PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜

かの『ピーター・パン』の始まりの物語が新たに誕生
実力派俳優たちが美しい映像を背景に躍動する
子どもも大人もみんなで楽しめる冒険ファンタジー

  • 2015/10/19
  • イベント
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PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜©2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC.

20世紀初頭に『ピーター・パン』が生まれてから100年以上、舞台に映画にアニメーションに長年親しまれてきたJ・M・バリーの名作にもとづき、その始まりの物語が新たに誕生。出演は「X-MEN」シリーズや映画『レ・ミゼラブル』のヒュー・ジャックマン、『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラ、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』のギャレット・ヘドランド、『パパが遺した物語』のアマンダ・サイフリッド、トップモデルのカーラ・デルヴィーニュ、そしてオーディションで選出され本作がメジャー映画デビューとなるオーストラリア出身の少年リーヴァイ・ミラーほか。監督は『プライドと偏見』『つぐない』のジョー・ライト、脚本は自身のアイデアで本作のストーリーを練り上げた若手のジェイソン・フュークス。
 ロンドンの孤児院に暮らす少年ピーターは母からの手紙を見つけて、思いがけずネバーランドへ旅立つことに――。子どもも大人もみんなで一緒に楽しめる冒険ファンタジー大作である。

第二次世界大戦中のロンドン。孤児院で暮らす12歳の少年ピーターは親友ニブスとともに、子どもたちにつらくあたる強欲な院長マザー・バーナバスに反発しながら今日も元気に過ごしている。ある日、地下室で母からの古い手紙を見つけたピーターは、思いがけずネバーランドへ。何が起きたのかわからないまま、ネバーランドを恐怖と狂乱とともにとり仕切る黒ひげに脅かされ、謎の鉱石の採掘現場で働くことに。先住民の暮らすエリアに行き母を探そうと決めたピーターは、現場で知り合った青年フックとともに森へ逃亡するが……。

本来は有色人種である先住民の女性タイガー・リリーを白人女性が演じたこと、かの『ピーター・パン』の始まりとしての物語性についてなど、アメリカでは厳しい評価もある本作。すべての人種にチャンスの道が開かれていることはとても大事なことで、差別的な表現と誤解されることを避けるつもりだったとしても、結果的に特定の人種を優先している形に見えることは残念に思う。
 ただ個人的に内容は、名作をもとにアレンジする映画にもともとさほど期待していないせいか、思いのほか楽しめたなと。実力派俳優たちの共演と、戯曲の演出でも評価されているライト監督の感性、不思議の世界ネバーランドや空飛ぶ海賊船など実際に作られた壮大な美術セット、ロック・ミュージカル風のシーンなどをシンプルに観るということなら、単純に楽しめる面もあるのでは。

ヒュー・ジャックマン

少年ピーター役はリーヴァイが明るくのびのびと。悪ガキのやんちゃぶり、キリッとした勇敢さ、生き別れたママを慕う子どもらしさと、さまざまな表情と素直さがかわいらしい。ネバーランドの独裁者、黒ひげ役はヒューが気まぐれで冷酷ながらどこか抜けている面がコミカルな海賊として。なかでも映画『レ・ミゼラブル』然り、ブロードウェイでも実力が認められているヒューが大勢の人たちとともに、ニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」やラモーンズの「Blitzkreig Bop」を大合唱するシーンは、ロック・ミュージカルさながらに楽しめる仕上がりだ。
 ネバーランドの森ネバーウッドで暮らす女性戦士タイガー・リリー役はルーニーがりりしく、もとの世界に戻るという目的のためにピーターと行動をともにする青年フック役はギャレットがコミカルかつタフに、ピーターの母役はアマンダが、3人の美しい人魚たちはすべてカーラひとりが演じている。
 黒ひげの子分でお調子者のスミー役はイギリスのテレビで活躍するアディール・アクタル、黒ひげの忠実な部下ビショップ役はノンソー・アノジー、先住民たちの指導者で村の族長役はジャック・チャールズ、村の偉大な戦士クワフー役は韓国の体操選手でありマーシャル・アーツの達人である俳優ナ・テジョーナ・テジョー、身勝手な孤児院の院長マザー・バーナバス役はキャシー・バークが演じ、脇のキャラクターたちも個性が立っているところが特徴だ。

撮影は、『ピーター・パン』を執筆した小説家J・M・バリーの住居にも近く、作家にさまざまなインスピレーションをもたらしたというロンドンの有名な公園ケンジントン・ガーデンズや、ビクトリア朝式の建築で知られるロイヤル・アルバート・ホールやブライス・ハウスでも行ったとのこと。
 美術監督はライト監督とはシャネルのCMで組み、映画では初タッグとなるアリーヌ・ボネット。グリーン・スクリーンを背景に撮影しCGで後から合成するのではなく、できる限りほとんどを実際にセットとして製作したという本作は、いろいろな時代や文化や自然がミックスされた生き生きとした映像が特徴。なかでも巨大で奇妙な極彩色のクリーチャー、ネバーバードが生息する不思議な森ネバーウッドはとても広く、高さ15メートル超のものもあるガラス繊維製の木々とともに20〜30種類の本物の熱帯植物を何千本も植え、グローライト(植物栽培用に暖房器具を兼ねた電灯)を設置し植物係のスタッフが熱心に世話をしてあの状態まで育てたとのこと。そのため撮影期間中に森では独自の生態系が発展し、コオロギやクモなどの昆虫類や鳥が棲み、コウモリが訪れることもあったほどというからユニークだ。

PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜

本作で初めて3D映像に挑戦するにあたり、ライト監督はできるだけ包み込むような形で、観客にピーターの世界を体験してほしいと思ったとのこと。監督は語る。「この映画で僕らが目指したのは、子供でも大人でも完全に没入できる世界を創り出すことなんだ。僕は3Dで描く環境として、ネバーランド以上のカンバスに出会ったことがなかったので、機が熟したと感じた。そして、観客も想像したことのない形で、この驚異の世界を体験することになると思うよ」
 またアニメーション部分の監督として、ビョークやレディオヘッドのミュージックビデオを手がけたアンドリュー・ホワンが参加。「プロローグ」「記憶の木」「水中の回想」という3つのアニメーション・シークエンスで、幻想的で躍動感のある映像を楽しむことができる。

黒ひげが人々とともにニルヴァーナやラモーンズを歌うシーンをはじめ、劇中ではシーンを彩る音楽も魅力のひとつ。フックがトランポリンで村の戦士クワフーと戦うシーンでは、撮影に世界的に名高いジャズ・ドラマーのトニー・アレンが参加し、2人の戦いに合わせてドラム・ソロを演奏。イギリスのアーティスト、リリー・アレンが同国のバンド、キーンのティム・ライス=オクスリーとの共作による2曲のオリジナル曲「Something's Not Right」「Little Soldier」を提供していることも話題に。
 多彩なミュージシャンが参加した、タイガー・リリーたちが暮らすツリー・ビレッジのシーンでは、ブラジルのカーニバル・スタイルのドラマー集団によるアフリカとブラジルのスタイルがミックスしたユニークなリズム・サウンドを演奏。なかでも注目はそこに歌で参加しているアフリカン・チルドレンズ・クワイアだ。ウガンダからやってきた子供たちの大人数のコーラス・グループで、世界中で公演旅行をしながらアフリカの子供たちの教育と救援活動のための資金を集めているとのこと。撮影時に彼らが約1週間参加した時のことについて、ライト監督はこんなふうに語っている。「あの子たちはあの時にたまたまイギリスにいて、セットに来て参加してくれたんだよ。本当にすばらしかった。彼らのおかげでとてもいい雰囲気になったよ。この映画は誰のために作っているのか、その対象がセットにいるのが嬉しかったし、あの数日間は確かに彼らのための撮影だった」
 子どもたちと本作について、ヒューはこんなふうに語っている。「子どもたちには、楽観的なものと喜びが無限に詰まっている気がする。この映画は子どもたちのための冒険物語だ。大人の心の中にいる子どもも含めてね」

ルーニー・マーラ

映画のみならず、舞台、音楽、アニメーションなどのさまざまな要素がミックスされている感覚の本作。こうしたバランスはライト監督のプロフィールを見ると納得できる。監督は操り人形師(パペッティア)一家の出身で、ロンドンのイズリントンに劇場「ザ・リトル・エンジェル・シアター」を創立した両親のもとで育つ。本作ではネバーバードの原型のデザインを、操り人形師である監督の姉サラ・ライトが手がけたそうだ。ライト監督はロンドンのセントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アートで美術・映画・ビデオを学び、大学を卒業後、音楽ビデオや短編映画に携わり、1997年からBBCのドラマなどを手がける。そして2005年の長編映画監督デビュー作品『プライドと偏見』が高く評価され、'07年の『つぐない』、'09年の『路上のソリスト』、'12年の『アンナ・カレーニナ』などの映画を手がけ、'13年には舞台劇『Trelawny of the Wells』のドンマー・ウェアハウス公演の演出を務めて演劇界にもデビュー。妻は伝統的なシタール奏者アヌーシュカ・シャンカールであり、現在は幼い息子とともにロンドンに在住しているそうだ。
 本作について、「僕はとにかく、ワクワクできて、存分に楽しめる映画を作りたかった」と語るライト監督。この映画に込めたメッセージについてこのように語っている。「ネバーランドは、その瞬間に必要なものは何でも登場する驚きと夢に満ちた世界だ。それはまさに想像力が果てしなく広がる場所なんだよ。僕はこの映画を観た人々が、その映像的、感情的な体験を通して、夢というものがどれほど楽しいものかを思い出してくれるといいなと思っている」

作品データ

PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜
公開 2015年10月31日より新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 アメリカ
上映時間 1:52
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 PAN
監督 ジョー・ライト
脚本 ジェイソン・フュークス
出演 ヒュー・ジャックマン
ギャレット・ヘドランド
ルーニー・マーラ
リーヴァイ・ミラー
アマンダ・サイフリッド
カーラ・デルヴィーニュ
アディール・アクタル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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