食の器

実用のために作られた雑器にこそ美が宿る――
柳の美意識を凝縮した日常の食器を展観

  • 2019/06/24
  • イベント
  • アート

日本民藝館の創設者・柳宗悦(1889〜1961)は、実用のために作られた雑器にこそ美が宿る、という逆説的な美意識を提示したことで知られている。それに伴ない柳は、それまで注視されてこなかった「手廻りもの」「普段使い」「勝手道具」などと呼ばれていた雑器に見られる美を具体的に示すために、しばしば皿や碗、盆などの食の器を取り上げて紹介してきた。本展では日本民藝館の主軸を占める食の器コレクションから、江戸時代のもてなしや年中行事で使用された晴の器、柳の工芸論の形成に大きく影響した、わび茶の系譜に連なる茶の湯と懐石の器、そして柳が日常生活で使用した食器を軸に展観する。

日常生活の食器を褻(ケ)の器というのに対し、儀礼や年中行事など、非日常の場で用いられる食器を晴(ハレ)の器という。神前に酒を供えるために用いられた漆絵の容器や、祭礼や行事の場で用いられたとされる、曲物に螺鈿で装飾した甘酒の桶など、食の器の中でも特別な意味合いを持つ、手の込んだハレの器がまとめて展示される。
 一方、茶の湯と懐石の器からは、美意識の価値転換となる興味深い流れがうかがえる。客人をもてなすという意味では同様の「ハレ」の料理だが、本膳料理の最も簡素な膳組である一汁三菜を基本としたわび茶は、あえて簡素な形式を採用しており、柳はそのわび茶を形成した茶人たちに深い敬愛を寄せていた。日本民藝館のコレクションは、一般的な茶道具のコレクションに見られる楽焼や織部焼、伊賀焼などに特徴的な、意図的に歪みの造形を打ち出した茶陶はほとんどなく、初期のわび茶の系譜に連なる簡素な食器で貫かれている。本展示では、所蔵品から茶の湯と懐石の場で使用されてきたと考えられる「茶道具」を展示し、茶の湯の美意識を柳がどのように捉えていたか改めて振り返る。
 そして、柳の精神が一番良く表れた展示が食卓の器だろう。「見ることは悦びである。しかし使うことの悦びはさらに深い。最もよく使われている場合ほど、器物が美しい姿を示す時はない」との言葉が示すように、柳は平常の生活には主として河井寛次郎や濱田庄司などの食器や、伝統的な地方窯の陶磁器など、同時代の工芸を多用していたという。戦前の柳家の食卓を写した写真や、長年の使用痕が認められる遺贈の器から明らかになった、柳愛用の食器の一部を紹介する。

  1. 漆絵栗文瓶子 室町時代 16世紀 36.5×24.0
    漆絵栗文瓶子うるしえくりもんへいし
    室町時代 16世紀
    36.5×24.0
  2. 織部幾何文筒向付 美濃 江戸時代 17世紀 10.0×6.6
    織部幾何文筒向付おりべきかもんつつむこうづけ
    美濃 江戸時代 17世紀
    10.0×6.6
  3. 古染付李鉄拐文玉章形鉢 景徳鎮民窯 明時代 17世紀前半 6.7×36.3
    古染付李鉄拐文玉章形鉢こそめつけりてつかいもんたまずさがたはち
    景徳鎮民窯 明時代 17世紀前半
    6.7×36.3
  4. 染付八橋文蓋付碗 伊万里 江戸時代 18世紀 8.4×12.2
    染付八橋文蓋付碗そめつけやつはしもんふたつきわん
    伊万里 江戸時代 18世紀
    8.4×12.2
  5. 色釉格子文茶器 濱田庄司 1928年 〔土瓶〕 21.1×18.0×14.2
    色釉格子文茶器いろゆうこうしもんちやき
    濱田庄司 1928年 〔土瓶〕
    21.1×18.0×14.2

開催概要

展覧会名 食の器
会期 2019年6月25日(火) 〜 9月1日(日)
休館日 月曜日 ※祝日の場合は開館、翌火曜休館
時間 10:00〜17:00
※入館は閉館時間の30分前まで
会場 日本民藝館
目黒区駒場4-3-33
>> 会場の紹介記事はこちら
入館料 一般 1,100円、高大生 600円、小中生 200円
公式サイト http://mingeikan.or.jp/
問合せ 03-3467-4527

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