万引き家族

カンヌ映画祭で最高賞を受賞した是枝監督作品
祖母の年金と軽犯罪で食いつなぐ一家を描き、
家族の幸せや絆について投げかける人間ドラマ

  • 2018/05/30
  • イベント
  • シネマ
万引き家族©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

第71回カンヌ国際映画祭にて最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の最新作。出演は『そして父になる』のリリー・フランキー、『百円の恋』の安藤サクラ、『勝手にふるえてろ』の松岡茉優、『悪人』の樹木希林、オーディションで選出された子役の城桧吏と佐々木みゆほか。東京の下町で質素に暮らす一家は、万引きをして生活費にあてていたが……。子どもたちの幸せ、家族のつながりについて、現代に生きる私たちに静かに投げかける。是枝監督が「10年くらい自分なりに考えてきたことを全部この作品に込めようと、そんな覚悟で臨みました」と語る、家族のドラマである。

リリー・フランキー,城桧吏

東京の下町、高層マンションの谷間にある木造の古びた平屋。家主である初枝の年金をあてに、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀、4人が転がり込んでいる。足りない生活費は治と祥太が万引きで稼ぎ、口喧嘩は日々ありながらも悪びれることなく、一家で仲よく暮らしている。冬のある日、近くの団地のベランダで部屋から閉め出されて震えている幼い女の子を、見かねた治が家に連れ帰る。体じゅう傷だらけの女の子の境遇を慮った信代は、娘として育てることに。その後、ある事件が起こり……。

社会的に許されない生き方をしていても、家族への愛情は深く偽りないこともある。心情としてはあたたかく、実情としてはあやういバランスで成り立っている特殊な“家族”を描く物語。本当の意味での子どもの幸せ、家族のつながりについて自然と考えさせられ、響くものがある内容だ。是枝監督は実際にあった、親が死亡していたことを隠して年金を不正に受給していた年金詐欺事件から着想を得たという。この作品が、2004年の是枝監督作『誰も知らない』を彷彿とさせることについては、「描き方でいえば、事件報道で断罪されたある家族の内側を、少し近づいて見てみるという視点の持ち方は、『誰も知らない』と似た部分があるかもしれません」とコメント。「原点にもう一度立ち返った」とも。そしてこの物語のテーマについて、このように語っている。「最初に思いついたのは、『犯罪でしかつながれなかった』というキャッチコピーです。年金詐欺を働いていたり、親が子どもに万引きを働かせていたり、そういった事件が報道されるとものすごいバッシングされますよね。でももっと悪いことをしている人が山ほどいるのに、それをスルーしておいて、なぜ小さなことばかりに目くじらを立てるんだろうって。一方で僕がへそ曲がりだからかもしれませんが、特に震災以降、世間で家族の絆が連呼されることに居心地の悪さを感じていました。絆ってなんだろうなと。だから犯罪でつながった家族の姿を描くことによって、あらためて絆について考えてみたいと思いました」

城桧吏,リリー・フランキー,松岡茉優,安藤サクラ,佐々木みゆ

ぐうたらで軽犯罪を重ねながらも、子煩悩でどこか憎めない父・治役は、リリー・フランキーが味わい深く。妻・信代役は安藤サクラが口は悪くとも情が深い母親として、JK見学店でバイトする信代の妹・亜紀役は松岡茉優が初枝を慕うおばあちゃん子として、一家を住まわせる家主・初枝役を樹木希林が、誰にも真似できない独特の存在感で演じている。脇にも池松壮亮、高良健吾、池脇千鶴、柄本明、緒形直人、森口瑤子ら実力派の俳優たちが出演している。
 子役には台本を渡さないことで知られる是枝組の撮影で、子どもたちから生の反応を引き出す監督の演出が、またしても冴えている本作。息子の祥太役は『誰も知らない』の柳楽優弥を彷彿とさせる印象的な眼をもつ城桧吏が、治と万引きをしながらも自問し成長してゆくさまを自然体で、体じゅうに傷をもつ女の子りん役は、今回が初めての芝居だったという佐々木みゆが、幼いながらも本能的に自分の居場所を自分で決める様子をひたむきに表現している。
 2018年5月23日に帰国した監督は羽田空港での記者会見にて、「いろんな意味で化学反応も起こり、良い映画が出来たと実感しました」とコメント。見どころとして、出演者たちへの感謝とともにこのように語った。「今回役者のアンサンブルがとてもうまくいきました。自分なりの子どもへの演出と演出も担える樹木さんとリリーさん、安藤さん、松岡さんも相手の演技を受けるのが上手でバランスがよかった。撮影しているなかで、惚れ惚れするくらいの演技もみせてくれて、監督としてはとても恵まれた環境で撮れたと思っています」

今回、祖母役を演じた樹木希林の風貌がいつもと少し違うのは、本人の提案で髪をのばし入れ歯を抜いたからとのこと。是枝監督作品への出演は今回で6作目となる彼女は、2018年4月25日に東京で行われた本作の完成披露試写会&舞台挨拶にて、「初参加される方々が今後もいろいろいるでしょうからわたしはこれで最後!」というコメントも。しかし毎回ハマる是枝作品を含め、たくさんの作品にこれからもずっと出演し続けていただきたいと、個人的にいちファンとして心から思う。前述のカンヌ映画祭の公式会見にて、監督は今回で4作目の出演となるリリー・フランキーへの思いとともに、樹木希林にオファーし続ける理由について敬意を込めて語った。「リリーさんとはお互いの価値観やジャッジする感覚が近い気がして、役者と監督として安心していられる関係といえます。希林さんは先ほど(たくさんの監督から)キャスティングされる理由は『わからない』と仰いましたが、お仕事させていただいている監督側としてはすごく明快です。僕は、自分がつくるものを希林さんに出ていただけるものにするために努力する。甘いままで彼女の前に立つとすぐに見透かされる。希林さんの前で恥ずかしくない監督でありたいと思う。そういう役者がいることは監督にとって非常に大切なことです。なので、『私はもう(出演するのは)いいんじゃないの』と毎回言われますが、希林さんに繰り返しオファーするのは彼女の作品に向き合う姿勢に助けられているから。頭が下がる想いでいっぱいです」

松岡茉優,樹木希林

本作は2018年5月19日(現地時間)に行われた第71回カンヌ国際映画祭の授賞式にて、最高賞のパルムドールを受賞したことも大きな話題に。2018年5月13日(現地時間)に行われたコンペティション部門の公式上映後、観客から約9分間ものスタンディングオベーションがあったことについて、是枝監督はこのように語った。「昨日はこれまでで一番温かく感じる拍手が続いて、今まで映画をつくってきた20年間が報われた気持ちになりました」
 また2018年のカンヌ国際映画祭にて審査委員長をつとめたケイト・ブランシェットは、「演技、監督、撮影などトータルで素晴らしかった」と称賛。カンヌ映画祭でのパルムドールの受賞は、日本映画では1997年の第50回カンヌ国際映画祭にて今村昌平監督作品『うなぎ』が受賞して以来21年ぶりであり、是枝監督は授賞式にてこのようにスピーチした。「さすがに足が震えています。この場にいられることが本当に幸せです。そしてこの映画祭に参加するといつも思いますが、映画をつくり続けていく勇気をもらいます。そして、対立している人と人を、隔てられている世界と世界を映画がつなぐ力をもつのではないかという希望を感じます」

前述の空港での記者会見にて、是枝監督がカンヌから帰国前にN.Y.に少し滞在した理由は、「打ち合わせだった」というコメントも。新しい企画が順調に進んでいるようで、近々に情報が発表されるのではとも。是枝監督の今後の活動も楽しみだ。
 最後に、前述の東京での舞台あいさつにて、監督が観客に向けて語ったメッセージをお伝えする。「各世代、今一番撮りたいと思う役者さんで映画をつくりました。撮影中、みなさんの演技をみながらどんどん作品のテーマも浮かび上がってきて、とても稀有な現場だと感じていましたし、シリアスな作品ではありますが、とても幸せだと思える作品になりました。濃密な時間を過ごせたことが作品からも伝わるかと思いますので、是非ご覧いただければと思います」

作品データ

劇場公開 2018年6月2日、3日にTOHOシネマズ日比谷ほかにて先行上映、6月8日より全国ロードショー
制作年/制作国 2018年 日本
上映時間 2:00
配給 ギャガ
監督・脚本・編集 是枝裕和
音楽 細野晴臣
出演 リリー・フランキー
安藤サクラ
松岡茉優
池松壮亮
城桧吏
佐々木みゆ
緒形直人
森口瑤子
山田裕貴
片山萌美
柄本明
高良健吾
池脇千鶴
樹木希林
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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