ミッドナイト・イン・パリ

ウディ・アレン42作目にして自己ベスト更新!
愛と人生に迷う男がパリで見出したものとは?
ハッピーで軽妙洒脱なロマンティック・コメディ

  • 2012/04/27
  • イベント
  • シネマ
ミッドナイト・イン・パリPhoto by Roger Arpajou © 2011 Mediaproduccion, S.L.U.,Versatil Cinema, S.L.and Gravier Productions, Inc.

ウディ・アレンの42作目にして、1986年の映画『ハンナとその姉妹』を超える自己最高の興行成績をマークした最新作。出演はメジャーでもインディペンデントでも活躍するオーウェン・ウィルソン、’09年の映画『シャーロック・ホームズ』のレイチェル・マクアダムス、イギリスの演技派俳優マイケル・シーン、3人のオスカー俳優キャシー・ベイツ、マリオン・コティヤール、エイドリアン・ブロディ、そしてもとスーパーモデルで現在もシンガーとして活動しているフランスのサルコジ大統領夫人カーラ・ブルーニほか、華やかな顔合わせで。婚約者とともに憧れのパリを訪れたアメリカ人の映画脚本家ギルは、思いがけず不思議な体験をすることに。カフェで語りワインを飲み、ダンスをして恋をする。パリの魅力をそのまま映画にしたかのような、粋で楽しいロマンティック・コメディである。

ハリウッドの売れっ子脚本家ギルは、婚約者イネズの父親の出張旅行に便乗して念願のパリ旅行へ。ビバリーヒルズに豪邸を難なく購入できるほど高額所得者であるギルは今の生活より、作家に転身してフランスに移住したいとイネズに伝えるも、お嬢様で現実主義者のイネズは、マリブの裕福な生活がいいと相手にしない。ある日、イネズが友人のポール夫妻と踊りに行くというので、ギルはホテルまで1人で歩いて帰ろうとするが道に迷う。0時の鐘が鳴るなかクラシックなイエローのプジョーが走ってきて、見知らぬ紳士に誘われるまま、ギルは車に乗り込みパーティへ。そこで出会ったアメリカ人の男女は、スコット&ゼルダ・フィッツジェラルドと名乗り、このパーティの主催者はジャン・コクトーだと告げる。いつの間にかそこは、ギルが愛してやまない1920年代のパリだった。

ミッドナイト・イン・パリ

オープニングから1曲分まるまる、晴天〜雨のパリの街を歯切れよく描写。パリの魅力を称えるプロモーションビデオのような、かわいらしい幕開けから始まる本作。観客から批評家まで大勢を魅了し、2012年の第84回アカデミー賞では脚本賞を受賞。古きよき時代として1920年代を映し、作家ではF・スコット&ゼルダ・フィッツジェラルド夫妻やアーネスト・ヘミングウェイ、批評家や目利きとしても知られるガートルード・スタイン、画家のサルバドール・ダリやパブロ・ピカソ、作曲家で作詞家のコール・ポーターなどなど、往年の有名な作家や芸術家たちが冗談のように次々と登場。あえての盛りすぎ感がなんとも可笑しい。

婚約者イネズを愛しながらも、どこかかみあわずに古い時代に思いを馳せるギル役は、ウィルソンが好演。社会的に成功しつつも葛藤と違和感を内包し、どこかアレン本人を彷彿とさせるキャラクターを自然体で演じている。快活で気の強い婚約者イネズ役はマクアダムスが、いかにもアメリカ人女性らしくクッキリと。ギルに助言を与えるガートルード役はベイツが知的に、美女アドリアナ役はコティヤールがミステリアスに、F・スコット&ゼルダ・フィッツジェラルド夫妻はトム・ヒドルストンとアリソン・ピルが陽気に、そして美術館のガイド役でブルーニがさらりと出演している。

ミッドナイト・イン・パリ

アレンが初めて全編パリで撮影したという本作のもうひとつの主役は、ノスタルジックなパリの街。エッフェル塔、オランジュリー美術館、ロダン美術館、ジヴェルニーのモネの庭園、ヴェルサイユ宮殿といういわゆる観光名所はもちろん、マルシェ・ポール・ベール(蚤の市)やシェイクスピア・アンド・カンパニー書店、セーヌ左岸でブキニスト(古本屋)が並ぶラ・トゥルネル河岸などアート系や地元の人々に愛される場所も多数。また伝統的な一流ホテル「ル・ブリストル」や、名士や著名人たちが通ったエピソードで知られる老舗の高級レストラン「マキシム・ド・パリ」などの人気スポットもいろいろと。スクリーンを眺めながら、パリを旅しているかのような感覚が楽しめるところも好い。アレンは語る。「もし、ニューヨークに住んでいなかったとしたら、僕が一番愛する街はパリだよ。僕は僕の方法でパリを撮るし、別の監督ならその人の方法になる。誰かがパリを撮ると、まったく違った風になるんだ。僕はあの街を、僕の気持ちを反映した“僕のやり方”で見せたいね」。

ミッドナイト・イン・パリ

自分らしい幸せは、誰でも見つけることができる。パリのすべてを味わうかのように街をめぐり、街に惹かれて集う芸術家たちと邂逅する。それでいて「あの頃はよかった」という懐古主義に終わらず、説教もストレスもなく、今を生きる人たちに「こんな風に生きたら楽しいよね」と軽やかに投げかける本作。“アレンのコメディ作品の深部には暗いテーマが流れている”といわれること、そして本作についてアレンは答える。「それは僕の映画が、僕自身の人生や考えをなぞって作られているからじゃないかな。でも今回に関していうと、そういうものはぜんぜん表立っていなくて、ちょっとした小さなテーマにとどまっている。この映画に反映されていることは、ずっとロマンティックで軽いものだよ」。現在76歳のアレンは、ジョン・タトゥーロが監督を務めるコメディ映画『Fading Gigolo』に自作以外では10年以上ぶりに俳優として出演し、監督としては’12年6月にアメリカ公開を控えた最新作『To Rome with Love』、日本でも’10年に製作された映画『You Will Meet a Tall Dark Stranger』が今秋に公開予定。尽きることのない制作意欲とますます深みを増す表現力に、今後も目が離せない。

作品データ

ミッドナイト・イン・パリ
公開 2012年5月26日公開
新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 スペイン・アメリカ合作
上映時間 1:34
配給 ロングライド
原題 Midnight in Paris
監督・脚本 ウディ・アレン
出演 オーウェン・ウィルソン
キャシー・ベイツ
エイドリアン・ブロディ
マリオン・コティヤール
レイチェル・マクアダムス
マイケル・シーン
カーラ・ブルーニ
トム・ヒドルストン
アリソン・ピル
コリー・ストール
レア・セドゥー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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