悪の法則

監督リドリー・スコット×脚本コーニック・マッカーシー
主役クラスの俳優たちの、いつもとちがう顔を引き出す
闇の底へと一直線に導かれてゆくスタイリッシュなサスペンス

  • 2013/11/08
  • イベント
  • シネマ
悪の法則© 2013 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画『ブレードランナー』『テルマ&ルイーズ』の名匠リドリー・スコットが、映画『ノーカントリー』の原作者コーニック・マッカーシーが初めて映画のために書き下ろしたオリジナル脚本を映画化。出演はキャメロン・ディアス、ブラッド・ビット、ハビエル・バルデム、ペネロペ・クルス、マイケル・ファスベンダー、スターや個性派、主役クラスの人気俳優が集結。テキサスを舞台に、欲望がうごめく裏社会の闇に不用意に踏み入れた弁護士の顛末を描く。ゾッと背筋が冷えるスタイリッシュなクライム・サスペンスである。

アメリカ、メキシコとの国境に近いテキサス。カウンセラー(counselor。アメリカで弁護士を指す)と呼ばれる有能な若手弁護士は、愛する恋人ローラの婚約指輪のために巨大なダイヤモンドを用意し、麻薬取引に手を染める。友人である派手な実業家ライナーとつながりのある、麻薬の仲買人ウェストリーは、カウンセラーに意味深な言葉を投げかけて裏社会の闇の深さを警告。ライナーと同棲している元ダンサーのマルキナは、チーターの模様をうつしたタトゥーが映える背中をうねらせ、ローラの薬指に光る大きなダイヤをながめて値踏みした。

キャメロン・ディアス、ペネロペ・クルス

「そんなことが起きるはずがない」と自分の利口さに慢心するカウンセラーと、裏社会の人間が邪魔者を消すときの生々しい殺し方を淡々と話すウェストリー、2人のかみ合わない感覚。じわじわと沁みてくる不協和音の気色悪さ、底なしの流砂に知らずに飲み込まれていくような、行ってはならない方へ一直線に導かれてゆく違和感。その強固なレールを敷いているのは誰なのか。それはそのうちにわかるものの、なんの目的で、どのように、というところまでクリアに整然と明かされる。その行く末が脳裏に鮮明に浮かぶほどに。そこが本作の一番冷酷なところだ。

有能な弁護士カウンセラー役は、ファスベンダーがよくいるタイプのインテリとして。「先生」と呼ばれる名もないひとりの男としてよくハマり、気づく間もなく深い闇にのみ込まれてゆく愚かしさは、どこかある種の共感を誘う。フライト・アテンダントの恋人ローラ役はクルスが美しく、実業家のライナー役は、実生活ではクルスの夫であるバルデムが “囚われる”心情を繊細に表現。『ノーカントリー』では7:3分けのおかっぱ頭の殺人野郎を演じてアカデミー賞助演男優賞を受賞したバルデムが、本作ではヴェルサーチのシャツにモダンなインテリアで贅沢を満喫しながら、女に入れ込んで憔悴する姿を演じ、その幅の広さが味わい深い。裏社会に精通する麻薬の仲買人ウェストリー役はピットが胡散臭く。ブーツにカウボーイ・スーツにハット、といういでたちが目を引き、イケメンで女好き、要領よく立ち回る、というキャラクターがよく似合う。元ダンサーのマルキナ役はディアスが堂々たる骨太な様子で。あの開脚シーンはかなりのインパクトで、それを評するライナーの表現がまた的を射ていて渇いた失笑を誘う。会話で、行動で、登場人物が影響し合い、運命がころがってゆく人間関係のリアルさも本作の魅力のひとつだ。

マイケル・ファスベンダー

「ちょっと冷たくないか?」「真実に温度はないわ」。マッカーシーの小説は台詞が際立っていることでも知られる。暴力を描くカルト作家としてキャリアをスタートしたマッカーシーは、1985年の小説『ブラッド・メリディアン』が、ニューヨーク・タイムズ紙上で著名作家の投票により選ばれるベスト・アメリカン・ノヴェルス(1981-2006)の1冊に選出。また同名で映画化された’92年の小説『すべての美しい馬』、そして『越境』『平原の町』の国境三部作で叙情的な世界を描き、ベストセラー作家となった人物だ。2005年の小説『血と暴力の国』をジョエル&イーサン・コーエン兄弟が映画化した『ノーカントリー』は’08年の第80回アカデミー賞にて作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4部門を受賞、マッカーシーが息子にささげた’06年の小説『ザ・ロード』はピューリッツァー賞を受賞し映画化、1974年の小説『チャイルド・オブ・ゴッド』も映画化されるなど、映画とのゆかりは深い。そもそも今回、マッカーシーがオリジナルの映画脚本を書き下ろすきっかけとなったのは、ある朝に目が覚めて、休みをとる必要があると気づいたから、とのこと。それで2本の小説を書いている最中、休暇をとるのではなく、映画の脚本を書こうと思った、というからさすがだ。マッカーシーが脚本の第一稿をプロデューサーに送ったとき、スコット監督が興味を示していると知ったプロデューサーたちが、著者と監督を引き合わせ、映画化がすぐに決定。マッカーシーを「偉大なアメリカ人の小説家」と称するスコット監督は本作について語る。「脚本に書かれた状況やキャラクターのスケールが大きく、しかも彼らには必然のように恐ろしいことが起こり、誰もそれを止めることができない。登場人物たちは、傷を負った善人たちだ。彼らは魅力的な人物だが、誰もが本性を隠している」

ハビエル・バルデム、キャメロン・ディアス

10月5日(日本時間10月6日)には、イギリスのロンドンにて本作の記者会見を実施。弟でありビジネスパートナーだったトニー・スコットを2012年8月に自殺で亡くした後、リドリー・スコットにとって初の公式の会見ということも注目を集めたとのこと。この映画への確信をはっきりと語った。またこの会見で、実生活で第二子を出産したばかりのクルスは本作のテーマについて、とても明確にコメントしている。「映画を観終わったら、あんな世界に足を踏み入れたいとは思わない。キャラクターたちがいくら格好よくても、あの人たちになりたいとは思わない。もちろん、映画は人々に何をすべきかを教えたり、世界を変えたり、教訓を垂れたりするのが目的ではないけど、この映画で語られる問題は重要なテーマであり、今でも続いていることなの。それを責任ある態度で扱うことは大事だと思うわ」。最後に、10月3日(日本時間10月4日)にロンドンのオデオン・ウエストエンド劇場で行われたプレミアで、スコット監督が大勢の映画ファンに向けたメッセージをお伝えする。「この脚本には一発で魅了された。マイケルは今の映画業界において最高の俳優だよ。2度目の仕事だが、彼の演技の才能はますます磨かれている。そして、このレベルのキャストを一同に集められることはまずない。入場料を払ってみる価値がある作品だよ」

作品データ

悪の法則
公開 2013年11月15日公開
TOHOシネマズ日劇ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2013年 アメリカ
上映時間 1:58
配給 20世紀フォックス映画
原題 THE COUNSELOR
監督 リドリー・スコット
脚本 コーマック・マッカーシー
出演 キャメロン・ディアス
ブラッド・ピット
ハビエル・バルデム
ペネロペ・クルス
マイケル・ファスベンダー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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