ヒューゴの不思議な発明

“特撮映画の父”ジョルジュ・メリエスの実話を生かし、
孤独な少年ヒューゴの心の交流を描くヒューマンドラマ
映画への愛と情熱に満ちたスコセッシ監督初の3D大作

  • 2012/03/02
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2012年の第84回アカデミー賞授賞式にて、最多5部門を受賞(撮影賞、美術賞、視覚効果賞、録音賞、音響効果賞)したマーティン・スコセッシ監督の最新作。出演はスコセッシが主役に大抜擢したイギリス出身の子役エイサ・バターフィールド、’10年の映画『キック・アス』のキュートな演技で注目されたクロエ・グレース・モレッツ、人気俳優のジュード・ロウ、ベテランのベン・キングズレー、’06年の映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』の制作・原案・脚本・主演で話題となったサシャ・バロン・コーエン、名優クリストファー・リーほか実力派の俳優が集結。製作にジョニー・デップが名を連ねる。1930年代のパリを舞台に、映画創世記の時代を築いたひとりの重要な映画作家ジョルジュ・メリエスの実話を取り入れ、孤独な少年ヒューゴが人と出会い、だんだんと心が彩られていくさまを描く。映画への愛と情熱がたっぷりと込められた、スコセッシ監督初の3D大作である。

1930年代のパリ。少年ヒューゴは駅の時計台に1人で隠れて暮らしている。ただ1人の家族だった父を亡くし、時計修理工のおじにひきとられて駅の時計台で一緒に暮らし始めるも、おじも姿を消したのだ。ある日ヒューゴは、駅の構内のおもちゃ屋でぜんまい仕掛けのネズミを盗もうとする。が、店主のジョルジュに見つかり、大事にしていた父の形見のノートまで取り上げられてしまう。そこには、ある機械人形の修理方法が記されていた。

「ずっとやりたいと思っていた。3D撮影は私の夢だった」と語るスコセッシの3D映像は、空からふわふわと舞い散る雪や、空中に舞い上がる紙や埃、天空から駅のホームに鳥の視点で舞い降りるマジカルなショットなど、どこかロマンティックなシーンが印象的。3Dが近未来的にではなく、ファンタジックな視覚効果として活用されている。スコセッシは語る。「何年も前から、3D撮影に興味をもっていたんです。3D撮影のテストでは、まるで役者がそこにいて、触れることができるような効果に感激しました。本作では、画面に映るあらゆるものを3D撮影用にデザインしています。観客はまるでスノードームの中にいるような気持ちになることができるんです」。 映画『アバター』のジェームズ・キャメロン監督からは、「マスターピース(最高傑作)! 構成、色彩、そしてストーリー。かってない最高の3D表現で描かれた作品。家族でそして映画ファンがそろって楽しめるスコセッシ監督作品が誕生した」と絶賛されたそうだ。

ヒューゴの不思議な発明

孤独な閉ざされた世界から、少しずつ心を開いていく少年ヒューゴ役はバターフィールドが好演。おもちゃ屋の店主ジョルジュの養女イザベル役は、モレッツが天真爛漫に生き生きと。2人は相性とバランスが良く、観る側の共感を引き出すかわいらしい組み合わせだ。頑固で厳しい店主ジョルジュ役はキングズレーが物悲しい様子で、不審者や浮浪児を排除しようと常に目を光らせる鉄道公安官役はコーエンが独特の存在感で、本屋のムッシュ・ラビス役はリーがゆったりと見守る風情で、ジョルジュの妻ジャンヌ役はヘレン・マックロリーがしっかり者の感覚で、ヒューゴの父親役はロウがあたたかみのある雰囲気で、それぞれに味わい深く演じている。

劇中で描かれているジョルジュ・メリエスに関するエピソードはほとんどが実話とのこと。メリエスは1895年に世界で初めて映画を作ったフランスのオーギュストとルイのリュミエール兄弟による作品に感動し、映画製作を開始。もともとマジシャンだった彼の初期の作品は、マジック・ショーを映像で再現しただけだったものの、そのうちストーリーや独自のアイディアによる編集技術を開発して取り入れるように。なかにはストップ・モーションや多重露光、手描きの色彩やコマ抜き撮影などの特殊効果もあり、映画に物語やSFXを最初に取り入れた“特撮映画の父”とも呼ばれている人物だ。スコセッシは語る。「メリエスのすごいところは、我々が現在やっていることのほぼすべてを研究し発明したことだ。彼の作品は’30〜’50年代のSFやファンタジー映画から、ハリーハウゼン、スピルバーグ、ルーカス、ジェームズ・キャメロンの映画にいたるまでの作品と、ずっと一本の線でつながっている。我々がコンピューターやグリーン・スクリーン、デジタルを使っていることを彼は自分のカメラとスタジオでやっていたんだ」。メリエスは傑作として名高い、1902年に製作された14分の作品『月世界旅行』をはじめ、1896〜1914年の間に500本以上の映画の脚本、監督、出演、製作、デザインを手がけたとのこと。内容はノンフィクションからSFやファンタジーまで、幅広いものだったそうだ。

ヒューゴの不思議な発明

本作の原作は、アメリカの作家でありイラストレーターであるブライアン・セルズニックが’08年に発表した物語『ユゴーの不思議な発明(原題:The Invention of Hugo Cabret)』。同年に児童図書館協会が“最優秀アメリカ児童書”として優れた絵本に授与する、コールデコット賞を受賞。約160枚のイラストを大胆に用いて、文章のみのページが続いたり数行のみのページが現れたり、独特のリズムのある実験的な構成で、子どもから大人まで年齢性別国籍を問わず、わくわくさせる仕組みとなっている。この物語を“ある人の機械人形が実在した”という事実にインスパイアされて執筆したことについて、セルズニックは語る。「’03年にゲイビー・ウッドの『生きている人形(Edison's Eve:A Magical History of the Quest for Mechanical Life)』を読んだ時、あの人の機械人形(動力は内部の時計仕掛け)のことが書かれていました。それはパリの美術館に寄贈されたのですが、湿気の多い屋根裏部屋に放置されたまま、捨てられたのです。わたしはふと、この錆びて壊れた人形たちを見つける少年を想像しました。その瞬間、ユゴーとユゴーの物語が生まれたのです」。

ヒューゴの不思議な発明

ヒューゴは機械人形を再び動かすことができるのか。機械人形の謎とは? 人との結びつき、本当に大切なもの、家族について。マフィアの抗争や激しいバイオレンスを描くこれまでの主なスコセッシ作品とは異なり、少年時代から映画を愛する自らのルーツそのものを映すかのような本作。監督は本作について、「個人的な、特別な思い入れのある作品」と語り、「12歳になる娘と、彼女の友人たちの行動や視点から影響を受け、彼女たちのように物事を見ることで得た、自由な考え方によって生まれた作品だからです」とコメントしている。ひとりの少年の物語に始まり、現代の映画の発展につながるメリエスの半生を、今を生きる人たちに伝え、映画を文化として大切にしていくという意思が伝わってくる。スコセッシ監督の“映画愛”に満ち満ちた世界へ、いざ。

作品データ

ヒューゴの不思議な発明
公開 2012年3月1日公開
TOHOシネマズ 有楽座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 アメリカ
上映時間 2:06
配給 パラマウント ピクチャーズ ジャパン
原題 HUGO
監督・製作 マーティン・スコセッシ
脚本 ジョン・ローガン
原作 ブライアン・セルズニック
製作 グレアム・キング
ティム・ヘディントン
ジョニー・デップ
出演 エイサ・バターフィールド
クロエ・グレース・モレッツ
ベン・キングズレー
サシャ・バロン・コーエン
クリストファー・リー
ジュード・ロウ
ヘレン・マックロリー
レイ・ウィンストン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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