キングスマン

気品ある英国紳士がストリートの青年をスパイに勧誘!?
コリン・ファース主演、『キック・アス』の原作・監督コンビによる
青年の成長物語にしてアクション・エンターテインメント

  • 2015/09/11
  • イベント
  • シネマ
キングスマン©2015 Twentieth Century Fox Film Corporation

オスカー俳優コリン・ファース主演、『キック・アス』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のマシュー・ヴォーン監督による、イギリスの伝統とモダンがポップにミックスしたスパイ・アクション。共演は2014年の映画『インターステラー』マイケル・ケイン、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のサミュエル・L・ジャクソン、'14年の映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のマーク・ストロング、'15年12月に日米公開予定の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のマーク・ハミル、そして本作が映画初出演のイギリスの新人俳優タロン・エガートンほか。原作・製作総指揮は、'08年の映画『ウォンテッド』と'10年の『キック・アス』を手がけたマーク・ミラー。
 大学を中退し身分も学も金もなく無気力に過ごしている青年エグジーはある日、身なりのいい英国紳士からスパイにスカウトされ…。世界規模の陰謀に立ち向かうスパイ・アクションにして、大人から若い世代に理念や誇りをもつこと、気品と装いの大切さを伝え、青年の成長を描くエンターテインメント作品である。

1997年の中東。1人の英国人エージェントが機密活動中に死亡し、妻と幼い子どもにその知らせが届けられた――。
 それから17年、2014年のロンドン。母親はガラの悪い彼氏の子どもを生み、22歳になった息子エグジーは大学を中退し、無職のままブラブラしている。ある日、つっかかってきた奴の車を勢いで盗んだエグジーは警察に逮捕。困窮したエグジーが「困ったらここに電話を」と17年前に渡された番号を思い出し電話すると、父の同僚だった身なりのいい紳士ハリーが現れ、無罪放免に。ハリーは自身が秘密裏に活動する国際的な独立諜報機関のエージェントであると告げ、信頼していた同僚の息子であり身体能力の高いエグジーに、エージェントの新人試験を受けてみないか、とオファーする。

コリン・ファース,タロン・エガートン

表向きはサヴィル・ロウにある高級テイラー「キングスマン」の仕立て職人にして、その裏の顔は秘密裏に活動する国際的な独立諜報機関キングスマンのエージェント、という独特の設定がユニークなスパイ・アクション。スーツをピシッと着こなす英国紳士然とした敏腕諜報員ハリーと、ヒップホップ系ファッションで冷めた様子の青年エグジーは対照的でありながら、孤独という共通点があって。ベテランと新人という立場から、同僚や友人のように、そして父と息子のように、疑似家族のようなつながりや信頼が育っていく様子がいい感じで描かれている。人生をあきらめ気味の青年が師と呼べる大人と出会い、目標を見出し変化してゆく成長物語となっているところも楽しい。
 ヴォーン監督は語る。「エグジーにしてもほかのキャラクターにしても、自分を投影させている部分は少なからずある。特に成長物語を描く場合はそうだね。自分もかつては子どもだったから、成長物語はどんな人にも響くものだと思う。若い子にとっては、自身が実際に直面しているあれこれが描かれているわけだし、すでに大人になっている人でも、次世代を育てようとしている彼らにとって十分に響くものになる。僕が成長物語に魅かれるのは、『スター・ウォーズ』の影響もあるかもしれないね」

一流スパイのハリー役は、コリンが気品ある切れ者として。シリアスな'11年の映画『裏切りのサーカス』で演じたスパイとはまったく異なり、明るくキレのある展開に軽快にノッている。本格アクションは初であるコリンはこの映画のために数ヵ月間トレーニングを行ったそうで、アクションはほぼ本人がこなしたとのこと。なかでも見どころのひとつである教会を舞台にしたクライマックスのシーンは、「ワンテイクで撮影した」というからスゴイ。この事実をふまえてこのシーンを観てみると、ストーリー上のびっくりプラス技術的な意味での感嘆が相まって、Wの驚きが味わえるだろう。
 ハリーが身につけているクラシックな英国紳士の定番、黒い長傘、磨きこまれた靴、オーダーメイドのスーツにカフスボタン、といった伝統的なアイテムが最新ガジェットに早変わりするところもお約束ながら面白い。それらがズラリと並ぶ秘密の隠し部屋に初めて入った時、エグジーが子どものように浮かれる姿は、観ていて「わかるわかる」と素直に共感する。

タロン・エガートン

キングスマンのリーダー、アーサー役はマイケル・ケインが威厳をもって、世界的な陰謀を企てるIT富豪ヴァレンタイン役をサミュエルが演じるのはどこかズレているもののそれも可笑しく、キングスマンの教官マーリン役はマーク・ストロングが冷静かつ実直なリアリストとして、謎の組織に拉致されるアーノルド教授役はマーク・ハミルがそれらしく演じている。そして'12年に英国王立演劇学校(RADA)を卒業し本作でエグジー役に抜擢され映画デビューとなったタロン・エガートン、キングスマンの新人候補生であり美人の優等生ロキシー役のソフィー・クックソン、ヴァレンタインの片腕にして義足の暗殺者ガゼル役のソフィア・ブテラと、魅力的な若手俳優たちの起用も注目だ。
 キャスティングの大切さについて、ヴォーン監督はこのように語っている。「僕は監督の仕事の8割がキャスティングだと思っている。映画作りの一番大事な要素だよ。その点、タロンとソフィーはまさに探し求めていた2人だった。ハリウッドは知名度のある役者をキャスティングしたいがために、ミスキャストする傾向にある。当然、上手くいかないよね? 製作陣は『有名なキャストを起用したのになぜ上手くいかなかったのか?』と疑問に思うようだが、それは役者の知名度を優先しているからだ。僕はそれぞれの役にちゃんと合った俳優をキャスティングすることを鉄則にしている。それをリスクだという人もいるが、僕はそうしないことのほうがリスクだと思うな」

この作品は原案の段階から、映画の原作であるグラフィックノベルの『キングスマン: ザ・シークレット・サービス』の原作者であり本作の製作総指揮も手がけるマーク・ミラーとヴォーン監督が協力して完成させたとのこと。映画では監督と共同ライターのジェーン・ゴールドマンがアイデアを出し合い練り上げ、ヒットした映画『キック・アス』の映画化の時とほぼ同じ手法で進めたとも。
 そもそもの始まりは、ミラーがジェームズ・ボンド映画の第1作『007/ドクター・ノオ』についての新聞記事の内容を、ヴォーンに話したことからだったそう。007シリーズの原作者であるイアン・フレミングの反対を押し切って、テレンス・ヤング監督がショーン・コネリーを起用した時のことについて、ミラーは語る。「ヤング監督は、エジンバラ出身のコネリーを紳士に仕立てなければならないことに気づき、撮影を始める前に、コネリーを自分が通っている紳士服の店やひいきにしているレストランへ連れて行き、食事の作法から、話し方、紳士的なスパイとしての着こなしまで徹底的に教えこんだんだ」
 もともとスパイもののファンというヴォーン監督は語る。「マーク・ミラーも私も最近のスパイものがやたらシリアスになっていることに不満だったんだ。我々は『007』シリーズや『電撃フリント・アタック作戦』、TVシリーズ『おしゃれ㊙探偵』などを観て育ってきた。どれも軽やかながらしっかり楽しめるスパイもので、とにかく楽しくて想像力あふれる作品だったんだ。そこで、“現代のスパイ劇を描くならどうするか”という話に発展し、古い世代と新しい世代がミックスする展開も入れてはどうか、と。そうやって『キングスマン』が生まれたんだ」

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劇中でハリーが若いエグジーに繰り返し語ることがある。
 「生まれの貧しさで人生は決まらない。学ぶ意欲さえあれば変われるんだ。『マイ・フェア・レディ』みたいに」
 「人は生まれた家柄で紳士になるんじゃない。学んで紳士になる。我々は真の紳士だ」

イギリスを含むヨーロッパが階級社会であることはよく知られているし、インドにはカーストという独特の身分制度があるなど、“自由で平等な差別のない”現代においても国や地域によって当然のこととして線引きがあると聞く。 “格差”という所得や資産に基づくこととはまた異なる、生まれたときから絶対的に変えようのない立場というものか。
 原作者のミラーはイギリスのスコットランド出身であり、ヴォーン監督はイギリスのロンドン出身であり、それは身に染みてよく知っている上で、“生まれや育ちに関わらず、誰もが自らの意志と行動によってなりたい者になることができる”と言い切っているところが、とても格好いいな、と筆者は思う。

すでに世界で興行収入4億円のヒットとなり続編の噂もある本作。ヒットの理由について、ヴォーン監督は気負うこともない様子でこんなふうに語っている。「普遍的なストーリーを描いているからじゃないかな。貧しい育ちの子どもがスパイになる話は希望に満ちた成長物語だし、地球温暖化や人口過密など、誰にとっても他人事ではないテーマを扱っているから。一方、そんな深刻な世界情勢の中、なにより楽しい映画だからヒットしていると言えるかもしれないよ。人々はみな、2時間ばかりの現実逃避を望んでいるんじゃないかな」

作品データ

キングスマン
公開 2015年9月11日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 イギリス
上映時間 2:09
配給 KADOKAWA
映倫区分 R15+
原題 Kingsman: The Secret Service
監督・製作・脚本 マシュー・ヴォーン
原作 マーク・ミラー
脚本・共同製作 ジェーン・ゴールドマン
製作総指揮 マーク・ミラー
デイブ・ギボンズ
出演 コリン・ファース
マイケル・ケイン
タロン・エガートン
サミュエル・L・ジャクソン
マーク・ストロング
ソフィア・ブテラ
ソフィー・クックソン
マーク・ハミル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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