ウディ・アレンがローマを舞台に監督・脚本・出演
美しい街並や音楽を背景に4組のエピソードを描く
人生哲学を隠し味に、陽気でロマンティックな群像劇
「ただ散歩しているだけでも驚くような街だ。街そのものが芸術品なんだ」とローマを評するウディ・アレンが監督・脚本・出演を兼ねる最新作。出演はベテランのアレック・ボールドウィン、ロベルト・ベニーニ、ジュディ・デイヴィス、スペイン出身の人気女優ペネロペ・クルス、『JUNO/ジュノ』のエレン・ペイジ、イタリアのテノール歌手ファビオ・アルミリアート、そしてアレンほか。恋愛、結婚、家族、浮気、夢の実現、不可思議な出来事……ローマを舞台に同時進行で4組のエピソードを描いてゆく。すべてはドラマティックにロマンティックに、そしてみんなに陽光がふりそそぐあたたかな群像劇である。
ニューヨークから夏休みでローマを訪れた女性ヘイリーは、カンピドリオ広場で出会ったイケメン弁護士ミケランジェロと恋に落ち、恋愛小説さながらの急展開で電撃婚約。両家の顔合わせのため急遽、もとオペラ演出家であるヘイリーの父ジェリーと、精神科医の母フィリスがアメリカからローマにやってくる。同じころ、著名なアメリカ人建築家のジョンは30年前に住んでいたトラステヴェレ地区で、建築家志望の青年ジャックと出会う。ジャックが恋人サリーと暮らすアパートに、サリーの親友で売れない女優のモニカが転がり込んだことから、ジョンはジャックに惑わされないようにと助言する。一方、田舎から上京してきた純朴な若い新婚カップルのミリーとアントニオがホテルに荷物を置き、妻をヘアサロンへと送り出すと、夫のもとへセクシーな娼婦がミニドレスで押しかけてくる。そしてまた某所では、妻と2人の子どもと暮らす平凡な中年男レオポルドが突然たくさんのパパラッチに囲まれ、その日からなにがなんだかわからないまま大スターとして追い回されることになる。
「アモーレ、カンターレ、マンジャーレ(愛して、歌って、食べて。Amore,Cantare,Mangiare)」というイタリアの固定イメージは日本がつくったものともいうけれど。その要素をたっぷりと生かして、アレン流のシニカルな人生哲学とともに仕上げられた物語。ローマの名所をめぐりながら4つのエピソードが展開し、登場人物たちそれぞれの悲喜こもごもを映してゆく。今回もいつも通り、演技派もスターも若手も俳優たちがみんなアレンのジョークやキャラクターを楽しそうに演じているさまをゆるりと堪能できる。
アメリカ人女性ヘイリー役はアリソン・ピルがかろやかに、婚約したミケランジェロ役はフラヴィオ・パレンティがわかりやすい好青年として、もとオペラ演出家のヘイリーの父ジェリー役はアレンがズレたインテリらしく、精神科医の母フィリス役はジュディ・デイヴィスが裏表のない率直な様子で、またアルミリアートはミケランジェロの父で葬儀屋のジャンカルロ役で美声を披露している。アメリカ人の建築家ジョン役はボールドウィンが客観的な狂言回しとして、建築家志望の青年ジャック役はジェシー・アイゼンバーグが優柔不断に、恋人サリー役はグレタ・カーウィグが気立てよく、売れない女優モニカ役はペイジが小悪魔ふうに。そして若い新婚カップルの妻ミリー役はアレッサンドラ・マストロナルディ、夫アントニオ役はアレッサンドロ・ティベリが初々しく、超セクシーでたくましいコールガールのアンナ役はクルスがキュートに演じている。平凡な中年男レオポルド役はベニーニがこっけいさに哀愁を帯びて演じ、スター役としてイタリアで実際に活躍する俳優でコメディアンのアントニオ・アルバネーゼや、女優のオルネラ・ムーティらが出演している。
アレンの手にかかればイタリアの新旧の著名人もおもしろおかしく。ヘイリーがミケランジェロと出会うカンピドリオ広場は、かのミケランジェロ・ブオナローティの設計で有名な場所だったり、イタリア映画人の良心といえるロベルト・ベニーニにあえて俗物の悲哀を託してみたり。とりわけオペラの発祥地イタリアで認められている一流のテノール歌手ファビオ・アルミリアートに、劇中とはいえあんな奇天烈な演出をしてもどこか許されてしまうのは、自身もクラリネット奏者としてジャズを楽しみ音楽をまっとうに愛するアレンだからこそだろう。アルミリアートが朗々と歌い上げるオペラのシーンでは、ユーモアと敬意がないまぜの謎のセンスと度胸に失笑しつつ、イタリアの良識派から怒られやしないかとヒヤヒヤさせられる。
撮影はローマのオールロケにて、コロッセオ、トレヴィの泉、ヴェネツィア広場、スペイン階段、ボルゲーゼ公園などの観光名所から、フェデリコ・フェリーニの名画『甘い生活』の撮影場所として知られるヴェネト通り、食材や雑貨などがならぶ市場カンポ・デ・フィオーリ、昔ながらのたたずまいをのこすトラステヴェレ地区など、ローマらしい味わいのある場所もたっぷりと紹介されている。また劇中の音楽は、イタリアの歌手ドメニコ・モドゥーニョ(Domenico Modugno)が歌う名曲「ボラーレ(イタリアの曲名:Nel blu dipinto di blu)」のやわらかなメロディにはじまり、オペラのアリアはジャコモ・プッチーニの『トスカ』より「星は光りぬ」、『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」、ウンベルト・ジョルダーノの『フェドーラ』より「愛さずにはいられない」など、オペラとポップスが物語を心地よく彩っている。
アレンが拠点をニューヨークからイギリスに移したのち、イギリスのロンドン、スペインのバルセロナ、フランスのパリ、イタリアのローマと作品の多くをヨーロッパで描いてきたなか、次回はアメリカで初めて西海岸のサンフランシスコが舞台に。ケイト・ブランシェット、アレック・ボールドウィン出演の『Blue Jasmine』は2013年7月に全米公開とのことだ。熟練の域に達するアレンが次はどうくるか、引き続き楽しみである。
公開 | 2013年6月8日公開 新宿ピカデリー&Bunkamuraル・シネマほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2012年 アメリカ=イタリア=スペイン |
上映時間 | 1:51 |
配給 | ロングライド |
原題 | TO ROME WITH LOVE |
監督・脚本 | ウディ・アレン |
出演 | ウディ・アレン アレック・ボールドウィン ロベルト・ベニーニ ペネロペ・クルス ジュディ・デイヴィス ジェシー・アイゼンバーグ グレタ・ガーウィグ エレン・ペイジ アントニオ・アルバネーゼ ファビオ・アルミリアート アレッサンドラ・マストロナルディ オルネラ・ムーティ フラヴィオ・パレンティ アリソン・ピル リッカルド・スカマルチョ アレッサンドロ・ティベリ |
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