のクランクアップは東日本大震災が起こる前の’10年7月であり、“今の日本”に向けて作られたものではないはずで。なのに不思議と、今の日本人の心にしみるものがあり、直球すぎない分、素直に癒されたり元気になれたりもする。三谷氏の脚本と演出、豪華キャストの化学反応のスパークはよりいっそう強く。キラキラと明るく瞬(またた)いている。

作品データ

ステキな金縛り
公開 2011年10月29日公開
全国東宝系にて全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 日本
上映時間 2:22
配給 東宝
脚本・監督 三谷幸喜
出演 深津絵里
西田敏行
阿部 寛
竹内結子
浅野忠信
中井貴一
市村正親
小日向文世
小林 隆
KAN
木下隆行(TKO)
山本 亘
山本耕史
戸田恵子
浅野和之
生瀬勝久
梶原 善
阿南健治
近藤芳正
佐藤浩市
深田恭子
篠原涼子
唐沢寿明
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。