青春18×2 君へと続く道

シュー・グァンハンと清原果耶のW主演
藤井道人監督が日本と台湾の合同製作により
みずみずしい初恋の思い出、喪失と再生を描く

  • 2024/04/09
  • イベント
  • シネマ
青春18×2 君へと続く道©2024「青春18×2」Film Partners

台湾の人気俳優シュー・グァンハンと『線は、僕を描く』の清原果耶のW主演、日本と台湾の合同製作により、『余命10年』『新聞記者』の藤井道人が脚本・監督を手がける注目作。共演は、『真夜中の五分前』のジョセフ・チャン、なにわ男子のメンバーで『今夜、世界からこの恋が消えても』の道枝駿佑、『小さいおうち』の黒木華、ドラマ「孤独のグルメ」の松重豊、『阿修羅のごとく』の黒木瞳ほか。台湾で自らが立ち上げた会社に解任されたジミーは、“最後の仕事”として日本に出張へ。18年前に出会い、淡い思いを寄せた日本人旅行者・アミの故郷を目指して旅に出る。喪失と逡巡、混迷と模索、甘くほろ苦く幸せだった青春の日々。18歳で恋をした青年は18年後に自身の思いをたどる旅に出る。旅と出会いを描き、青年が再生を模索する物語であり、台湾人のジミーと日本人のアミのみずみずしい青春ストーリーである。

台湾で大学の同級生とゲーム会社を立ち上げ成功した36歳のジミーは、周囲を顧みず仕事に没頭してきたことから代表を解任される。“最後の仕事”として日本に出張が決まったことから、18年前に出会い、淡い思いを寄せた日本人旅行者・アミの故郷を目指しジミーは旅に出る。東京から鎌倉、長野、新潟、そしてアミの故郷・福島へ。さまざまな出会いに心を動かされながら、たどり着いた先で、18年前のアミの本当の想いを知り……。

清原果耶,シュー・グァンハン

頭を空っぽにするか何かで埋め尽くすか、両目も両耳も塞いで感情や五感のすべてを鈍化させるしか生きていくことができない、そういう時もある。他者に言わないだけで、表向きは見せないだけで、それはきっと誰にでもある。そこにどれくらい留まり続けるか、どれだけ時間がかかるか、どうやって進んでいくかは人それぞれで、この映画ではジミーがたどった軌跡が描かれている。藤井監督がこの物語のテーマについて、「僕にとってこの映画の主軸は、全てを失った36歳のジミーが旅を経て何を得て、何を思い出して何と向き合うのか。だからこそ誰かにとっては恋愛映画で、また別の誰かにとってはロードムービーであり、成長物語でもあると思います」と語る作品。ストーリーとして結末の予想はすぐにわかるものの、青年ジミーがどのようにたどっていくのか、その心の変遷や情景を静かに眺め、味わうような内容となっている。劇中ではジミーが自問自答する問いや、18年前にアミが話した旅をする理由やこれからの夢など、登場人物たちの思いや素朴なセリフにしみじみと沁みるものがある。藤井監督はこの映画を製作していくなかで実感した思いについて語る。「今回『映画の神様っているんだな』と感じたのが、僕はこの作品を主人公のジミーと同じ36歳で撮影しているんです。そういった意味ではどうしたって自分を投影した作品になりますし、映画を撮ることで36年分の人生と向き合う時期が来たんだと思いました。『青春18×2』との旅は、年を経るごとに増える“喪失”であったり、“大人としての振る舞い”をするために心の奥底に格納した感情とひとつひとつ対話していく時間でもありました」

もとバスケ部で高校三年生の18歳と、影のあるゲーム会社のもと代表の36歳のジミー役はシュー・グァンハンが、同一人物とは思えないほどのメリハリをきかせて表現。初恋に心躍らせる純真な18歳と、道を見失い失意に沈む36歳、どちらも自然体で演じている。シューは日台合作であるこの映画への出演について語る。「オファーをいただいた時は、初めての国際プロジェクト作品への参加だったので、とても興奮しました。同時に緊張もありました。“青春”のほろ苦さや甘酸っぱさを感じられる脚本でしたが、日本語の台詞もあったので、少し心配でした。ですが、通訳の先生も熱心に教えてくださり、僕も出来る限り覚えられるよう努力しました」
 バックパッカーとして台湾を旅する日本人アミ役は清原果耶が、“絵を描きながら世界中を旅する”という夢をもつ明るい女性として。清原は初号試写を観た時に“爆泣き”したと話し、2024年3月18日に東京で行われたジャパンプレミアにて、この映画への思いをこのように語った。「とっても優しい、柔らかい、観た人に寄り添ってくれる映画ができたなと思いました。本当に観終わった時に、撮影時の(自身が演じた)アミの記憶が残っていたのか、涙が止まらなくて……。それくらい自分のなかでも印象深い撮影であり、作品であったなと思いました」
 ジミーが旅の途中で立ち寄る長野県松本の居酒屋の店主リュウ役はジョセフ・チャンが、長野県飯山線でジミーと出会う18歳の陽気なバックパッカー幸次役は道枝駿佑が、アミが生まれ育った町・福島県南会津郡の只見町の住人で彼女を幼少期からよく知る隣人・中里役は松重豊が、只見町で暮らすアミの母親・裕子役は黒木瞳が、それぞれに演じている。
 劇中で印象的だったのは、ジミーが立ち寄る新潟県長岡のネットカフェのアルバイト店員・由紀子を演じた黒木華のあるセリフだ。それは藤井監督にとって大切な言葉であることから、監督にとって「30代で一番信頼している女優さん」である黒木に託したという。「僕の同級生から言われて、ずっと大事にしている“みんな夢を持つけど、その夢を叶えられる人はほとんどいない”という言葉を黒木さんにどうしても言ってほしくて。最高のお芝居でしたね。黒木さんが演じる由紀子はジミーが旅のなかで出会うなかでもキーパーソンですし、余白があるけど共感できるような、大好きな役をやっていただけました」

シュー・グァンハン,清原果耶,ほか

劇中には、18年前の日本や台湾のポップカルチャーがさまざまに紹介されているのが楽しい。ジミーは漫画「SLAM DUNK」のファンで、ゲーム「Devil May Cry」「桃太郎電鉄」のプレイヤーであり、アミとのデートで岩井俊二監督の1995年の映画『Love Letter』を映画館で観るシーンも。そしてアミに聞かれてジミーが教える台湾の人気バンド、メイデイの初期のヒット曲「ピーター&マリー(志明與春嬌)」は挿入曲としても使われている。監督はそうしたさまざまなカルチャーについて、「僕たちは当時を2006年と定義して、漫画や音楽、ゲームなど当時台湾で流行っていたものを現地のスタッフに教えてもらいました」と説明している。
 そして映画の主題歌は、Mr. Childrenが映画のために書き下ろした新曲「記憶の旅人」を提供。Mr. Childrenは藤井監督が10代から愛聴する憧れのバンドで、ダメ元でオファーをしたところ、ある日Mr.Childrenサイドから前田浩子プロデューサーをはじめ製作スタッフに連絡がきて、「脚本を読んだ桜井和寿が曲を作ってしまいました」と楽曲を聴かされ、驚き喜んだという逸話が。藤井監督は主題歌について、「クランクイン前にはほぼ今の形と同じ状態の楽曲が出来上がっていて、僕たちはこの曲をお守りのように持ちながら日本・台湾と旅をしました」とコメント。そして映画の公式HPではこの主題歌に寄せたMr.Childrenの桜井和寿のコメントが紹介されている。監督は願いが叶った喜びと感謝をこのように語っている。「僕にとっては原点ですし、今回の主題歌も『Mr.Childrenしかいない』と言いはしましたが……まさか叶うとは。『記憶の旅人』という素晴らしい曲を書き下ろしてくださったMr.Childrenの皆さんに本当に感謝しています」

そもそもこの企画は、原作であるジミー・ライの紀行エッセイ『青春18×2 日本慢車流浪記』を、台湾の俳優チャン・チェンの友人でプロデューサーのである⿈江豐(ロジャー)が読んだことから始まり、チャン・チェンが初めてエグゼクティブ・プロデューサーを務めて4年の時間をかけて脚本の開発と映画化が進められた。一方、藤井監督は祖父が台湾出身であることから、20代の頃に「日本には自分の居場所がないのではないか」と感じて台湾に私費留学をしたという。その時にプロデューサーのロジャーとの出会いがあり、2019年の藤井監督作品『新聞記者』の試写会を台湾で行った際にロジャーから連絡があり、『青春18×2 君へと続く道』の話につながっていったという。藤井監督は「僕のルーツのひとつである台湾との共同プロジェクトは、本当に幸せな時間でした」と話し、日本・台湾合作の製作について感謝と共にこのように語った。「台湾の映画を僕たちが観ているように、彼らも日本の映画を観ていて、言葉も文化も越えていく映画という芸術の凄さを改めて感じました。同じ“映画人”として、相互にリスペクトしあって一緒にものを作っていく時間は、何物にも代えがたいものでしたね。より純粋に映画が好きになりましたし、もっといい映画を作りたい、もっと色々なプロジェクトをこういうチームでやりたいと素直に思えました」

シュー・グァンハン,黒木華

撮影は、日本と台湾でオールロケを実施。18年前のジミーとアミの出会いや思い出の数々は台南で、2人がデートをする1950年に開業した映画館「全美戲院」や、バイクを2人乗りして走った台南東門城のロータリー(ちょっとローマの休日を思い出す)などにて。現代のジミーが日本を旅するのは、東京、鎌倉、長野、新潟、福島という順番で回り、“スラムダンクの聖地”として有名な江ノ島電鉄の鎌倉高校前駅や、映画『Love Letter』を彷彿とさせる上境駅〜上桑名川駅の真っ白な大雪原など。もともと日本が好きと公言しているシュー・グァンハンは日本での撮影について、2024年3月27日に東京で行われた来日記念記者会見にて楽しそうに語った。「撮影でいろいろと知らないところに行くことができてラッキーでした。特に松本市と只見町は印象深くて大好きでしたね。松本市は静かな環境で、水がきれいで、清らかな感じがとても好きでした。そして福島県の只見町は大自然が本当に美しくて。壮観でした。もちろん撮影の時は没頭していましたが、撮影をしていない時に周囲の景色を見渡すと本当にすばらしい景色だなと思って。感嘆していました」
 また2024年3月29日に香港で行われた香港国際映画祭のインターナショナルプレミアにて、日本での撮影について、「撮影時と撮影以外でも目にした景色が本当に綺麗で、皆さんにもぜひいつか訪れてほしいと思っています。そして、あそこで過ごした時間は撮影してる感覚がなく、まるで自分の行動や景色を記録したような感じで、ドキュメンタリーのようでした」とコメント。清原は同イベントにて台南での撮影について、「景色も美しく、食べ物もおいしく、人も空気も温かくて、すごく充実した時間でした」と語った。
 劇中で特に目を引くのは、新潟のニュー・グリーンピア津南や、天燈上げ名勝とも呼ばれる台湾の十分駅などで空にランタンを飛ばすシーンであり、共にとても幻想的だ。十分駅でランタンを飛ばすシーンの撮影時は天候が悪かったことで大変だったそうだが、とても美しく心あたたまるシーンとなっている。この映画のロケーションマップは映画の公式HPで詳しく紹介されているので、ロケ地巡りの参考にするのもいいかもしれない。

劇中ではジミーが満開の桜が美しい隅田公園を歩くシーンもあり、世界的に好まれる日本の綺麗な景観がたくさん楽しめるのも大きな特徴のひとつ。この映画は2024年3月に台湾で公開され、香港、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、韓国などアジア10ヶ所以上の地域で公開が決定。前述のシュー・グァンハン来日記者会見にて、藤井監督はアジア各地での公開についてこのように喜びを語った。「世界各地での公開は当初からの目標のひとつでもありましたし、この映画のテーマ自体が“旅”というところがあるので。この映画が旅をしながら、アジア各地にこの映画を届けられるということ自体がまるでツアーのようで。感慨深いですね」
 最後に、清原、シュー・グァンハン、藤井監督のメッセージをご紹介する。
 清原(ジャパンプレミアにて)「本当に、人生でかけがえのない出会いをこの作品でもらいました。映画を作ること、人と出会うことが、なんて尊いことで、当たり前のことじゃないということを深く、深く考えることできた作品です。この映画がみなさまのなかでどう変化するかわからないですが、どうか優しい、柔らかな世界のなかで、みなさまが生きられることを願っています」
 シュー(来日記者会見にて)「この作品は青春ラブストーリーのようですが、単にそれだけの作品ではなく、実はこの作品のなかには大人の魂が宿っていると思っています。旅に出て、自分の過去を振り返ってみたくなるようなすばらしい作品なので、ぜひご覧ください」
 藤井監督「日本だけでなく、アジア、世界の人たちの心にしっかりと残る映画を目指しました。まさに、僕にとっての監督人生第二章のはじまりであると自負出来る作品になっています。清原果耶さんをはじめとする素晴らしい日本キャストと台湾キャストのコラボレーションを是非楽しみにしていてください」

作品データ

公開 2024年5月3日よりTOHO シネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2024年 日本・台湾合作
上映時間 2:03
配給 ハピネットファントム・スタジオ
監督 藤井道人
原作 ジミー・ライ「青春18×2 日本慢車流浪記」
出演 シュー・グァンハン
清原果耶
ジョセフ・チャン
道枝駿佑
黒木華
松重豊
黒木瞳
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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