許されざる者

イーストウッドの伝説的な作品を邦画としてリメイク
監督・李 相日×主演・渡辺 謙のもと充実の顔合わせで
迫害、暴力、復讐、という人間の業をまざまざと映す

  • 2013/09/06
  • イベント
  • シネマ
許されざる者© 2013 Warner Entertainment Japan Inc.

クリント・イーストウッドが監督・主演をつとめ、第65回アカデミー賞にて監督賞・作品賞ほか4部門を受賞した1992年の映画『許されざる者(原題:UNFORGIVEN)』を日本映画としてリメイク。出演は、イーストウッドの役を渡辺 謙、モーガン・フリーマンの役を柄本 明、ジーン・ハックマンの役を佐藤浩市、そして柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、國村 隼ほか。監督は映画『悪人』『フラガール』で確かな実力を示した李 相日(リ・サンイル)。開拓時代の北海道を舞台に、人としての尊厳、暴力の連鎖、血で血を洗う復讐劇の果てを描く。厳しい大自然を背景に人間の業をまざまざと映し出す物語である。

1880年、明治維新後の北海道。幕府軍の最下層に属していた釜田十兵衛は、新政府による残党狩りから逃れ、2人の幼い子どもたちと農民として静かに暮らしていた。そこへ昔の仲間である金吾がやってきて、“賞金首”の話をもちかける。客に刃物で切り刻まれ、牛馬以下の扱いをされた女郎が、自分たちの貯めた金で仇の首に賞金を懸けたという。妻との出会いによって“人斬り十兵衛”と恐れられた過去を封印した十兵衛は、妻を亡くし、子供たちの食べ物もままならない極貧の暮らしのなか、再び刀を手に取る。

渡辺謙

当初、現実味のない“夢物語”に思えたとプロデューサーが語る李監督の提案、「イーストウッドの『許されざる者』を時代劇で、主演は渡辺謙、舞台は北海道」という内容を丸ごと実現し、骨太な日本映画としてくっきりと打ち出した作品。企画のはじまりは、まず渡辺謙が主演のオファーをすぐに快諾し、“思いがけないほどあっさりと”イーストウッドがリメイクを許可した、という流れがあったそう。その背景として、『硫黄島からの手紙』で培ったイーストウッドと渡辺謙、ワーナー本社とワーナー日本法人との信頼関係があげられている。

十兵衛役は初期の段階から脚本のやり取りに加わり、監督とともにキャラクターを作り上げたという渡辺 謙が重厚な存在感で。金吾役は柄本 明が飄々と弱さと狡さ、そして計り知れない人間の底力を染み入るように深く。女郎たちの暮らす町を暴力と恐怖で治める支配者、大石一蔵役は佐藤浩市が傲慢かつ尊大に。冷血な悪役ながら、自ら選んだ修羅の道を突き進む気迫と覚悟を感じさせる。十兵衛と金吾に無理やり加わるアイヌと日本人のハーフの沢田五郎役に柳楽優弥、顔を裂かれた女郎なつめ役に忽那汐里、古参の女郎・お梶役に小池栄子、賞金首を狙ってやってくる長州出身の武士・北大路正春役に國村 隼、なつめを切り裂く開拓民の堀田佐之助役に小澤征悦、気の弱いその弟・卯之助役に三浦貴大、北大路正春に付き添ってやってくる小説家・姫路弥三郎役に滝藤賢一、女郎宿を兼ねた酒場の亭主・秋山喜八役に近藤芳正ら、すべての俳優が李監督の演出により重厚な物語の世界に生かされている。

撮影は「当時のままの広大な自然を」という監督の思いから、北海道上川町にて。大雪山に臨み、視界に人工物が360度まったく入らない景観で、ライフラインが一切なく熊も出るという理想的ながら厳しい環境だったとのこと。そこに道を作り、ライフラインを引き、全長350メートルの町のオープンセットを建てたそう。またアイヌに関しては、李監督がもともと描きたいと考えていた題材のひとつだったとのこと。西部開拓期のアメリカと同様に、明治政府により蝦夷地の開拓が進められたころの日本でも先住民に対する迫害があり、それがオリジナルの時代設定である1880年と同時期であったことから、脚本として練り上げられていったそうだ。

柳楽優弥、柄本明、渡辺謙

李監督はオリジナルの『許されざる者』について語る。「悪人善人の前に、力や暴力があって、それをどう使うかで結果がまるっきり変わってくる。力があっても使わないという選択肢もあるし、どんな形であれ、使えば自分が思ってもみなかった結果に行き着いてしまう。人間はそういう力や暴力をコントロールできるつもりでいるけれど、いったん使いだしたら制御できないのが、力であり、暴力なのだ、と。それが、あの映画の本当のテーマなんじゃないかというのは、ある程度、年齢がいったから気づけたことだし、そこに共感もし、興味も持てました。テーマとして、そこは引き継ぎたいですね。できれば若い人にも観てほしい。自分がそうだったように、そのときはわからなくても、あるとき、気づくものがあるのがこの映画だと思うので。観てすぐ全部理解できる映画は、すぐに忘れてしまう。すべてわかって、手に入れてしまうと、取っておく必要がなくなるので。だから、何か引っかかるものがあるという、ある種の違和感は、実はすごく大切で、その違和感こそが共感につながると思うんです」

そして、完成した本作を観たイーストウッド監督からメッセージが届く。「この度は、私の長い映画人生の中で最も大切で、自分の人生に大きな影響を与えた作品『許されざる者』が、最愛の国・日本で、日本映画として甦ったことをとても幸せに感じています。かつて、私は黒澤明監督の『用心棒』に感動し、『荒野の用心棒』に出演したのを思い出します。そして今、日本映画界の最高のスタッフとキャストが、私の『許されざる者』に感銘をうけてくれたと聞いています。これにも何か深い縁や絆を感じざるを得ません。私も作品を拝見し、素晴らしいできで、非常に満足しています。日本を舞台に 滅びゆく者たちの生き様を壮大に描いただけでなく、激しくも美しい魂がつまっているこの作品に日本映画の新たな時代の幕開けを感じました。私の愛する日本の美しい風景や文化を通じて、見るものすべての人々に驚きと優しさを与えてくれます。私の大事な友人である渡辺謙も、素晴らしい演技を見せてくれました。李 相日監督をはじめ、本作にかかわった方々への成功を祈っております。最後に本作が日本映画界、そして世界の映画の歴史に残る素晴らしい作品になることを期待しております」

渡辺謙、忽那汐里

黒澤 明からイーストウッド、そして李 相日へ。国を超え時間を超えて継がれてゆくもの。それはスピリットでありたましいであり、言語や形にならないたくさんの尊いものであふれている。師を仰ぎ、渡され、受け取り、また次の世代へと継がれてゆく、その一端になるということ。李監督は語る。「この作品の根底に流れるテーマは、未だ暴力の連鎖を断ち切れない現代の我々に深く突き刺さります。自分は正しいと疑いなく胸を張る人間よりも、迷いや贖罪を抱え、正しくありたいと葛藤する人間に寄り添えるもの……そんな映画を目指していければ、と考えています」

作品データ

許されざる者
公開 2013年9月13日公開
丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2013年 日本
上映時間 2:15
配給 ワーナー・ブラザース映画
監督・アダプテーション脚本 李 相日
出演 渡辺 謙
柄本 明
柳楽優弥
忽那汐里
小池栄子
近藤芳正
小澤征悦
三浦貴大
滝藤賢一
國村 隼
佐藤浩市
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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