詐欺師とFBIが組んで政治家の汚職を暴く !?
実際の事件に着想を得て、1970年代のアメリカを舞台に
愛や人生に迷走しながら突き進む奴らを描く人間ドラマ
『ザ・ファイター』『世界にひとつのプレイブック』のデヴィッド・O・ラッセル監督が、詐欺師とFBIが組んで政治家の汚職を暴いた、1979年のアメリカで起きた“アブスキャム事件”に着想を得た作品。出演は、『ダークナイト』シリーズのクリスチャン・ベイル、本作の製作総指揮としても名を連ねるブラッドリー・クーパー、『世界にひとつのプレイブック』のジェニファー・ローレンス、『マン・オブ・スティール』のエイミー・アダムス、『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナー、そしてかのロバート・デ・ニーロほか。FBIに逮捕されたやり手の詐欺師アーヴィンが釈放と引き換えに、同業の詐欺師へのオトリ捜査をするうちに、大物政治家の汚職につながる大きなヤマに。誰が誰に嘘をつき、だましているのは、そしてだまされているのはいったい誰なのか。1970年代のアメリカを舞台に、それぞれが真剣勝負で渡り合い、愛や絆、人生に迷走しながらも突き進むさまを描く、アクの強い人間ドラマである。
1978年のニューヨーク、プラザ・ホテル。詐欺師のアーヴィンと相棒で愛人のシドニーは、いつになく落ち着かない様子でいる。FBI捜査官のリッチ―に強いられて、これまでの詐欺とはケタが違う、大物政治家の汚職を暴くという大がかりな詐欺をしかけるからだ。アーヴィンとシドニーは恋愛でも詐欺でも互いをパートナーとしてベストだと思っているものの、アーヴィンの年若い妻からは冷めた関係でも離婚はしないと拒否されたまま、彼も義理の息子のことはとてもかわいがっていた。銀行の融資を仲介する手数料詐欺で儲けていたアーヴィンとシドニーは、FBIに目をつけられ捜査官リッチ―によって逮捕。同業の詐欺師4人の逮捕に協力すれば釈放という取引に応じ、釈放後はシドニーと逃げるよりも、義理の息子を案じてFBIとの取引に素直に応じるアーヴィンにシドニーは激怒。そのあてつけにシドニーは、FBIのリッチ―に惚れたふりをしてオトす、とアーヴィンに宣言する。
実際の事件から着想を得たフィクションとして、事件の背景を取り入れつつ人物像をよりドラマティックに描く作品。事件の舞台裏を告発するというよりも、人間関係のせめぎ合い、そこから転がってゆく顛末を丁寧に、あくまでも人間ドラマとして惹きつける内容に。俳優の力量を引き出すラッセル監督の脚本と演出により、俳優たちの演技合戦が見ものとなっている。
ベイルとアダムスは『ザ・ファイター』に、クーパーとローレンスとデ・ニーロは『世界にひとつのプレイブック』に出演し、アカデミー賞のノミネートや受賞を果たした通り、ラッセル作品にハマる人選で。レナーは初のラッセル作品出演ながら、ベイルが一度降板したときには本作の主演候補にも。“体がブヨブヨで頭は悲惨な一九分け”のアーヴィン役はベイルが、どこか憎めない雰囲気で。そんな彼を“余裕に満ちたところがステキ”と愛する恋人シドニー役は、アダムスが情熱的にたくましく。大きなヤマで手柄を立てたいFBI捜査官リッチ―役はクーパーが、小ずるく野心的に。情緒不安定であるアーヴィンの妻ロザリン役は、ローレンスがエキセントリックかつコミカルに。ジャージー州カムデン市の仕事熱心なカーマイン市長役は、レナーが率直に表現。利権を握ろうと現れるマフィアの伝説的なドン、テレジオ役にロバート・デ・ニーロ、というわかりやすい感じも観ていて楽しい。
さて、実際のアブスキャム事件とは。1979年にアメリカで、ニュージャージー州のカジノの利権をめぐる汚職により、多数の政治家が逮捕。なかには大物議員も含まれ、大きなスキャンダルとして報道された。FBIニューヨーク支局は詐欺師のメル・ワインバーグをオトリ捜査で動かし、マフィアともつながりのある犯罪グループをつきとめることに成功。そのうえ、このグループがニュージャージー州のカジノ管理委員会幹部と癒着し、カムデン市の市長の収賄が発覚。このグループとつながりのある連邦議員の名前もわかり、FBI捜査官がアラブ王族の大富豪にふんして捜査を続行。そして収賄を摘発された議員たちが汚職により有罪となった。この際のFBIの強引な捜査方法が、当時は物議をかもしたとも。
音楽やファッションなど、’70年代のスタイルが楽しめることも本作の特徴。ファッションは現代のアイテムを取り入れながら、’70年代の雰囲気に。妻ロザリンは真っ赤な付け爪に盛りヘア、レオパードに胸の谷間やボディラインを強調するドレスで派手に、田舎出身で都会に憧れるシドニーはダイアン・フォン・ファステンバーグの服やグッチのバンブー レディ ロックのバッグを身に着け、洗練された着こなしで。アダムスは全編を通じてグッチをまとい、ホースビットネックレスやハイヒールローファー、アクセサリーなど“’70年代後半のニューヨークのイーストサイド、高級アパートで暮らす女性”というはなやかなイメージを体現している。音楽はデューク・エリントンの「Jeep’s Blues」、スティーリー・ダンの「Dirty Work」などブルースやロックの名曲をちりばめて。エレクトリック・ライト・オーケストラの曲は映画のイメージに合うことから、「Long Black Road」をはじめ数曲使用されたとのこと。また劇中で俳優たちが歌うシーンは注目。ベイルとレナーがトム・ジョーンズの「Delilah」をデュエットするシーンもなかなか、なんといってもローレンスがポール・マッカートニーの「Live and Let Die(1973年の映画『007 死ぬのは奴らだ』の主題歌)」を、殺気をみなぎらせて激しく歌い上げるシーンは妙に痛快で可笑しい。
2014年3月に授賞式が行われる第86回アカデミー賞にて、作品賞や監督賞を含む10のノミネートを受け、『ゼロ・グラビティ』と同数で最多数ノミネートとなった本作。製作のきっかけは「アブスキャム事件の映画を作る」という脚本家のエリック・ウォーレン・シンガーの発案に始まり、プロデューサーがラッセル監督にオファーすると、監督から同じテーマで別の切り口を提案されたそう。それが、“スキャンダルの実録的要素から離れて、人物像を掘り下げ、独自の架空の人物像を創り上げる”ことで、ここが本作の大きな魅力となっている。哀れでみっともなくて、それでも憎み切れない関係、いいときもわるいときもそれなりに、続いていく人生の味わい。ラッセル監督は本当に、人のもつ泥臭さを描くのに長けている。監督は本作について語る。「これは、自分が望む生き方ができないでいる2人の物語なんだ。彼らはとても愛すべき人物なんだが、傷ついている。作品全体を通して、この2人が自分という人間に向き合い、そして再び愛のある暮らしを取り戻していく様子を描いている。彼らは自分たちの絆が切れたことを自覚している。これからどうなるか不安に思っているが、どうすれば人生をやり直して、再び愛し合えるのかをそれぞれ考えているんだ。僕にとって一番大事なのは、彼らは愛の絆を信じる情熱的な人間で、特殊な関係ではあるけれど、本当に愛のある人生を送っているということなんだ」
公開 | 2014年1月31日公開 TOHOシネマズみゆき座ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 2:18 |
配給 | ファントム・フィルム |
原題 | American Hustle |
監督・脚本 | デビッド・O・ラッセル |
脚本 | エリック・ウォーレン・シンガー |
出演 | クリスチャン・ベイル ブラッドリー・クーパー エイミー・アダムス ジェレミー・レナー ジェニファー・ローレンス ロバート・デ・ニーロ |
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