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『あん』『光』の河�P直美監督が、直木賞受賞作家・辻村深月によるヒューマンミステリーを映画化。出演は、『ソロモンの偽証 前篇・後篇』の永作博美、ドラマ「アンナチュラル」の井浦新、『万引き家族』など“是枝裕和作品の常連”と言われる蒔田彩珠、『いのちスケッチ』の浅田美代子ほか。不妊治療を経て実子をあきらめた夫婦は、「特別養子縁組」によって生まれたばかりの男の子を養子にする。その後、3人で幸せに暮らすなか、「子どもを返してほしい」という電話がかかってくる。原作の小説にほれ込んだという河�P監督は、映画化の発表時にこのようにコメントを発表。「小説のなかで、2人の母をつなぐ子ども“朝斗”のまなざしが表現されている部分を読んだとき、ああ、この世界を映像化できれば素晴らしいなと感じた。その“まなざし”が見る未来を美しく描くことができればと願っている」。14歳で子どもを産んだ少女のその後、子育てに悩みながらも夫と共に子どもに深い愛情を注ぐ育ての母。辛さや苦しみも含めて、現代社会のさまざまな出会いや結びつきを描くヒューマンドラマである。

栗原佐都子は夫の清和と共に、来年から小学校に通う息子の朝斗を愛情深く育てている。以前、妊娠を考えて夫婦で検査をしたところ、清和が無精子症であると診断。不妊治療を受けて顕微受精を幾度か行ったが新たな命を授かることはなく、夫婦だけで生きていくと決める。しかしある日、「特別養子縁組」という制度とNPO法人「ベビーバトン」を知り、説明会に参加した清和と佐都子は養子を迎えることを決意。後日に「産まれました」と連絡を受けた栗原夫妻は、横浜から広島の病院に赴き、14歳の少女が産んだ男の子を迎え入れる。
 それから6年、家族3人で幸せに暮らす栗原家に突然、不審な電話がかかってくる。朝斗の産みの母親である“片倉ひかり”を名乗る女性が、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」というが……。

不妊治療に取り組んだ後に、一旦は2人で生きていくことを決める夫婦の心の動き、14歳の時に初めての恋で妊娠した子どもを手放した少女の鬱積してゆく苦悩と葛藤。ひとりの子どもをきっかけに、彼女たちの道が交わるさまを描く。俳優たちが演じるフィクションのなかに、ドキュメンタリーパートとして実際に特別養子縁組で子どもを育てている家族たちや、実際に子どもを産んだ母親たちによる発言が差し入れられ、彼らの心からの思いを伝えているところも胸に響く。河�P監督が原作にほれ込んで辻村氏と会い、映画化がすぐに決まったという本作について、2020年10月6日に東京で行われた完成報告会見にてその時の思いを監督はこのように語った。「感動しない小説は映画化しません。とても感動しました。その行間から溢れる新しい命の讃歌。その光に到達できるような映画にしたいと思って、辻村深月さんのもとに向かいました」

不妊治療を経て養子を迎えることを決意する栗原夫妻の妻・佐都子役は永作博美が、真面目で堅実な女性として、夫の清和役は井浦新が妻を思いやる心優しい男性として。実生活で子どもをもつ親である永作と井浦は、劇中でとても自然に子どもと過ごしている。そして、生理もきていなかった14歳の時に初めての恋で妊娠した片倉ひかり役は、オーディションで選出された蒔田彩珠が、彼との恋にのめり込む中学時代と出産後の変遷を体当たりで表現している。特別養子縁組を行うNPO法人『ベビーバトン』代表の浅見役は浅田美代子が、ひかりが産み、栗原夫妻が育てる子ども・朝斗役はオーディションで選ばれた子役の佐藤令旺が、ひかりの母親・片倉貴子役は監督が名指しした中島ひろ子が、父親の勝役は舞台や映画で活躍する平原テツが、ひかりの姉・美咲役は駒井蓮が、ひかりが恋したバスケ部員の麻生巧役は田中偉登が、さらに山本浩司、三浦誠己、池津祥子、若葉竜也、青木崇高、利重剛ほか、“河�P組史上最多”という約40人のキャストが、それぞれに演じている。
 河�P監督の撮影では役作りというより、監督が「役を積む」と呼ぶ独特の手法をとるとのこと。撮影ではストーリーの進行通りに順撮りをするのはもちろん、撮影が始まる前に、撮影で使用する家やマンションで、俳優たち自身が演じるキャラクター通りのメンバーで実際に家族として一緒に暮らしたり商業施設へ出かけたり、演じる役の職場を見学したり仕事の内容を実際に訓練したりするという。さらにひかりと巧も最初から引き合わせることはせず、少しずつ2人の距離を近づけていくなど、どのタイミングで誰をどういう形で会わせるかまで、すべてを演出部がコントロールするとも。またひかりの両親が巧の家を訪ねるなど、劇中になく撮影しないシチュエーションやエピソードもそこであるというのもユニークだ。こうした河�P作品の手法について、本作のプロデューサーは、役を演じるのではなく、「その人物になる経験を積ませて、その人になった瞬間にカメラを回す」というある種の記録映画、とコメントしている。
 また本作には、ノンフィクションの人物たちがありのままの心情を語る、“ドキュメンタリーパート”がある。劇中にてベビーバトンの説明会で話をする、特別養子縁組によって子どもを迎えた養親と、実際に子どもを産むことについて独白する母親は実在する人たちであり、撮影前にNPO法人「Babyぽけっと」に紹介してもらったとのこと。劇中での本人出演のシーンでは、それぞれが自分の言葉で、時にはぽつりぽつりと、時には強い思いをもって熱く本心を語り、この映画の“核”のひとつとして、しっかりと伝わってくるものがある。河�P監督は自身も養女でありながら、原作を読んで初めて特別養子縁組という制度を知ったとのことで、前述の完成報告会見にて特別養子縁組について監督はこのように語った。「戸籍上、実子として迎えられること。真実告知をすることを明らかにしているので、素晴らしい制度だと思うし、その制度によって、救われる命があるとも思った」

河�P監督にとって、『あん』に続く原作小説の映画化であり、初のミステリー小説の映画化という本作。河�P監督は前述の完成報告会見にて、この映画の手ごたえについてこのように語った。「最近よく耳にするのは、“河�P映画のなかで、一番のエンターテイメント作品”という感想です。最後の最後まで、決して見飽きることがない映画だと思います」
 原作者の辻村深月氏は「脚本を読みながら、河�P監督に何度も感謝を覚えた」そうで、映画化の発表時に読者や観客へのメッセージをこのように伝えた。「ラスト、『原作でもこうすればよかった』と思える構成がある。けれど私が小説で書いてもきっとその光景には届かなかった。映画だからこそ監督が彼らをここに送り届けてくれたのだということが、はっきりわかる。映画『朝が来る』。私が見たもの、河�P監督がその先に見たもの、幼い子ども『朝斗』が見た世界を、できることなら、あなたにもぜひ見てほしい」
 現在18歳である蒔田彩珠は、本作について等身大の目線でこのように語った。「原作を読んだ時、ひかりに起こったことは、誰に起こってもおかしくないことだと、感情移入しすぎてしまい、辛かったです。私がひかりの気持ちを背負うことで、ひかりを傷つけてしまうんじゃないかと不安にもなりましたが、撮影が進むなかで、自分がひかりになったと感じた瞬間があり、とても強い心を持つことができました。この映画を通して、私と同世代の方々をはじめ多くの人に、人間の強さや弱さ、優しさ、命について深く考えるきっかけになれば、嬉しいです」
 そして本作は日本のみならず、フランス、スペイン、北欧、ブラジル、中国、韓国など世界25ヵ国での公開が決定。前述の完成報告会見にて、河�P監督は観客へのメッセージをこのように語った。「（長引くコロナ禍の今）映画によってネガティブな感情をポジティブに変えていけたら、本当に素晴らしいことだと思っています。最後に結んでくれるのは、観客の皆様です。早く劇場で、みなさんに会いたいです」