ケイト・ウィンスレット×ジョシュ・ブローリン演技派の共演
ジェイソン・ライトマン監督が息子の視点から母の恋愛を描く
ゆったりとした時間と傷ついた心の再生を描くラブストーリー
『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』などで実力が広く認められているジェイソン・ライトマン監督の最新作。出演はオスカー女優のケイト・ウィンスレット、個性的なキャラクターもくっきりと表現する2008年の映画『ミルク』のジョシュ・ブローリン、‘13年の映画『華麗なるギャツビー』などの繊細な演技力で知られるトビー・マグワイア、’08年の映画『チェンジリング』の若手俳優ガトリン・グリフィスほか。原作はアメリカの女性作家ジョイス・メイナードの小説『Labor Day』。脱獄し怪我をしている逃亡犯、過去の悲しみを抱えたままの母親、母親を支えようとする13歳の少年、3人が過ごした晩夏の5日間が、少年の視点から抒情的に語られてゆく。ゆったりとした時間と傷ついた心の再生を描くラブストーリーである。
1987年、アメリカ東部の静かな町。9月はじめのレイバー・デイ(労働者の日)を週末にひかえたある日、心に傷を負ったシングルマザーのアデルと13歳の息子ヘンリーは、怪我をしている見知らぬ男に強要され、自宅にかくまうことに。男はフランクと名乗り、盲腸炎の手術の後に刑務所の病院から脱走した逃亡犯であると話し、2人に決して危害は加えないと約束。体力が回復するまでアデルとヘンリーの家に留まることになったフランクは、寡黙でいかつい風貌ながら、慣れた手つきで家や車を修理し、料理をして、2人とおだやかな時間を過ごす。
ジョシュ・ブローリンといえば、’07年のコーエン兄弟の映画『ノーカントリー』をはじめ、男臭い、暑苦しい感じがとてもよく似合うイメージが個人的にあって。メインとして存在感を押し出すも、脇として自身を背景になじませるも、どんな塩梅もいける演技派と知りつつも、現代劇のラブロマンスでヒロインの相手役はどうだろう……と観てみたら。ややがっしり目のウィンスレットもブローリンほどのごつい男性と並ぶと、女性っぽさが強調されて、どことなく“美女と野獣”ふう、クラシックなメロドラマの香りのするラブロマンスの仕上がりに。最初は逃亡犯に脅され、その後は逃亡犯の隠匿が周囲にバレないようにと息をひそめ、家庭的なシーンでもはりつめた緊張感がどこかにずっとあるところ、フランクの過去がじわじわと明らかになるところに、ラブストーリーでもベタ甘になり過ぎないよう仕掛けがなされている。
シングルマザーのアデル役はウィンスレットが、フランクのやさしさに触れて生気を取り戻していくさまを丁寧に。逃亡犯フランク役はブローリンが、最初は脅して押し入ったはずが、もともとの家庭的で誠実な性分によりアデルとヘンリーの支えになるさまを表現。13歳の息子ヘンリー役は、グリフィスが母に幸せでいてほしいと願いながら複雑な思いを抱える影の部分もしっかりと。成長したヘンリー役はマグワイアが演じ、少年から青年になる“息子”の視点で全編のナレーションを担当している。
撮影は、美術セットよりも実際にある場所での撮影を好むライトマン監督が、スタッフの懸念を押し切って全編をロケ撮影にしたとのこと。古風な雰囲気のあるマサチューセッツ州のシェルバーン・フォールズの町と、ボストンの東、アクトンにある個人宅を大幅に改装した“アデルとヘンリーの家”で撮影したそうだ。うらぶれた寂しいたたずまいの家が、フランクが手入れをするうちに居心地のいい空間になっていく、そのノスタルジックな感覚はどこか、着古したデニムのように肌にしっくりとくる風合いで、観ているとくつろいだ気分に。また、劇中でフランクが焼き上げる素朴なパイはとてもおいしそうで、今にもバターと小麦粉の焼ける香りがふんわりと漂ってくるかのよう。このパイはライフスタイル雑誌『マーサ・スチュワート・リビング』のもと編集者でフード・スタイリストのスーザン・スパンゲンが担当。ウィンスレットとブローリンは撮影開始前にスパンゲンのパイ作りのクラスに出席し、「子どもの頃は料理人になりたかった」というブローリンはパイ作りを楽しみ、撮影中は毎晩ひとつ焼いていたとのこと。原作者のメイナードはこの映画を気に入り、自身がアップルパイを作る動画を公開しているとも。映画の公式HPには“フランクのピーチパイ”のレシピが紹介されていて、劇中のパイを実際に再現できるのも面白い。
原作者であるアメリカの作家ジョイス・メイナードは、18歳のときに当時53歳だったJ.D.サリンジャー(『ライ麦畑でつかまえて』の伝説的な作家)と同棲していた時のことを綴った『ライ麦畑の迷路を抜けて』などの著書で知られる人物。本作の原作『Labor Day』はアメリカでベストセラーになり、18か国で翻訳されているそう。ライトマン監督はこの小説について、「この原作の素晴らしいところは、人間の“説明できない欲望”を描いている点。それを僕自身が映画で見たかったんだ」と語っている。
本作の撮影現場でウィンスレットは、息子役のグリフィスに寄り添い、「一緒のシーンを撮影する時や、彼が私を必要としていると感じる時はそばにいたわ。まるで親のようにね」と母親の気持ちでいたとコメント。ウィンスレットは’13年12月に第三子となる男の子を出産し(3度目の結婚で子どもたちの父親はそれぞれ別)、’14年3月17日にはハリウッドのウォーク・オブ・フェームに2520番目の“スター”として名を刻み、お祝い続きの彼女。スタッフ、キャストともこれだけのメンバーながら、大ヒットする内容ではないものの、演技派による味のあるメロドラマを観るのもなかなか、という感覚の作品だ。
公開 | 2014年5月1日公開 TOHOシネマズシャンテほか全国順次ロードショー |
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制作年/制作国 | 2013年 アメリカ |
上映時間 | 1:51 |
配給 | パラマウント ピクチャーズ ジャパン |
原題 | Labor Day |
脚本・監督 | ジェイソン・ライトマン |
原作 | ジョイス・メイナード |
出演 | ケイト・ウィンスレット ジョシュ・ブローリン ガトリン・グリフィス トビー・マグワイア トム・リピンスキー クラーク・グレッグ ブリード・フレミング マイカ・モンロー ジェームズ・バン・ダー・ビーク ブルック・スミス J・K・シモンズ |
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