国立新美術館開館15周年記念 李禹煥

余白が生み出す無限の広がりを五感で感じる
李の創造の軌跡をたどる代表作61点が一挙に集結

  • 2022/08/19
  • イベント
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国際的にも大きな注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家、李禹煥(リ・ウファン)の東京では初めてとなる大規模な回顧展が開催されている。

1936年、韓国慶尚南道に生まれた李は、ソウル大学校美術大学入学後の1956年に来日。日本大学文学部で哲学を学ぶ。東洋と西洋のさまざまな思想や文学を貪欲に吸収した李は、1960年代から現代美術に関心を深め、本格的に制作を開始。日本の高度経済成長期を背景に、自然や人工の素材そのものを節制の姿勢で組み合わせて提示する「もの派」と呼ばれる、戦後日本美術における最も重要な動向を牽引した。50年以上に渡り国内外で作品を発表し続けてきた李は、近年ではグッゲンハイム美術館、ヴェルサイユ宮殿、ポンピドゥー・センター・メッスなどで個展を開催するなど、ますます活躍の場を広げている。

本展は、李が自ら展示構成を考案した彫刻と絵画の2セクションに分けられ、1960年代の最初期の「もの派」にいたる前の視覚の問題を問う作品から、彫刻の概念を変えた〈関係項〉シリーズ、そして静謐なリズムを奏でる精神性の高い絵画などの最新作まで、彫刻と絵画の展開過程がそれぞれ時系列的に理解できるように展示されている。
 近年の李は、「作品は生きた対話の相手でなくてはならない」とし、観覧者が中に入って体感できる作品を積極的に制作している。《関係項―鏡の道》(2021/2022年)やフランスのラ・トゥーレット修道院で発表された《関係項―棲処(B)》(2017年)は、展示室いっぱいに敷き詰められた石や、前者では鏡面のステンレスの道の上を自由に歩くことができる。体を通じて作品と共鳴する密やかな対話が生まれ、無限の次元へと鑑賞者を惹き込む。また、野外展示場の巨大なアーチ状の彫刻の新作《関係項―アーチ》(2022年)は中をくぐり抜けることで非日常の空間が開かれるような感覚になる。
 絵画セクションでは、まるで空間から風の流れが感じられるような〈風より〉と〈風と共に〉シリーズや、より研ぎ澄まされたストロークと空白が緊張感を持って響きあう〈照応〉と〈対話〉のシリーズを展観する。

李の作品は、芸術をイメージや主題、意味の世界から解放し、ものともの、ものと人との関係を問いかける。それは、世界のすべてが共時的に存在し、相互に関連しあっていることの証でもある。新型コロナウィルスの脅威に晒されるなか、人間中心主義の世界観にも変更を迫られる今日、李の思想と実践は未曾有の危機を脱するための導きの一助となるかもしれない。

  1. 《関係項―鏡の道》2021年/2022年 作家蔵 撮影:山本倫子
  2. 《関係項―棲処(B)》 2017年/2022年 作家蔵 撮影:山本倫子
  3. 《関係項―アーチ》2014年/2022年 作家蔵 撮影:山本倫子
  4. 「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」2022年 国立新美術館 展示風景 撮影:山本倫子
  1. 《関係項―鏡の道》2021年/2022年 作家蔵
  2. 《関係項―棲処(B)》 2017年/2022年 作家蔵
  3. 《関係項―アーチ》2014年/2022年 作家蔵
  4. 「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」2022年 国立新美術館 展示風景
  5. ※すべて、撮影:山本倫子

開催概要

展覧会名 国立新美術館開館15周年記念 李禹煥
会期 2022年8月10日(水)〜11月7日(月)
休館日 火曜日
時間 10:00〜18:00
※金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館時間の30分前まで
会場 国立新美術館 企画展示室1E
港区六本木7-22-2
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観覧料 一般 1,700円、大学生 1,200円、高校生 800円 中学生以下無料
※10月8日(土)〜10日(月・祝)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)
展覧会サイト https://LeeUFan.exhibit.jp/
問合せ 050-5541-8600 (ハローダイヤル)

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