コーダ あいのうた

サンダンス映画祭にて史上最多の4冠を受賞
耳の聞こえない家族のなかで唯一の健聴者である
ルビーの青春と自立を描く、あたたかい家族のドラマ

  • 2022/01/13
  • イベント
  • シネマ
コーダ あいのうた© 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

2021年4月に行われたサンダンス映画祭にて、観客賞、審査員賞、監督賞、アンサンブルキャスト賞を受賞した注目作。出演は、TVシリーズ「ロック&キー」のエミリア・ジョーンズ、『シング・ストリート』のフェルディア・ウォルシュ=ピーロ、『愛は静けさの中に』のオスカー女優マーリー・マトリンほか。2015年に日本で公開されたフランス映画『エール!』のハリウッド版リメイクとして、監督・脚本は『タルーラ 〜彼女たちの事情〜』のシアン・ヘダーが手がける。両親と兄の4人家族のなかで1人だけ耳が聞こえる高校生のルビーは、幼い頃から家族の“通訳”となり、家業の漁業も毎日手伝っている。ある日、ルビーの歌の才能に気づいた教師から音楽大学への進学を勧められるが……。主演のエミリアは手話の特訓を受けて、両親と兄、家族3人の役には実際に聴覚に障がいのある俳優たちを起用。手話で陽気に話して軽口をたたき合う、家族の姿を描く。CODA(耳の聴こえない両親に育てられた子ども)であるルビーの青春と自立の物語であり、あたたかい家族のストーリーである。

豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビー・ロッシは、両親と兄の4人家族のなかで1人だけ耳が聞こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日手伝っている。新学期、ルビーは秘かに憧れているクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都市にある名門音楽大学の受験を強く勧める。しかし、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能が信じられず、家業の方が大事だと進学を反対。兄は進学に賛成するものの、ルビーは悩んだ末に、夢をあきらめて家族をサポートし続けようと決意するが……。

マーリー・マトリン,ダニエル・デュラント,エミリア・ジョーンズ,トロイ・コッツァー

耳の聞こえない家族を支える高校生ルビーの青春と自立を描く、家族のドラマ。サンダンス映画祭にて史上最多である4つの賞を受賞し、配給権が映画祭史上最高額の約26億円で落札されたことも話題となっている。映画のタイトルにあるCODAとは“Children of Deaf Adults”の省略で、“耳の聴こえない両親に育てられた子ども”のこと。音楽用語としては楽曲や楽章の締めを表し、新たな章の始まりという意もあるという。ヘダー監督は、「親と同じ言葉を話せず、親とは違う世界にいるというコミュニケーションの欠如は、すべてのティーンエイジャーにとって共通する経験」と話し、この映画では両親や兄の個性も丁寧に描くことを大切にしたと語る。「重要なのは、聴覚に障がいのあるキャラクターをしっかりと作り上げたこと。家族のなかで1人だけ聞こえるルビーを際立たせるためだけのキャラクターにしたくなかった。私が興味をもったのは、この家族の複雑な力関係や、そこで生まれる葛藤、お互いに依存する家族のなかでの駆け引き、そんななかにも信じられないほどの愛情があるところよ」

家族のサポートと夢を追うことについて思い悩む高校生ルビー・ロッシ役はエミリア・ジョーンズが、健気でひたむき、責任感のある長女らしい気質として。エミリアはアメリカ式手話(American sign language、略称:ASL)とろう文化について講師のもとで学び、役作りに取り組んだとのこと。陽気な漁師であるルビーの父親フランク役はトロイ・コッツァーが、夫とラブラブである専業主婦の母ジャッキー役はマーリー・マトリンが、父と一緒に漁師をしているルビーの兄レオ役はダニエル・デュラントが、ルビーが憧れているクラスメイトのマイルズ役はフェルディア・ウォルシュ=ピーロがそれぞれに演じている。ヘダー監督はルビーの両親と兄を聴覚に障がいのある俳優が演じることが重要だったと話し、映画の製作にあたってマーリー・マトリンからさまざまなアドバイスをもらったとも。トロイ・コッツァーはマーリーとの共演について語る。「僕が17歳の時、初めて耳の聞こえない役者が出演した映画を観た。それがマーリー・マトリン主演の『愛は静けさの中に』で、いつか自分も映画の仕事ができるんじゃないかと希望を与えてくれたんだ。そのマーリーと夫婦を演じるなんて運命的だね。信じられないくらい光栄だ」

エミリア・ジョーンズ

映画の製作にあたり、ヘダー監督は自身もASLの授業を受講。聴覚に障がいのある親をもつ子どもたちへのインタビューを行った。撮影にはASL監督として、聴覚に障がいがあり、俳優でダンサー、監督で教育者であるアレクサンドリア・ウェイルズを迎え、ヘダー監督と共に劇中の手話を練り上げ、撮影現場でもASLの達人たちが参加して細かいニュアンスを調整していった。
 撮影は、マサチューセッツ州グロスター付近の埠頭、ケープ・ポンド・アイス、アン岬水産物取引所、ビバリーにあるヘンリーズ・マーケットなどにて。トロール漁のシーンには、『ダンケルク』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のマリンコーディネーターでグロスターの住民であるジョゼフ・ボアランドが参加。このエリアの漁業の環境を取り入れ、ロッシ家の船として全長15mのアンジェラ・ローズ号を使用。またカメラ機材を載せる全長15mの双胴船、2隻の渡し船、キャストとスタッフの待機用としてホエールウォッチングに使用される全長30mの遊覧船を確保したそうだ。撮影前には、俳優たちが地元の漁師たちと海に出てロープの使い方を覚えるリハーサルを重ね、漁業のシーンをドキュメンタリーのように撮影できたことがエキサイティングだった、とヘダー監督は語っている。

劇中では、懐かしい名曲が多数登場することも特徴。タミー・テレルとマーヴィン・ゲイによる「You’re All I Need To Get By」、ルビーがテストで歌うジョニ・ミッチェルの「Both Sides Now(邦題:青春の光と影)」、合唱クラブのメンバーで歌うアイズレー・ブラザーズの「It's Your Thing」やデヴィッド・ボウイの「Starman」をはじめ、ザ・クラッシュの「I Fought the Law」やマーヴィン・ゲイ「Let's Get It On」などなど。音楽を担当したマリウス・デ・ヴリーズは、ルビーの成長に合わせた曲選びを意識したとのこと。また、「耳が聞こえない人々の物語で音楽を使うことの意味を慎重に考え」、手話のシーンでは静寂を尊重したと語っている。

フェルディア・ウォルシュ=ピーロ,エミリア・ジョーンズ

指をクロスして手話で「愛してる!」と伝えるシーンも印象的な本作。家族4人のうち3人の耳が聞こえないことによる複雑さがあるなか、家族のなかで唯一の健聴者でCODAである高校生ルビーの青春、夢と自立をさわやかに描き、希望を伝える生き生きとしたストーリーとなっている。ルビーの父親を演じた俳優のトロイ・コッツァーは、この映画への思いを語る。「この映画を観て、耳の聞こえない人と聞こえる人が一緒になって笑って、同じ感情を経験するのは素晴らしいことだ」
 そして最後に、ヘダー監督の観客へのメッセージをお伝えする。「語り役としての私の最初の目標は、皆さんをこの物語に引き込むことでした。この体験を持ち帰り、耳の聞こえない人たちが手話を使って会話しているのを見かけたら、もう自分とは無縁だと思わないで」

作品データ

公開 2022年1月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
制作年/制作国 2021年 アメリカ
上映時間 1:52
配給 ギャガ
原題 CODA
監督・脚本 シアン・ヘダー
出演 エミリア・ジョーンズ
フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
マーリー・マトリン
トロイ・コッツァー
ダニエル・デュラント
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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