© 2013「奇跡のリンゴ」製作委員会

世界で初めてリンゴの無農薬栽培に成功した青森のリンゴ農家、木村秋則氏の11年におよぶ試行錯誤をもとに描く物語。出演は阿部サダヲ、菅野美穂、山�ｱ努ら演技派を核に、池内博之、原田美枝子、笹野高史、伊武雅刀が脇を固める。監督・脚本は映画『ゴールデンスランバー』の中村義洋、音楽はジブリ作品をはじめ数々の映画音楽で知られる久石譲が手がける。病虫害に弱いことから絶対不可能と言われていた“リンゴの無農薬栽培”に挑み、苦節のときを家族や友人に支えられ、ついに成し遂げるまでを映す。実話をもとに真摯に描く感動作である。

青森県中津軽郡。農家の次男でありながら機械いじりが大好きだった秋則は、高校卒業後に川崎市の電機メーカーに就職。のちに退職して弘前にもどり、リンゴ農家へ婿入りする。妻・美栄子はリンゴ栽培に欠かせない農薬が体にあわず、年に十数回の散布をする農薬の影響で皮膚がかぶれ、寝込むこともあったことから、秋則は無農薬によるリンゴ栽培への挑戦を決意。1975年から美栄子の父・征治の協力のもと、私財を投じて農薬のかわりとなるさまざまな素材を用いて試行錯誤を繰り返すも、リンゴはまったく実を結ばないまま、約10年が過ぎてゆく。周囲からさげすまれて孤立し、義父は畑の一部を手放し、義父と妻と3人の幼い娘たちと貧困に耐えながら挑戦し続けるが何ひとつうまくいかず、秋則はひどく追い詰められてゆく。

実話という重みがズシリとくるストーリー。木村氏本人と役を演じた阿部サダヲ、2人に共通する“太陽のような”楽観的な明るさと、しぶとさや根気のあるキャラクターが作用して、この作品の大きな救いとなっている。苦節の10年を誠実に描きながら、映画としてひきつける仕上がりに中村監督の手腕が生きている。監督は“精根尽き果てるほど”渾身の作であるとして、「実在の木村秋則さんについていろいろ調べるうちに、本当に壮絶なものですから、ちょっとやそっとの障害には負けていられないなと。いつも以上にやれることはすべてやらせていただきました」とコメントしている。

木村秋則役は阿部サダヲが、熱心に探究を続けてどん底を経て、かけがえのないものをさまざまに見出してゆく姿を力強く表現。明暗のコントラスト、軽さも重さも自在に、力量のある役者としての本領を発揮。本人も「自分が見たことのないような顔を引き出していただいた気がします」とコメントしている。これからはこれまでのコメディや名脇役に加えて、重みのある役柄や物語でもますますの活躍が楽しみだ。秋則に寄り添って支える妻・美栄子役は菅野美穂が、どんな時も夫を信じてほがらかに献身的に尽くす、昔ながらの“日本のおかあさん”をあたたかく演じている。美栄子の父・征治役は山�ｱ努が、婿入りした秋則を身内として尊重し、身を削って協力する姿をしずかに表現。夫婦の強い結びつき、義父のサポート、3人の幼い娘たちとともに無農薬のリンゴづくりに挑み続ける木村一家の姿は、とても染み入るものがある。そして秋則の親友もっちゃん役は池内博之、秋則の母親役は原田美枝子、父親役は伊武雅刀、組合地域支部長の深津役は笹野高史が演じ、諭したり呆れたり、対立して見放しそうになりながらも、秋則を見守り続ける周囲の人々として、それぞれにいい味をだしている。

木村秋則氏の挑戦は、2006年にNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で紹介され、大きな注目を集めたとのこと。そして映画の原作である『奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家 木村秋則の記録』（石川 拓治・著）がベストセラーに。また『リンゴが教えてくれたこと』『すべては宇宙の采配』など木村氏名義の著作も多数あり、関連本は累計60万部超とも（2011年12月時点）。現在、木村氏の栽培する“奇跡のリンゴ”は、インターネットの販売が数分で売り切れて入手困難とのこと。また独自の栽培方法でリンゴのみならず、稲などほかの作物も手がけているそうだ。自らが代表取締役をつとめる株式会社木村興農社の公式ホームページでは、農業指導や勉強会などの取り組みを紹介し、“Natural Farming-AK method”として英語でも解説されている。独自の栽培方法に関してはさまざまな見解があるなか、木村氏は国内外からの求めに応じて講演活動も積極的に行っているそうだ。

撮影は市庁の全面協力のもと、青森県弘前市にてオールロケを行ったとのこと。雄大な岩木山をのぞむ一本道や一面に広がるリンゴ畑など、のどかな風景もみどころのひとつだ。またハリウッドでリメイクの企画が進められているという情報も。本作で描かれているのは、誰もが簡単に取り入れられる手法や思考ではないし、木村氏の半生は容易に模倣できる生き方でもない。“一念岩をも通す”ことがあったという事実、常識をこえた目標に挑み実現した一家がたどった軌跡について。そのありのままの勇気や元気がストレートに伝わってくる、そんな作品である。