ジョージ・クルーニー×アレクサンダー・ペイン
ハワイの原風景と伝統的なサウンドに包まれて
命と家族と土地、継がれてゆくものを描く上質なドラマ
ハワイの原風景と伝統的なサウンドに包まれて、命と家族と土地、継がれてゆくものたちを丁寧に映し出す。2004年の第77回アカデミー賞にて脚色賞を受賞した映画『サイドウェイ』のアレクサンダー・ペインが監督・脚本・製作を手がける家族のドラマ。出演はオスカー俳優であり近年は監督や脚本も手がけるジョージ・クルーニー、アメリカの人気ドラマシリーズ『ザ・シークレット・ライフ・オブ・ジ・アメリカン・ティーンエージャー』でブレイクした若手女優シャイリーン・ウッドリー、オーディションで300人以上のなかから選ばれた9歳のアマラ・ミラー、自ら監督にテープを送って売り込み、オーディションを経て役を勝ち取った若手俳優のニック・クラウス、ベテランのボー・ブリッジスほか。オアフ島で暮らすマット・キングは、妻が事故で昏睡状態に陥ったことにより生活が一変。人生の葛藤と苦闘を、情けなさと悲哀とユーモアをもって描いてゆく。うしなわれるもの、続いてゆくもの、生きていくために必要なこととは。大きなやさしさがゆっくりと胸に広がる、上質なヒューマンドラマである。
オアフ島で美しい妻と2人の娘、たくさんの親類とともに順調な人生をおくってきた弁護士のマット・キング。彼の生活は突然の事故で妻エリザベスが昏睡状態に陥ったことにより一変する。妻任せにしていた娘たち、反抗的な高校生の長女アレックスと生意気盛りの10歳の次女スコッティとは、どう向き合えばいいのかすらわからない。そのうちに思いもよらなかった妻の秘密が発覚。混乱で動揺するなか、カメハメハ大王の血をひくマットは、祖先より受け継いだカウアイ島の広大な原野を売却するか否か、親族を代表して決定するという重大な決断が迫られていた。
生きていくということは、情けなくも哀しく、なかなかにいとおしい。善か悪か、良いか悪いか、感情は単純に線引きできるものじゃない。その不可思議で曖昧な、予測できないオフビートのニュアンスを紡ぎだす、ペイン監督の手腕が本作でも冴え渡っている。仕事人間の父親が必死で家族と向き合おうともがく姿、いまどきの軽薄な若者が実はそれだけではないとスイッチする瞬間、家族がひとり生活から欠けることにより変化していく関係性……さまざまな心の交流が、ひとつひとつ丁寧に描かれてゆく。
父親マット役はクルーニーが情けない雰囲気で好演。弁護士として親族の長として立場も実力もありながら、家族の中では妻や娘に振り回される様子をユーモラスに演じている。クールでセクシーなクルーニーも、動きや服装でイケてない中年に。ある事実を知って猛然と走り出すシーンでは、運動不足の中年らしいドタドタ走りで、哀愁と笑いを誘う。運動神経のいいクルーニー本人は当然、格好よく颯爽と走れるわけだが、モッタリとダサダサな風合いを上手くだせるあたりがいい。長女アレックス役はウッドリーが、強気でしっかり者のティーンらしさをさっぱりと、映画出演は今回が初めての次女スコッティ役のミラーは自然な様子で小生意気にかわいらしく、アレックスの彼氏シド役のクラウスはおバカなだけじゃない隠し味もさりげなく、マットの従兄弟ヒュー役はブリッジスがおおらかに、ある男の妻ジュリー役はジュディ・グリアが真面目でもどこかズレた様子で、それぞれにいい味わいで演じている。
舞台は一家が暮らすオアフ島から、アレックスの高校のあるハワイ島、そしてある目的のために家族旅行もかねてカウアイ島へ。ハワイの主な4島の中で最古の島、カウアイ島では、広大な原野や美しい砂浜など手つかずの自然が映し出されている。マットたち家族はハワイ史の始まりの地であるこの島で、一族の継いだ土地に臨み、自分たちのルーツと結びつきを全身で受けとめる。
また大自然に溶けていくかのような、ゆったりとした響きのハワイアン・サウンドも本作の魅力のひとつ。とても厳しいテーマを内包するストーリーながら、おだやかな明るいサウンドがその重さをやわらげている。サウンド・トラックには、数10年前から今も愛され続けている伝説的な大物から、現在も活躍中のアーティストまで実力派の演奏を選曲。スラック・キー・ギター(ハワイで生まれたといわれるオープン・チューニングによる奏法)の大御所ギャビー・ハピヌイとサニー・チリングワース、かのサーフィン映画『ビッグ・ウェンズデイ』(1978年)で使用された曲「Only Good Times」で知られるケオラ・ビーマーほかたくさんのアーティストが参加。ハワイ最高のディーバのひとりと称されるレナ・マシャードが歌う「Mom」、ハワイアン・スティール・ギターの名手ソル・フーピー率いるバンドSol Hoopii's Novelty Trioの演奏による「Ka Mele Oku'u Puuwai (78rpm Version)」など、古きよきアコースティックな質感のあるサウンドも。4月4日に発売予定の本作のサウンドトラック(日本盤)は、ハワイ音楽の良質なコンピレーションとなっている。
7年ぶりにペイン監督が手がけた本作。そもそものきっかけは、ハワイの女性作家カウイ・ハート・ヘミングスが’07年に発表したデビュー小説『The Descendants』を読み、人生で最も難しい決断を迫られた男の物語に惹かれた、とのこと。原作者のヘミングスはもともとペイン監督のファンだったそうで、彼女もまた監督の書いた脚本に感動したとも。ヘミングスは執筆の段階からマット役にクルーニーをイメージしていたそうで、彼女にとって理想的な映画化となったようだ。本作の製作に際してヘミングスは全面的に協力し、ハワイ文化や風習に対するアドバイザーを務め、劇中ではマットの秘書役でほんのすこし出演も。
何があっても人は必ず立ち直ることができる。真摯なテーマをユーモアのセンスでやさしく彩り、“生きる力”を信じさせてくれる本作。アカデミー賞はこういう作品にこそ受賞してもらいたい、とアカデミー会員の多くも思うのでは。とはいえ受賞いかんにかかわらず、作品の堂々たる魅力そのものは絶対的だ。本作の原題は小説のファミリー・ツリーのまま『The Descendants(末裔たち)』。時が移り、先の世代が観ても同じ感動を共有できるだろう、普遍的なテーマを丁寧に練り上げた良作である。
公開 | 2012年5月18日公開 TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2011年 アメリカ |
上映時間 | 1:55 |
配給 | 20世紀フォックス映画 |
原題 | The Descendants |
監督・脚本・製作 | アレクサンダー・ペイン |
脚本 | ナット・ファクソン ジム・ラッシュ |
原作 | カウイ・ハート・ヘミングス |
出演 | ジョージ・クルーニー シャイリーン・ウッドリー ボー・ブリッジス ジュディ・グリア アマラ・ミラー |
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