ウェス・アンダーソン監督が豪華俳優陣とともに贈る
流麗にしてユニーク、カラフルで芳醇な味わいのミステリー
伝説のコンシェルジュによる最上のおもてなしをどうぞ!
クラシックにしてモダン、流麗にして愛らしく、ミステリアスでコミカル。『ムーンライズ・キングダム』のウェス・アンダーソン監督のスタイルがたっぷりと堪能できる最新作。出演は1996年の映画『イングリッシュ・ペイシェント』やハリー・ポッターシリーズの演技派レイフ・ファインズ、オーディションで抜擢されたグアテマラ系の若手俳優トニー・レヴォロリ、’91年の映画『レザボア・ドッグス』などアクの強いキャラクターで知られるハーヴェイ・カイテル、2009年の映画『シャーロック・ホームズ』のジュード・ロウ、’09年の映画『ラブリー・ボーン』のシアーシャ・ローナン、そしてアンダーソン監督作品の常連であるティルダ・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートンら豪華キャストがそろいぶみ。伝説のコンシェルジュが遺産相続問題に巻き込まれ、愛弟子のベルボーイとともに第一次大戦前夜のヨーロッパ大陸を駆け巡る。人間の弱く醜悪でダメな部分も、純粋で強く美しい部分も独特の配合で織り上げる、カラフルで芳醇な味わいのミステリーである。
「これは私が聞いた話だ。まさに、思いもよらない展開だった――」。現代のヨーロッパ大陸の東端、旧ズブロフカ共和国の年老いた国民的作家は語りだす。1968年、作家がまだ若いころ、昔は栄耀を極め、いまはさびれた場所となった「グランド・ブダペスト・ホテル」に滞在していたときのこと。ロビーで謎のホテルオーナー、ゼロ・ムスタファと出会う。作家は貧しい移民から大富豪となったオーナーに好奇心を抱き、オーナーは波乱万丈の自らの人生をゆっくりと語り始める。1932年、「グランド・ブダペスト・ホテル」は“伝説のコンシェルジュ” グスタヴ・Hが切り盛りしていた。究極のおもてなしを信条に、さまざまな注文や相談を受け入れ、宿泊するマダムたちのベッドの相手もする。一流ホテルに憧れてベルボーイになった少年ゼロは、グスタヴのもとで従業員として学び始める。そんな折、グスタヴの最上の顧客“マダムD”が殺される。マダムDが遺言でルネッサンス時代の貴重な絵画をグスタヴに遺したことから、彼は莫大な遺産をめぐる相続争いに巻き込まれてゆく。
きらびやかなラグジュアリー・ホテルの世界から一転、軍人に囚人に暗殺者とキナ臭くなり、雪原のなかの厳しい逃避行をポップに描く。アンダーソン監督らしいおたのしみが満載の本作。なかでも、1930年代の古きよきヨーロッパのリゾート地という“旧ズブロフカ共和国”の厳しい自然とゆったりとした雰囲気、一流ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」のゴージャスなデザインはとても美しい。またアンダーソン監督と撮影監督のロバート・イェーマンは、時代ごとに画面のアスペクト比を変更。現代のシーンには1.85:1フォーマットで、’60年代のシーンにはアナモルフィック・ワイドスクリーン、’30年代には当時よく使われた四角い比率の1.37:1フォーマットを使用するというユニークな試みも。
“伝説のコンシェルジュ” グスタヴ・H役はファインズが、タフにエレガントにぬかりなく。アンダーソン監督は脚本の段階からこの役をファインズにあて書きしていたそうで、上品を信条にしながら、手段を選ばずに実利をガッチリ守る、たくましいキャラクターをいい塩梅で表現している。監督は原案のヒューゴ・ギネスとともに、2人の共通の友人をモデルにグスタヴ役を作り上げたそうで、「その男は、独特の素晴らしい言葉遣いと並外れた人生観をもっていて、ほかの誰とも違うとびきり魅力にあふれた個性的な人物なんだ」とコメントしている。グスタヴの愛弟子でベルボーイ見習いのゼロ役はレヴォロリが初々しく。マダムD役はスウィントンが、毎回約5時間もの特殊メイクで84歳の伯爵夫人に変身したとのこと。オーストリアの画家グスタフ・クリムトの絵を参考にしたという美しいドレスをまとい、一見「誰?」という変貌ぶりに注目だ。現代の作家役にトム・ウィルキンソン、’60年代の作家役にジュード・ロウ、’60年代のホテルオーナー、ゼロ・ムスタファ役にF・マーレイ・エイブラハム、マダムDの腹黒い息子ドミトリー役にエイドリアン・ブロディ、執事のセルジュ・X役にマチュー・アマルリック、代理人コヴァックス役にジェフ・ゴールドブラム。そして軍警察の大尉ヘンケルス役にノートン、囚人を仕切るルートヴィヒ役にカイテル、ズブロフカ1有名なベーカリー「メンドル」のパティシエでゼロの恋人であるアガサ役にローナン、一流コンシェルジュの秘密結社クロスト・キーズ協会のムッシュ・アイヴァン役にマーレイ、ドミトリーの冷酷な手下ジョプリング役はウィレム・デフォー、軍人コンシェルジュのムッシュ・チャック役はオーウェン・ウィルソンなどなど、それぞれに個性をくっきりと打ち出した、充実の配役がたのしめる。
本作の名を飾る「グランド・ブタペスト・ホテル」は、ドイツの町ゲルリッツの広大なデパートを大幅に改築して撮影されたとのこと。’30年代初期に温泉リゾート地として栄えたきらびやかな全盛期から、ファシストに支配されて客足が遠のいた共産主義時代のうら寂しい衰退期まで、いずれもノスタルジックで魅力的なたたずまいとなっている。ホテルの外観、ソリとスキーのチェイス・シーンの大部分は模型で撮影されたそうで、アナログな手作り感のあるかわいらしさもチャーミングだ。アガサの作る美しいお菓子“コーティザン・オウ・ショコラ”は地元のベーカリーが、グスタヴのピンキー・リングや、アガサの磁器ペンダントなどの小道具は、ゲルリッツのアーティストや職人の手作りで。手描きの磁器はマイセンで経験を積んだアーティストのハイデマリー・クリンガーが手がけたそうだ。余談ながらゲルリッツのあるドレスデンという土地は、実際に’04年に世界遺産として認定されたものの、’09年にエルベ渓谷に橋を架けたことから登録を抹消された場所とのこと。こうした事情もまた、“旧ズブロフカ共和国”のストーリーに妙にハマっている。
逃避行、子どものコスプレ、謎の結社、かわいらしいデザインの衣装や小道具、ディテールに凝ったインテリアや小物類など、お決まりでありながら、毎回よく楽しませてくれるところがたまらないアンダーソン監督作品。劇中の音楽にはロシアから50人編成のバラライカ・オーケストラが参加し、エンディングロールでは、ほんのりと哀感を含む軽快な民族音楽ふうのサウンドが。その響きに思わず、「ものすごくコサック・ダンスがみたい。ロシアの民族衣装を着たひとたちのあの踊り」という衝動にかられていたら、スクリーン右下に3等身のロシア風衣装をまとった小さなおじさんのアニメーションがぴょこんと現れ、ちまちまと踊り出すという絶妙さに、個人的に小さく感動も。最後の最後まで一流コンシェルジュさながらのホスピタリティーを感じさせ、観客のハートをがっちりとつかみとる本作。ストーリー性うんぬんを超えたところにある独特のシュールな雰囲気とエンターテインメント性、人生のツボや人間の本質をさらりと手短に差し入れる小気味よさ。現在45歳のアンダーソン監督はこれから長年の間にたくさんの作品を制作していくだろう。その創作活動を、世界中のファンとともにとても楽しみにしている。
公開 | 2014年6月6日公開 TOHOシネマズ シャンテほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2013年 イギリス=ドイツ合作 |
上映時間 | 1:40 |
配給 | 20世紀フォックス映画 |
原題 | THE GRAND BUDAPEST HOTEL |
監督・脚本 | ウェス・アンダーソン |
出演 | レイフ・ファインズ トニー・レヴォロリ F・マーレイ・エイブラハム マチュー・アマルリック エイドリアン・ブロディ ウィレム・デフォー ジェフ・ゴールドブラム ハーヴェイ・カイテル ジュード・ロウ ビル・マーレイ エドワード・ノートン シアーシャ・ローナン ジェイソン・シュワルツマン レア・セドゥ ティルダ・スウィントン トム・ウィルキンソン オーウェン・ウィルソン |
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