ピュリッツァー賞とトニー賞をW受賞した戯曲を映画化
メリル・ストリープとジュリア・ロバーツが母娘役で初共演
むきだしの愛憎の行き着く果てを映し出す家族の物語
2007年に初演、’08年にピュリッツァー賞とトニー賞をW受賞したトレイシー・レッツの戯曲『August: Osage County』を映画化。フィクションながら、“事実は小説よりも奇なり”という顛末を描いているかのような家族の物語。出演は、今回が初共演となる2人のオスカー女優メリル・ストリープとジュリア・ロバーツ、『スター・ウォーズ』シリーズなどのユアン・マクレガー、2013年の映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のベネディクト・カンバーバッチ、’06年の映画『リトル・ミス・サンシャイン』のアビゲイル・ブレスリン、そしてクリス・クーパー、ジュリエット・ルイス、マーゴ・マーティンデイル、サム・シェパードらベテラン勢ほか驚くほどの豪華な顔合わせで。スタッフは、製作の仕事でも大きな信頼を得ているジョージ・クルーニー率いる映画『アルゴ』のプロデューサー陣、監督はクルーニーの20年来の盟友で、テレビシリーズ『ER 緊急救命室』『ホワイトハウス』などを手がけ、’11年に『カンパニー・メン』で長編映画監督デビューをしたジョン・ウェルズ、脚本は作家であり俳優、本作の原作者であるレッツが手がける。ある出来事をきっかけに、年老いた両親が暮らすオクラホマ州の家へ三姉妹とその家族、親戚たちが久しぶりに集まり、一堂に顔を合わせる。そこでさまざまな思惑や背景、過去が次々と浮き彫りになり……。鋭い会話が飛び交い、気分を逆なでするセリフも多々、うんざりするような展開のなか、人の心情の機微を率直かつ丁寧に描き出す。生々しく力強く、長年かけてこじれていった家族の顛末をまざまざと映すヒューマンドラマである。
オクラホマ州オーセージ郡、8月。アルコール依存症のもと詩人ベバリー・ウェストンが行方不明に。保安官の捜索が始まり、がん治療の最中に薬物依存となり、攻撃的な言動を繰り返すベバリーの妻バイオレットのもと、妹とその家族、すでに自立している3人の娘たちとその家族たちが集まってくる。真面目で気の強い長女バーバラと、別居中の夫ビル、反抗期の娘ジーン。地元に暮らし、秘密の恋をしている心優しい次女のアイビー。自由奔放な三女カレンと、胡散臭い婚約者。バイオレットの妹マティ・フェイと夫のチャールズ、彼らの息子で気の弱い青年リトル・チャールズ。家政婦兼看護士として住み込みで働くネイティブアメリカンの娘ジョナが準備した食卓を囲み、一同で静かに食事をするはずが、バイオレットが次々と毒舌を浴びせかけ……。
家族として確かに愛しているはずなのに、どうしてもかみ合わない、どうしてもうまくいかない。どこの国の家族や親族でもあるだろうジレンマや人間模様が、ひしひしと伝わってくる本作。観ていて明るい気持ちになる作品では決してないものの、どんなに辛辣でも嘘のない何かがあるもの、伝えようという気概があるものは、どこか心の核を響かせるものがある。
本作の見どころは、実力ある役者たちによるリアルなやりとり。皮肉っぽく周囲を批判しては責め立てる母バイオレット役はストリープが、そこまでの状態に追い詰められて(自分で自分を追い込んで)いった哀しみと憐れさを切実に表現している。夫や娘とうまくいっていない完璧主義の長女バーバラ役のロバーツは、母への愛と憎しみ、苛立ちや失望をぶちまかすシーンが強烈だ。浮気して別居中のバーバラの夫ビル役はマクレガーが妻との関係に悩む様子を、彼らの娘ジーン役はブレスリンがうさばらしにマリファナに手をだす反抗期として演じている。不器用ながら心の優しい次女アイビー役はジュリアン・ニコルソンが誠実に、フロリダで楽しく暮らしている三女カレン役はジュリエット・ルイスが悪気なく軽薄に、カレンの婚約者スティーブ役はダーモット・マローニーがギラギラおやじ風に、母の妹で3姉妹の叔母マティ役はマーゴ・マーティンデイルが陽気に、その夫チャールズ役はクリス・クーパーが実直に、叔母夫婦の息子リトル・チャールズ役はカンバーバッチが気弱に、それぞれに演じている。個人的に沁みるのは、サム・シェパード演じるもと詩人の父ベバリーと、ミスティ・アッパム演じるネイティブアメリカンの家政婦ジョナの存在だ。ベバリーは取り戻せるものなら取り戻したいと思うこと、確かめたいことがあり、賭けをした。ジョナという天使を保険として。
原作者であり本作の脚本を手がけたトレイシー・レッツは俳優としてもその実力で知られ、2013年の第67回トニー賞にて戯曲『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』で演劇主演男優賞を受賞。劇団ステッペンウルフ・シアター・カンパニーのアンサンブル・メンバーであり、作家や俳優として舞台や映画やテレビなど幅広く活躍している人物とのこと。これまでにレッツが執筆した戯曲『BUG/バグ』と『キラー・スナイパー』は、2作ともウィリアム・フリードキン監督によって映画化されているそうだ。ジョン・ウェルズ監督は本作の原作である舞台『August:Osage County』をブロードウェイで観て、「世界観や人物描写の素晴らしさに感銘を受けた」と語っている。
終わることのないかのような対立と諍い、むきだしの愛憎の行き着く果ての果て。そこで見る景色とは。嘆き悲しみ世も人も恨んで保身に生きることもできれば、話し合って赦し合い歩み寄ること、まったく別の道を歩き出すことも、いつだってできる。文字で書いてみれば、たったそれだけのこと。それだけのことが、こんなにも難しい。不快な台詞や展開がもりだくさんでありながら、あまりのことに失笑し、思わずわが身を振り返る効果もあるような。ストーリーは確かに重くてつらい。つらいけれども、創作の意図はどこかやさしい。そうなる前に、もしそうなったら、という奥の奥にある淡い示唆をそっとかみしめる、そんな作品である。
公開 | 2014年4月18日公開 TOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー |
---|---|
制作年/制作国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 2:01 |
配給 | アスミック・エース |
原題 | August: Osage County |
監督 | ジョン・ウェルズ |
原作・脚本 | トレイシー・レッツ |
製作 | ジョージ・クルーニー グラント・ヘスロヴほか |
出演 | メリル・ストリープ ジュリア・ロバーツ ユアン・マクレガー クリス・クーパー アビゲイル・ブレスリン ベネディクト・カンバーバッチ ジュリエット・ルイス マーゴ・マーティンデイル ダーモット・マローニー ジュリアンヌ・ニコルソン サム・シェパード ミスティ・アッパム |
記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。