ラム・ダイアリー

ジョニー・デップが製作・主演、サウンドトラックに参加
彼の敬愛するジャーナリスト故ハンター・S・トンプソン原作
1960年の南米で人生と恋に酔い惑い、道を見出す男の姿を描く

  • 2012/06/15
  • イベント
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ラム・ダイアリー© 2011 GK Films, LLC. All Rights Reserved.

ジョニー・デップが製作・主演をつとめ、ジャーナリストの故ハンター・S・トンプソンの原作を映画化。出演はデップ、注目の美人女優アンバー・ハード、『ダークナイト』のアーロン・エッカート、演技派のベテラン、リチャード・ジェンキンス、TVや舞台でも活躍するマイケル・リスポリほか。監督・脚本は’84年の映画『キリング・フィールド』のブルース・ロビンソンが約20年ぶりにメガホンをとる。1960年の南米プエルトリコを舞台に、ニューヨークから渡ってきたジャーナリストが大きな利権や危険な恋に巻き込まれてゆく姿を描く。のん気で怠惰、どこかプリミティブな残酷さを含む南国特有の雰囲気のなか、甘く重く濃厚に広がるヘビー・ラムの香りを感じさせるようなドラマである。

1960年、ジャーナリストのポール・ケンプはニューヨークの喧騒から逃れ、南米プエルトリコのサンフアンへ。ラム酒と南米の空気に浸かりきっているカメラマン、ボブ・サーラと意気投合し、地元紙で記事を書きながら、部屋をシェアして暮らすように。ある日ケンプは、挑発的な美人シュノーと出会い強く惹かれるも、彼女はアメリカ人の企業家で地元の有力者でもあるサンダーソンの婚約者だった。そしてサンダーソンはケンプを利用しようと、事業パートナーたちと引き合わせるべく自宅へと招待する。

本作の主人公ケンプのモデルは、原作者であり“ジャーナリズム界のロックスター”こと故ハンター・S・トンプソン。デップは彼をとても敬愛しているそうで、これまでにトンプソン原作で映画化した『ラスベガスをやっつけろ』(’98年)に主演し、トンプソンのドキュメンタリー映画『GONZO〜ならず者ジャーナリスト、ハンター・S・トンプソンのすべて〜』(’08年)ではナレーションを担当。本作は’04年にデップが設立した製作会社“インフィニタム・ニヒル”のデビュー作となっている。

アンバー・ハード、ジョニー・デップ

デップは自分の文体を模索するジャーナリストのケンプ役を、彼らしい独特の存在感で表現。ユーモアとシリアスを小気味よく行き来し、スリリングな恋の駆け引きなど、デップの持ち味がよく活かされている。カメラマンのボブ役はリスポリが陽気さと諦めの入り混じる風情で、地元紙の編集長ロッターマン役はジェンキンスが頑固で神経質な様子で、アメリカ人企業家サンダーソン役はエッカートが要領よく狡猾に。サンダーソンの婚約者シュノー役はハードが演じ、コケティッシュな魅力をふりまいている。またアルコールやドラッグ漬けのモバーグ役は、デップが「『パブリック・エネミーズ』で共演して彼に夢中になった」というジョヴァンニ・リビシが個性的に演じている。

原作者のトンプソンは実際に’60年にプエルトリコのサン・フアンへ向かい、ほどなく廃刊となったスポーツ紙『エル・スポルティーヴォ』の仕事をしていたとのこと。ニューヨークに戻り、’65年に雑誌『The Nation』の編集者から伝説のギャング集団ヘルズ・エンジェルズについて執筆依頼を受け、彼らと1年間生活を共にする。そして’66年に単行本『ヘルズ・エンジェルズ 地獄の天使たち 異様で恐ろしいサガ』を出版。取材対象の中に単身で飛び込みレポートするという新しいスタイルを提示したことで、“ゴンゾー・ジャーナリズム”と呼ばれる独自の表現を確立。幅広い分野で活躍するも、’05年に拳銃自殺により67歳で死去。故人の意向に沿い、遺灰を大砲で打ち上げるという大がかりな葬儀をデップが行ったそうだ。

そもそも原作は’90年代にデップが、ウッディ・クリークにあるトンプソン宅を訪れた時に地下室で古い手書き原稿を偶然見つけて出版をすすめ、’98年に小説『The Rum Diary』を発表。原稿を見つけたその日には、すでに映画化や製作の話を2人でしていたとのこと。そして監督・脚本にはデップの強力なラブコールにより、監督としては約20年ぶりの復帰となるロビンソンが決まったそうだ。

ジョニー・デップ、マイケル・リスポリ

撮影はプエルトリコで行われ、歴史的な街オールド・サン・フアンや北東の海岸線にあるファハルド、熱帯雨林エル・ユンケなどで撮影。地元紙のオフィスのシーンでは、実際に閉鎖された『サンフアン・スター』紙のビルを使い、時代物の印刷機や当時の記録文書などを新聞社のオフィスのセットとして使用したそう。カーニバルのシーンではヴェガ・バハにある古い植民地時代の町で、セント・トーマス島を再現。もともとある広場や植民地時代の美しい建造物に加え、コロニアル・ホテルや広場を眺めるバーを作って撮影したとのこと。撮影ではフィルターを一切使わず、3つの16ミリレンズを使用し、自然光を生かしたリアルな映像でとらえ、「’50年代の絵葉書のような映像を探していた」と語るロビンソン監督のイメージ通りの雰囲気となっている。

また撮影現場では、トンプソンの名前を入れたイスを作り、傍らには表紙に彼の名前を記した脚本、シガレットホルダーに入れたダンヒルのタバコとライター、そして灰皿、シーバスリーガルのボトルと氷を入れたハイボールグラスを毎日置いたとのこと。デップは語る。「そういったものすべてを活用して、ハンターを称え、彼に敬意を捧げたんだ。ブルースと僕は毎朝セットに到着すると、そのハイボールグラスのところまでゆっくり歩いていき、なみなみとシーバスリーガルを注ぎ、僕たちの指を浸し、少しすすってから、その日の撮影をスタートした。そこにハンターがいることを確認するかのようにね。彼は確かにそこにいた。毎日、毎秒、どの瞬間にも、僕たちのために彼はそこにいてくれたんだ」。

またプエルトリコで撮影中に、デップは数人の旧友たちと過ごしたそう。そのひとりがシンガーソングライターであり詩人で映像アーティストのパティ・スミス。本作のサウンドトラックには彼女が歌う「ザ・マーメイド・ソング」をはじめ、クリストファー・ヤングによるラテン風のジャズ・アンサンブル、デップとJJ・ホリデーのデュエット・ナンバーなどが収録され、前述の“インフィニタム・ニヒル”からリリースされている。

ジョニー・デップ、アーロン・エッカート

ディーン・マーティンの歌う「ヴォラーレ」が陽気に流れ、赤い小型飛行機がゆったりと空を飛ぶシーンから始まる本作。この映画にはスタッフとキャストによる、故トンプソンへの大いなるオマージュが込められている。デップは語る。「撮影の間中ずっとハンターが一緒にいると感じていたよ。再び彼のそばにいることができて幸せだった。この映画はハンターの言葉や彼が見つけ出した彼自身の声に対する賛辞なんだ。彼なら本当に喜んでくれる。そう確信しているよ」。ひとりのジャーナリストがプエルトリコの滞在を経て、自分らしさを見出すまで。かぶりものや特殊メイクなし、素顔のデップが人生と恋に酔い惑う男の姿を味わい深く演じる良作である。

作品データ

ラム・ダイアリー
公開 2012年6月30日公開
新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2011年 アメリカ
上映時間 2:00
配給 ショウゲート
原題 The Rum Diary
監督・脚本 ブルース・ロビンソン
原作 ハンター・S・トンプソン
製作 グラハム・キング
アンソニー・ルーレン
ジョニー・デップ
音楽 クリストファー・ヤング
出演 ジョニー・デップ
アンバー・ハード
マイケル・リスポリ
アーロン・エッカート
リチャード・ジェンキンス
ジョヴァンニ・リビシ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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