カラーパープル

映画やブロードウェイのミュージカルなど
時を越えて支持され続ける物語を新たに映画化
これまでにない展開も希望を示すミュージカル

  • 2024/02/13
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カラーパープル© 2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

アメリカの作家アリス・ウォーカーがピューリッツァー賞と全米図書賞を受賞した小説を、1985年にスティーブン・スピルバーグが映画化し、2005年にブロードウェイでミュージカルとしてヒットし2015年に再演された物語を新たに映画化。出演は、ブロードウェイの舞台で2007〜2008年にセリー役を演じたグラミー賞受賞経験のあるファンテイジア・バリーノが同役で長編映画デビュー、『リトル・マーメイド』のハリー・ベイリー、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のタラジ・P・ヘンソン、ブロードウェイの再演でも2015〜2017年にソフィアを演じたダニエル・ブルックス、2021年にアカデミー賞にて歌曲賞を受賞し(『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』の主題曲「Fight For You」)、グラミー賞の受賞経験もあるシンガー・ソングライターのH.E.R.ほか。監督は『ブラック・イズ・キング』のブリッツ・バザウーレ、脚本は詩人で劇作家のマーカス・ガードリーが手がける。父に虐げられ10代で望まぬ結婚をし、最愛の妹と生き別れ、夫からの暴力と支配により忍耐の日々を送るセリーが、自分らしく生きる女性たちとの出会いにより変化してゆくさまを力強く描く。希望、自己肯定、再生、贖罪などをストーリーと音楽でくっきりと表現。どれほど厳しい人生であろうとも大切に生き抜くことを高らかに歌い上げるミュージカルである。

優しい母を亡くし横暴な父の言いなりとなったセリーは、父の決めた相手と10代で結婚。最愛の妹ネティとも生き別れ、夫から暴力で支配され、セリーは夫の子どもの育児と家事と畑仕事に追われる日々を送っている。そんななか、支配に抗う強い女性ソフィアと、夢を叶えて歌手になったシュグと出会い、彼女たちの生き方に心を動かされたセリーは少しずつ自分を愛し始め、未来を変えていこうとする。そしてある日、セリーは家を出る決意をするが……。

フィリシア・パール・ムパシ,ハリー・ベイリー

原作者アリス・ウォーカーが自身の人生を題材に、1982年に出版した小説『カラーパープル』を新たに映画化。1985年の映画のリメイクというより、原作に立ち戻り、ブロードウェイ版の音楽を取り入れ新たな楽曲も制作して、新しいエピソードを入れるなど前向きな希望を示すミュージカル映画となっている。特に後半からの展開は鮮やかで、なかには“できすぎ”と感じる人もいるかもしれないが、個人的にはみていて胸がすく感覚があった。2023年12月25日の「TIME」の記事「How The Color Purple Has Evolved Throughout Its Many Adaptations(紫という色は、さまざまな適応を経てどのように進化してきたのか)」では、『カラーパープル』に関わる背景について解説。これまでは白人男性の監督や脚本家による製作だったなか(1985年のスピルバーグの映画、2005年のブロードウェイのミュージカル、2015年のミュージカルの再演)、今回は初めて黒人のクリエイターであるバザウーレ監督と脚本のガードリーが翻案を手がけたことを指摘。ガードリーは脚本を執筆する際、原作者のウォーカーから、「物語を自分のものにして、そこに自分自身を持ち込むことが重要」とアドバイスを受け、自身の曾祖母が語った話を脚本に重ねたという。そしてバザウーレ監督は「TIME」の記事にて、映画化にあたって小説を読み返し、原作にある主人公セリーの内面における葛藤や自身との対話を大切にしたことについて、このように語っている。「私たちはセリーの頭の空間を探求し、想像力を高め、観客が彼女の痛みやトラウマを通して見ることができる方法で作品をつくり始めました」

厳しい環境で忍耐の日々を過ごすセリー役はファンテイジア・バリーノが、父親から虐げられ夫から暴力で支配されるなか自由に生きようとする女性たちとの出会いにより変わってゆく姿を歌と踊りで熱く表現。「Harper's BAZAAR」の2024年1月19日のインタビュー記事「Fantasia Barrino-Taylor Has Already Won(ファンテイジア・バリーノ・テイラーがすでに優勝)」にて、彼女が2007〜2008年に舞台で演じた同役を勇気をもって映画で再演した理由について、これからの世代が新たにつくられたこの物語を体験する価値があると信じているためだと語っている。「最初の『カラーパープル』(映画)を観たことがなく、ブロードウェイでも体験できなかった若い女の子がおそらくたくさんいるでしょう。彼らは自分たちが美しいと知る必要があります。たとえどんな経験をしてきたとしても、あなたはまだゴールドのように良くなることができると知る必要がある。それがこの物語が最終的に表現しているものなのです」
 セリーの最愛の妹ネティ役はハリー・ベイリーが利発に愛らしく、セリーが憧れる歌手シュグ・エイブリー役はタラジ・P・ヘンソンが明るく華やかに、支配に抗うセリーの義理の娘ソフィア役はダニエル・ブルックスが陽気かつタフに、スクイーク役はガブリエラ・ウィルソンことH.E.R. が、それぞれに演じている。
 そして今回の映画で大きく変化した登場人物、セリーの夫ミスターを演じるコールマン・ドミンゴは、自身が演じたキャラクターが関わる物語のテーマについてこのように語っている。「監督たちはミスターに贖罪の物語を与えることを重視していました。それが、これまでの作品には欠けていた要素です。ミスターを複雑で人間味のあるキャラクターにし、彼の傷や痛みの原点を観客が理解できるようにしました。最悪の人間ですら、責任を負い行動を改めることができるというのが、この作品の大きなテーマの一部です」

ファンテイジア・バリーノ,タラジ・P・ヘンソン

劇中ではミュージカルとして、実力派の役者たちによるパワフルな歌やダンスが見どころだ。ブロードウェイ版からは「Huckleberry Pie」や「Hell No!」、1985年の映画からはハーポの酒場でシュグが歌う「Miss Celie’s Blues (Sister)」が別のシーンに生かされている。そして今回の新曲として、ファンテイジアが高らかに歌いあげる「SUPERPOWER (I)」や、セリーの妹ネティ役のハリー・ベイリーが作曲した「Keep It Movin’」なども生き生きと。ミュージシャンとして活動しミュージックビデオも多く制作してきたバザウーレ監督は前述の「TIME」の記事にて、シリアスで重いシーンでもミュージカルナンバーを用いることでポジティブな感覚を保ち、セリーの喜びや立ち直る力に通じていくことについて、このように語った。「私たちが特に意識していたことのひとつは、いくつかの曲を明るいものにするということでした。それは(作品全体の)温度を変えましたし、登場人物たちが自らの立ち直りに忠実であれば、自分自身を引き出し、強さを示すことができるということを理解するのにも役立ちました」

ダニエル・ブルックス,ほか

この映画にはプロデューサーとして、スティーブン・スピルバーグ、1985年の映画『カラーパープル』にソフィア役で出演したオプラ・ウィンフリー、同作で音楽を手がけたクインシー・ジョーンズらが参加。ウィンフリーはこのストーリーへの思い入れについて語る。「この物語が長年生きながらえている理由は、大切にされていないと感じたことのあるすべての女性や男性にとって、これこそが自己発見という素晴らしい体験を味わえる物語だからです。私たちが世界に向けて再びリリースすることで、この物語は引き続き生き残っていきます。新たな世代の人たちがこの作品を観て、同じことを感じるからです」
 バウザーレ監督は1985年の映画について、「スティーブン・スピルバーグ監督の『カラーパープル』は、カルチャーの礎のひとつになりました。あの作品の台詞が今もなお引用されていることが、どれほど重要な作品だったかを示していると思います」と敬意を示している。そこを前提としながらも、脚本を執筆したガードリーは「TIME」にてこの映画が目指すことについてこのように語った。「これはスピルバーグの『カラーパープル』ではないし、ミュージカルでも、本でもない。これらすべての融合でありながら、完全に独自のものです。このプロジェクトの使命は、これまでのすべての反復を愛していた観客が、カラーパープル2.0である必要があると誰もが感じたことです。とても懐かしい経験ですが、新しい観客や若い世代向けにも何かを作りたかったのです」
 最後に、バウザーレ監督が「TIME」にて語ったこの物語の大切なテーマについてご紹介する。「この映画は、世界中のすべての人間の立ち直りを描いた普遍的な物語です。アリス・ウォーカーが紫という色について語るときの本当の意味は、紫が美しいというだけではなく、紫は希少で、あざの色でもあるということです。痛みや忍耐があること、手を取り合うこと。彼女が求めている通り、私たちはそれを受け入れ、学ぶことができるのです」

作品データ

公開 2024年2月9日よりロードショー
制作年/制作国 2023年 アメリカ
上映時間 2:21
配給 ワーナー・ブラザース映画
映倫区分 G
製作 オプラ・ウィンフリー
スティーブン・スピルバーグ
スコット・サンダース
クインシー・ジョーンズ
監督 ブリッツ・バザウーレ
原作 アリス・ウォーカー(『カラーパープル』集英社文庫刊)
出演 ファンテイジア・バリーノ
タラジ・P・ヘンソン
ダニエル・ブルックス
コールマン・ドミンゴ
コーリー・ホーキンズ
H.E.R.
ハリー・ベイリー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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