メアリと魔女の花

禁断の魔女の花を摘んだ少女は不思議な世界へ
ジブリ出身の米林監督×西村プロデューサーが放つ
メッセージをくっきりと描く冒険ファンタジー

  • 2017/06/26
  • イベント
  • シネマ
メアリと魔女の花© 2017「メアリと魔女の花」製作委員会

『思い出のマーニー』の米林宏昌監督と西村義明プロデューサーが、スタジオジブリ退社後の第1作として英国人作家メアリー・スチュアートの児童文学『The Little Broomstick』を翻案し、長編アニメーションとして映画化。声の出演は、杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、渡辺えり、大竹しのぶ、若手からベテランまで人気俳優たちがつとめる。赤毛の少女メアリは森で7年に1度しか咲かない青く美しい花《夜間飛行》を見つけたことから、不思議な力を手に入れる。躍動感ある映像とかわいらしいキャラクター、少女と少年の冒険ものでわかりやすくメッセージを描く、子どもから大人までみんなで楽しめるファンタジー作品である。

メアリと魔女の花

赤い館村で暮らす大叔母・シャーロットの家に引っ越してきた少女メアリは、庭や草原を散策。黒猫の後を追って森の奥へ行くと、7年に1度しか咲かないという不思議な花《夜間飛行》を見つける。それは以前に魔女の国から盗み出された禁断の“魔女の花”であり、メアリはその花から一夜限りの不思議な力を手にいれる。そしてたくさんの生徒たちが通う魔法世界の最高学府“エンドア大学”へとたどり着き、魔法使い見習いの優等生として入学が許可される。そこには伝説の魔女の花を今も探し続ける、校長のマダム・マンブルチュークと、謎の実験に執着する魔法科学者ドクター・デイがいた。

キャラクターやメッセージやはっきりしていて、シンプルさが潔い長編アニメーション。ストーリーやビジュアルのニュアンスとしては、『ハリー・ポッター』『チャーリーとチョコレート工場』『不思議の国のアリス』などの作品を思い出す向きもあり、親しみやすい内容だ。魔女といえばスタジオジブリの代表作のひとつ『魔女の宅急便』があることから、西村プロデューサーから新作のテーマとして『魔女』と聞いたときには、米林監督も最初は「え?」と思ったものの、渡された原作『The Little Broomstick』を読んでみて「これを元に今までとは違う、まったく新しい形のアニメーションができるんじゃないか?」と思ったという。2016年12月15日に行われた製作発表記者会見にて、米林監督は本作への思いについてこのように語った。「『思い出のマーニー』は"静"の作品ですが、"動"の作品を作りたいと思っていたんです。『思い出のマーニー』はすごく好きな作品で、これで終わってもいいと思っていました。でももう1本作るなら、ぜんぜん違う作品を作って、皆さんが思っているイメージを裏切りたいという思いもありました。今回は主人公の女の子が躍動的に動き、自分の意志で動き回るものにしたいと。原作からイメージを膨らませて、脚本を作っていきました。今までの作品とは違う、アクションがある作品を作りたいと思いつつ、『借りぐらしのアリエッティ』や『思い出のマーニー』でやってきた、一人の少女のそばに立って、観てくださった人にそっと寄り添い、少し背中を押せるような作品を作りたいと思いました」

メアリと魔女の花

キャラクターの声はテレビや映画などで活躍する人気俳優たちが担当。何かと不器用で赤毛のクセ毛がコンプレックスであるメアリ役は杉咲花が元気にかわいく、働いて母子家庭の家計を支える少年ピーター役は神木隆之介がしっかり者として、メアリの大叔母・シャーロット役は大竹しのぶが、その館のお手伝いさん・バンクス役は渡辺えりが、魔法世界の最高学府“エンドア大学”の校長マダム・マンブルチューク役は天海祐希が、魔法科学者ドクター・デイ役は小日向文世が、謎の赤毛の魔女役は満島ひかりが、エンドア大学のほうき小屋の番人・フラナガン役は佐藤二朗が、それぞれに表現している。冒頭に登場する赤毛の魔女が凛として美しく格好良かったので、もっと活躍が観たいなとも思ったものの、メアリとピーターの視点で描くことで、子どもたちがより楽しみやすい仕組みとなっているのはいいことだなと個人的に思う。

スタジオジブリ出身の米林監督と西村プロデューサーによる作品、として注目を集めている本作。スタジオジブリでは2013年に宮崎駿監督作品『風立ちぬ』と、高畑勲監督作品『かぐや姫の物語』の2本が同年に公開され、9月に宮崎監督が長編映画製作からの引退を発表。ジブリの制作部門は解散となり、米林監督と西村プロデューサーは2014年12月にスタジオジブリを退社。そして具体的な企画も環境も何もないなか、一緒に映画を作ろう、という意思を2人で共有し、企画を練ることからスタート。企画が定まらないまま不安とともに2015年を迎えたなか、『かぐや姫の物語』が第87回アカデミー賞にて長編アニメーション映画部門にノミネートされ高畑監督とともに2015年2月の授賞式に参加したことが、大きな転機になったと西村プロデューサーは言う。アカデミー賞授賞式前のシンポジウムにて、『ベイマックス』のドン・ホール監督はアニメーションの未来について、こう語ったそうだ。「世界中の多くの人にとって、子どもの頃に初めて映画館で観る映画はアニメーションです。影響を受けやすい子どもたちに見せるものを作っている我々は、作り手としての喜びと責任を感じながら、これからも映画を作っていきます」
 西村プロデューサーは語る。「スタジオジブリで高畑監督、宮崎監督、鈴木プロデューサーが作ってきたものがその言葉のなかにありました。快楽だけでも面白いだけでもなく、何を見せ、何を伝えるべきか? 何を作るべきか? そこには責任が生じる。それを考えて作り続けてきたのがスタジオジブリでした。そういうことを考えて作っている映画の作り手が、世の中にちゃんと残っているんだと感銘を受けましたし、そりゃそうだ、とも思いました」
 西村氏はその直後に制作スタジオを新たに作ることを決意し米林監督に伝えると、「潔くゼロからスタートしましょう」と大賛成、2015年4月にスタジオポノックを設立。今回のスタッフは、「約8割はジブリの正社員だった方や、ジブリ作品に関わってきた方々です」(西村氏)とのこと。また2015年7月には株式会社ドワンゴ、庵野秀明監督が代表をつとめる株式会社カラー、そしてスタジオポノックが、数々の作品の背景の制作や美術監督を務めてきたスタッフが名を連ねる背景美術スタジオ「でほぎゃらりー」の設立も。

メアリと魔女の花

大切なのは魔法ではなく、自分たちの力、信じる心、周囲との絆や結びつきということ、御しきれないエネルギーや動物愛護についてのこと、そして信念をもって行動し家族や恋人や友人たちを大切にすること。そして本作のエンドロールの最後には「感謝」として、「高畑勲 宮崎駿 鈴木敏夫」と御三方の名前がそっと記されている。ただし今回の作品や企画内容について相談したり、絵コンテを見てもらったりはまったくしていないとも。米林監督と西村プロデューサーは2人で一緒に長編アニメーションをつくることを、ひとりひとりに伝えたところ、みんな喜んでくれたそう。宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーは、「やるなら、覚悟をもってやれ」と言い、高畑監督は「スタジオポノックは長編アニメの牙城になるかもしれないね。何かあれば応援しますよ」と言ってくれたそうだ。

「2017年はアニメーション100年の節目の年(西村氏)」という今年に公開となる本作。最後に、前述の製作発表記者会見にて米林監督と西村プロデューサーが本作について語った意気込みとメッセージをお伝えする。
 西村プロデューサー「僕らがジブリで過ごした年月は、一種の純粋培養で育ってきて、高畑監督、宮崎監督、鈴木プロデューサーというジブリの三人の血が、麻呂さん(米林監督)にも僕にも、ポノックのクリエイターたちにも受け継がれていると思っています。米林監督が約20年のジブリ生活で、宮崎監督、高畑監督、鈴木プロデューサーと一緒に作り、学び、培ってきたことのすべてを、この1本に注ぎ込んでもらいます。ぜひ期待してもらえればと思います」
 米林監督「主人公のメアリという女の子は、何をやってもうまくいかないし、自分の容姿も気に入らない。そんな子が、あるとき偶然、不思議な力を手に入れて不思議な世界で冒険に巻き込まれていく。そこで何を感じ、どう行動するかという話です。アクション、エンターテインメントを取り入れつつ、(観る人が)『メアリを支え、応援していきたい』と思える、映画館を出たら『メアリとともに一歩前に進もう』と思えるような作品になればと思っています」

作品データ

劇場公開 2017年7月8日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 日本映画
上映時間 1:42
配給 東宝
原作 メアリー・スチュアート
脚本 坂口理子
脚本・監督 米林宏昌
音楽 村松崇継
プロデューサー 西村義明
声の出演 杉咲 花
神木隆之介
天海祐希
小日向文世
満島ひかり
佐藤二朗
遠藤憲一
渡辺えり
大竹しのぶ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。