天空の蜂 試写会日記 毎週、あつた美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
天空の蜂

©2015「天空の蜂」製作委員会 

ハイジャック犯の要求は、「日本全国すべての原発の破棄」
最悪の事態の回避と事件解決のため、関係者たちが奔走する
人々の真摯な思いと行動を描くクライシス・サスペンス

遠隔操縦で巨大ヘリがハイジャックされ、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止。犯人からの要求は、“日本全国すべての原発の破棄”だった――。
 社会派のテーマ性とスケールの大きさから「映画化は難しい」と言われていた東野圭吾の1995年の小説を、映画『明日の記憶』『SPEC』の堤幸彦監督が映画化。出演は江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛、國村隼、柄本明ほか。
 “天空の蜂”と名乗る犯人は原発破棄の要求とともに、「従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させる」と宣言する。事件の解決と最悪の事態の回避のため、ヘリと原発の設計士、原発の所員、自衛隊、警察、消防ほかたくさんの人々が奔走する。明確なテーマのもと、人々の思いと行動を臨場感あふれるドラマとして描くクライシス・サスペンスである。

1995年8月8日。最新鋭の巨大ヘリ「ビッグB」が突然動き出し、子どもを1人乗せたまま、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止。遠隔操縦でヘリをハイジャックした犯人は“天空の蜂”と名乗り、“全国すべての原発の破棄”を要求。「従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させる」と宣言する。「ビッグB」を開発した設計士であり、ヘリに取り残された子どもの父親である湯原と、原子力発電所の設計士・三島をはじめ現場の関係者たちは、子どもの救出と、日本消滅の危機を阻止すべく奔走するが、政府は原発破棄を回避しようとする。

ヘリの燃料が尽きて墜落するまで8時間。刻々と迫る時間のなか、さまざまな思惑が絡み合い、張りつめた緊張感と迫りくる臨場感がひしひしと伝わってくる本作。息をのみ、手に汗を握る展開のなか、きっぱりとしたメッセージでハッとさせて。観る側にいろいろな意味で投げかけてくる内容となっている。
 1995年に東野氏が発表した原作の小説に、テロの脅威、エネルギー政策、いじめ、ハイジャックなど20年後の現在の問題がくっきりと描かれていることに改めて驚かされる。また遠隔操縦によるヘリのハイジャックは、最近の“ドローン問題”を彷彿とさせる感覚も。
 社会派のテーマをはっきりと描く作品となると、興味のない人にとっては「押しつけられているようで、真面目すぎて息苦しい」と感じられることも少なくないかもしれない。だが本作の一番魅力的な特長は、大がかりなエンターテインメント作品として年齢性別問わず入り込める内容に加え、迫力と面白さとともに堤監督ならではの間合いの妙で、社会的なテーマやメッセージを観る側にするりと自然に渡すところだ。
 堤監督は語る。「これまで様々な作品を作らせていただいていますが、こんなにも神経を張りつめて創った作品はありませんでした。トップカットからスタッフロールまで、全神経を集中させて作りました。自分でも、少しびっくりするような仕上がりになりました。色々な年代の方、もちろん男性も女性も、お子様からご年配の方まで、ハラハラドキドキしながらも、さぁこの先どうなるんだ、と楽しんでいただける作品になったのではないかと思います」

江口洋介,本木雅弘

ヘリの設計士・湯原役は江口洋介が、原発の設計士・三島役は本木雅弘が、ともに状況や人々に真剣に向き合うさまを表現。クライマックスで湯原がヘリから身を乗り出すシーンは、堤監督たっての希望でCG背景ではなく江口本人が実際にヘリに乗って行っている。
 錦重工業総務課勤務の女性・赤嶺役は仲間由紀恵が影のある存在として、巨大ヘリ「ビッグB」を奪った雑賀役は綾野剛が手段を選ばずに意志を貫こうとするさまで印象的に。事件を追う福井県警のベテラン刑事・室伏役は柄本明が、その部下の新米刑事・関根役は落合モトキが、原発「新陽」の所長・中塚役は國村隼が、福井県消防本部の特殊災害課長役は光石研が、福井県警の警備部長役は佐藤二朗が、航空自衛隊員で救助ヘリの操縦士役はやべきょうすけが、同じく航自で子どもの救出に向かう隊員役は永瀬匡が、錦重工業を取り調べる愛知県警の刑事役は手塚とおると松島花が、東京から指示を出す警察庁長官役は竹中直人が、原子炉核燃料開発事業団「炉燃」理事長役は石橋蓮司が、16年後の自衛隊員役は向井理が、それぞれに演じている。

原作者の東野氏は今回の映画化についてこのように称えている。
 「映画化など絶対に不可能だと思っておりましたが、執筆中に思い描いた以上の映像に圧倒されました。監督や俳優の皆さん、そのほか多くの方々の熱い思いが伝わってくる、骨太の素晴らしい映画だと思います。私自身の血も、この小説に取り組んでいた二十年前のように騒ぎました。きっと多くの人々の心を揺さぶることだと思います」
 東野氏が作家デビューから10年となる1995年に発表した原作の小説について、最初から「勝負作だ」と自身で宣言していたと、当時の担当編集者は語っているそう。執筆に5年の歳月をかけ、防衛庁や大学の原子力研究者、飛行機とヘリコプターの専門家などへの取材など綿密な調査を行ったそうだ。そして東野氏とともに当時の担当編集者は福井県敦賀市の原発「もんじゅ」の取材に同行。「もんじゅ」の広報担当者の案内で、原発の安全性についての説明を受けながら見学した後、ガイガーカウンターで身体を測定すると、ごく微量ながら被曝していると知る。人体にまったく影響のないレベルとわかっていても、施設をひと回りしただけで被曝することに、2人とも漠然とした不安を感じたそうだ。
 そして1995年11月に『天空の蜂』が刊行。奇しくも翌月の12月に「もんじゅ」でナトリウムの漏えい事故とその隠ぺい事件が発覚したとのこと。前述の元担当者氏は語る。「作品はあくまでエンターテインメントとして、原発推進派と反原発派のどちらにも与しないスタンスが貫かれています。しかし、東野さんの中には、いつか大変なことが起きるという予感はあったのではないでしょうか」

江口洋介

600ページ超の原作を約2時間の映画にするにあたり、プロデューサー陣は設定や構成の異なる数十種類のプロットを作ることに。依頼を受けた脚本家の楠野一郎は、ヘリに囚われる子どもを湯原の同僚・山下の息子から湯原の息子・高彦に変更、ラストシーンを2011年の日本に変更する設定をひらめいたそう。またこの頃に東野氏から2つの提案があり、その内容は「震災を踏まえて描く」、「プロローグなどで2011年以降の現在を描き、そこに1995年の物語の中でヘリに囚われていた子供を成長した姿で登場させる」という楠野氏の発想と通底する内容であったことから、方向性が確定。楠野氏とプロデューサー陣は5つもの原発を有する福井県に赴き、「もんじゅ」、美浜原発、敦賀原発を見学したとのこと。そして脚本開発にかかり、内容を何度も練り上げて17稿で完成したそうだ。
 2015年6月22日に行われた映画『天空の蜂』完成報告会見にて、堤監督は本作についてこのように語った。「テロという現代の脅威、3.11を通して生で危機感を感じた中、どのようにこの題材と関わるか。そして、親子の作品でもあるので、その想いを映画的にどう語るか。日本で題材にすべき作品ですし、いろんなテーマが詰まっています。自分だったらどんな立場でいるか、ぜひ考えてほしいです」

2013年9月に福井県の大飯原発が停止してから、原発ゼロを約2年続けてきた日本。反対多数のなか、2015年8月11日に鹿児島県にある九州電力の川内原子力発電所1号機が再稼働、14日から送電が開始されたのは周知のことで。原作の小説とこの映画は、「原発推進派と反原発派のどちらにも与しないスタンスが貫かれています」という元担当編集者の言葉のとおりであり、感じること、考えることを投げかけている。
 前述の6月の完成報告会見にて、堤監督はこのように語った。「人間というのは、社会、家族、地域、集団のなかで過ごすと何も考えず、考えることを放棄してしまう。そのことに対して、この犯人は警告をしています。正しいやり方ではないが、皆さんもどう感じるか、ご覧になっていただきたいです」

『天空の蜂』
2015年 日本映画

データ

2015年8月14日更新

天空の蜂
オフィシャルサイト
『天空の蜂』

2015年9月12日より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー


■2015年 日本映画
■上映時間 2:18
■松竹配給
■監督/堤幸彦
■原作/東野圭吾
■脚本/楠野一郎
■音楽/リチャード・プリン
■出演/江口洋介
本木雅弘
仲間由紀恵
綾野剛
國村隼
柄本明
光石研
佐藤二朗
やべきょうすけ
手塚とおる
松島花
石橋けい
前川泰之
松田悟志
森岡豊
カゴシマジロー
竹中直人
落合モトキ
向井理
永瀬匡
石橋蓮司




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。