ギャラリーガイド 個性派ぞろいのギャラリーを探訪

草間彌生など世界的アーティストも所属!アジア圏の現代アート事情はここでアップデートOTA FINE ARTS(六本木)

今や日本有数のアートギャラリー集積地となった六本木。その中心ともいえるピラミデビルの3階にあるのが、日本の現代アート動向を語る上で外せないギャラリー「OTA FINE ARTS(オオタファインアーツ)」だ。1994年に恵比寿で誕生し、数回の移転を経て2011年から現在のスペースで営業、2012年にはシンガポール、2017年には上海にもギャラリーをオープンさせるなど、アジア圏を中心とした活動に力を入れている。リプレゼント(所属)作家には、世界的に著名な草間彌生を筆頭に、チェン・ウェイ、マリア・ファーラなどアジアの気鋭作家、照屋勇賢、見附正康など、これまでにない手法やアイディアが高く評価される日本人作家が在籍する。

OTA FINE ARTS代表の大田秀則氏。中国の新世代作家チェン・ウェイのインスタレーション作品の前で。

ゆるかっこいい業界に憧れた若者が、アートオタクへ

オーナーの大田秀則氏は、美術には特に縁のない若者だった。大学ではラテンアメリカ文学を学び、卒業後はいけばな草月流の草月会館に就職。「いけばなに思い入れがあったという訳ではなく、どうせなら映画、出版、音楽といったゆるくかっこいい芸術的な雰囲気のある業界に就職したいっていう、ちょっとなめた若者だったんですよ」と笑顔で振り返る大田氏。しかし、当時の草月会館といえば三代目家元で芸術家の勅使河原宏氏を筆頭に、歴史に残る前衛美術展「読売アンデパンダン」を発足させた海藤日出男氏も在籍、現代美術家を講師に招いて講座が開催されるなど、美術への好奇心を育む肥沃な土壌があった。
 就職して1年が経つ頃には、銀座の画廊で作品を購入したり、草月アートセンター時代の美術コレクションや蔵書を読み漁ったりと、大田青年は立派な“アートオタク”に成長していた。「当時のアート市場というのは今みたいに活況を呈していなかったんですが、普通の若者では知らないような場所に自分が踏み込んでいくのが、オタクな活動として楽しかったんでしょうね。当時は、アートの専門的な知識はないなりに独特のアンテナがあったのかもしれないですね」

作家と対峙し共同作業を!独立へのピュアな想い

1990年頃の大田氏と現代アーティスト・草間彌生。
当時ここまでの世界的アーティストになるとは大田氏も想像していなかったとか。

そして3年後には、当時日本でトップの資本力を持った画廊「フジテレビギャラリー」に転職。国内外の著名な美術家の作品を中心に扱い、展覧会をいくつも手がけるなど、グローバルな視座を養う中で、大田氏はプロフェッショナルの道を本格的に歩み始めた。また、OTA FINE ARTSの顔ともいえる現代アーティスト・草間彌生とも、このギャラリーで担当したことがキッカケとなり、現在まで長い付き合いが続いている。
 「フジテレビギャラリーでは、ギャラリストとしてやっていくための筋肉づくりをさせてもらいました。ただ、売り上げの主力は、顔を見たことも会ったこともない、大昔の美術家の作品ばかりだったので、次第に、作家と実際に会ってどんなことを考えているのかを聞きたい、共同作業をしたいという想いが強くなっていきました。それはとてもピュアな気持ちだったと思います」

新世代ギャラリストたちのムーブメントが起きた90年代中盤

独立しOTA FINE ARTSを立ち上げたのが1994年。当時日本のアート市場はまだまだ小さく、独立しても成功するかどうかは一種の賭けのようなものだったという。「その時代、WAKO WORKS OF ARTの和光さん、小山登美夫ギャラリーの小山さん、タカイシイギャラリーの石井さんなど、同じような環境で企画画廊をオープンした方たちが周りにいたわけです。失敗したら故郷に帰るしかないっていうぐらい、みんな必死で向う見ずにやっていましたよ」。90年代中盤に起きた新世代ギャラリストたちのムーブメントは、企画画廊というスタイルを一般化させ、世界で戦える日本アートの基礎を積み上げるのに一役買った。
 ふと界隈に目を向けると、大田氏が挙げたギャラリーをはじめ、日本の現代アート市場発展に大きな役割を果たしてきたギャラリーが、通り沿いにこれだけ軒を連ねるエリアも珍しい。半日もあれば5〜6軒は簡単に周れてしまうなんて、非常に贅沢な環境といえる。

似ているようで違うアジア圏の面白み

シンガポール(左)と上海(右)のギャラリー。どちらも比較的郊外に位置するが、
週末には数百名が来場するなど、アジア圏のギャラリーも盛り上がりを見せている。

そして、2012年にはシンガポール、2017年には上海にそれぞれギャラリーをオープンさせる。まだまだ、アジアの美術に対する注目が高いとはいえない日本で、アジア圏の作家の作品がコンスタントにアップデートされる環境は貴重だ。「日本でこの業界にいると、国内作家か欧米作家っていう2つの軸しか持っていないことが多くて、アジアなんてろくな作家がいないっていうイメージの方が一昔前はまだ強かったんですね。でも欧米を見ているうちに背中の方でいろいろと勃興してくるわけですよ。そうなると、似たような伝統・習慣があって経済的にも人種的にも近いアジアに面白みを感じてくる。ドメスティックとインターナショナルの間に、地域という思想があってもいいんじゃないかと思って、アジア圏の作家も積極的に扱うようにしています」。
 この3拠点のトライアングルを持つことで、作家、市場、購入者などさまざまな角度から特徴が見えてくるのだとか。「例えば、購入する作品のボリュームとか買い方の大胆さっていうのは、中華系の方には敵わないですね。急所を狙ってくる感じ。逆に、日本人は趣味嗜好を優先して細やかにじっくり選ぶことが多いですね。自分のスタイルを大切にする。それから、日本との違いで大きいのは、シンガポールや上海には女性のバイヤーが結構います。会社経営をしていたり投資部門を任されていたりと、社会の中で普通に男性とためを張っている方が多いわけですね。その点、日本では購入者のほとんどが男性です。まだどうしても家庭に収まっていることが多い日本人女性が、バイヤーとして増えてきたらもっと面白くなるのになと思っています」

インドネシア、スリランカ、中国、日本、バングラデシュ、フィリピンから、
7人のアーティストを紹介したコレクション展「HEAT」の展示風景。

理解できなくてもまずは受け入れてみる。その先に広がる新しい世界

OTA FINE ARTSの所属作家は現在24名。開廊初期はPHスタジオ、嶋田美子、ブブ・ド・ラ・マドレーヌなどアクティビストやフェミニストを多く扱っていたが、現在はこれまでのコンセプチュアルな路線に加えて、絵画や新しい映像表現、工芸など周辺領域にまで視野を広げ、韓国や中国の東アジアから東南アジアおよび中東にいたる「アジアの帯」にまたがる魅力的な作家を紹介している。
 所属作家とはどのように出会うのだろうか。「すでに付き合いのある作家に紹介してもらうというのが一番信頼できます。あの方たちって、我々一般の受け手が感じられない隠れた才能とか輝くものが見えるんですよ。この作品のどこがいいんだろう?と理解できなくても、そこで思考停止せず一旦受け入れるというのはスリリングで面白いですよ。そして、何かのキッカケで面白さに気づいたらそのままぐんっとのめり込んでいったりする」

久門剛史が「アジア回廊 現代美術展」において京都二条城で発表した作品「ゲイル」の展示風景。
音や光、日常的なモノを使って、その“気配”や“不在”を表現する作家だ。
久門剛史 風 2017年 撮影:来田猛

最近でいうと、所属作家の久門剛史との出会いが印象的だったという。「久門君も他の作家から紹介してもらったんですが、彼の作品は光ったり、音がしたり動いたりと、最初何のことだかさっぱり分からなかった。僕はああいうタイプの作品はすごく苦手だったんですけど、じっくり向き合ってみると、その気配や何かのサイン、普段は見過ごすような自分の感覚があの作品で覚醒していくのを感じとれるようになる。そして、彼の展覧会を開くと十数点が一気に売れたりする。そうすると、すでに受け手はこの魅力に気付いているぞ、と改めて驚くわけです。ギャラリーのディレクターって潮目を読むのが上手な人っていると思うんですけど、僕は気づいたらちょうど良いところにいるみたいな、潮目に飲み込まれるぐらいが理想ですね(笑)」

所属作家とは、失敗ばかりのデートを重ねて、伴走する仲間に

九谷焼の赤絵作家・見附正康の作品。筆一本で手彩しているとは思えないほど綿密で現代的な線描が特徴。見附正康 無題 大皿 2012年 九谷焼 赤絵細描

若いギャラリストではない分、そうやって視野を柔軟に広げることが今後さらに大事になってくるという大田氏。現在注目されている九谷焼作家の見附正康も、現代美術と伝統工芸という畑の違いを考えるよりも、まずはそこにある作品のエネルギーを純粋に感じ、フラットな視点で作品を評価した結果所属作家として迎え入れている。「ただ、分野が違えば言葉と文法も違いますから、作家と話していてもお互い全然かみ合わないことも多いですよ。それでも理解したいからまた会って話を聞く。失敗ばかりのデートを積み重ねていく感じですかね」と、作家との距離感を恋人に例える。
 かと思えば、所属作家は一緒に走り続ける仲間でもあると言う。「作家のアトリエには定期的に通ってコミュニケーションをとっています。特に草間さんの場合は、週に3回は会いに行っていますね。毎日作品を描いていらっしゃるから、頻繁に伺っても毎回新しい発見があります。逆に、スランプに陥っている作家もいますが、長い人生でそんな期間も有りだと思うんですよ。だからじっくり話を聞いて、どこかに一緒に出かけたりというのは続けています。僕にとって所属作家は、伴走している仲間みたいなものですから」

ちゃんと作品を愛してくれる人にお嫁に出したい

アメリカ『タイム』誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出されたこともある草間彌生。
OTA FINE ARTSでは専属チームでサポートする。
Yayoi Kusama in her studio, 2017

そんな中でも、草間彌生クラスの世界的アーティストをリプレゼントしていくのは、また環境が違ってくるのではないだろうか。「草間彌生、アイ・チョー・クリスティンなどは、購入すればほぼ確実にそれより高値で売れます。よって、転売目的ではないか、本当に売るに正しい人なのか、こちら側が選ぶというとちょっとおこがましいですけど、しっかり確認せざるを得ない。やっぱりちゃんと愛してくれる人にお嫁に出したいっていう親心ですよね。だから、うちでディーリングした作品がすぐにオークションにかけられていたりすると、僕はなんて見る目がないんだってガックリきちゃいます」。
 また、中国やヨーロッパでは、草間彌生作品の贋作の展示や、無許可の展覧会などが現在でもいくつか確認されており、その度に現地に飛んだり、警告状を出したりと著作権関連の問題も大田氏の頭を悩ませる。世界的人気作家を抱えるギャラリーの宿命とはいえ、その気苦労は相当なものだろう。

自分で勝手に上げたハードルを下げる、作品購入法やギャラリーでの過ごし方

ギャラリー初心者や一般的なアート好きからは、少しかけ離れたスケールの話になってしまったが、ご心配なく。私たちが作品を購入する際のアドバイスや、ギャラリーで展示を楽しむ方法を大田氏に教えてもらった。
 高額な作品には手を出せないが、何か一つでも購入してみたいという時はどうしたら良いのか。「芸術・美術大学の卒展なんかに行って、気に入った作家に『この作品をいくらで譲ってくれないですか?』と直接交渉すればいいんですよ。若手のアーティストを応援することになるし、そうした方が彼らはその記憶をずっと覚えていてすごく自信に繋がると思いますよ。直接コミュニケーションをとれるのは、作家、購入者双方にとって良いですよね」。なるほど、展覧会といえば観るだけのものという先入観があったが、美大生の作品展なら、これだ!という作品を手の届く価格で購入できるというのは目から鱗だ。ギャラリーで購入するのは少しハードルが高いという人にも、この方法はちょうど良い入口になるのではないだろうか。

ギャラリーはピラミデの3階、一番奥に位置する。企画展やコレクション展は年に約6回開催。

そして、作品を鑑賞・購入する以外での、ギャラリーの活用法も教えてもらった。「例えば、床から何センチの高さに作品を設置しているのかな?とか、ピクチャーレールよりも、壁に直接かけた方が宙に浮いているようで綺麗なんだなとか、照明はどんな明るさ・種類かな?とか、自宅に飾る時の参考にできる細かい技術は、ギャラリーでたくさん学べると思いますよ。それから、作品のことも話しやすそうなスタッフをつかまえてたくさん聞いてください。そこで、あまり良い対応をしてくれないんだったら、もうそのギャラリーとは絶交して次に行っちゃえば良い(笑)。ちゃんとしたギャラリーなら、誰にでもしっかり説明してくれるはずです」。知識がないのに聞いてもいいのだろうか?とギャラリースタッフに声をかけるのを躊躇してしまう人も多いが、むしろ知識がないからこそいろいろ教えてもらおう、というくらいの気楽さで臨めば、アートギャラリーはもっと身近な存在になるはずだ。

第4の拠点は、美術で得たものを還元する、より良く生きるための場所に

インタビューの最後に大田氏は、今後の展望について語ってくれた。「東京、シンガポール、上海にくわえて、いま4つ目の拠点を構想しています。商売としてというよりは、今まで美術で得たものを、美術で世の中に還元してけるような場所にしたいと思っています。これからは、より良く生きるというのが自分の中で大きな意味を持ってくるんでしょうね」

日本・アジアの現代アートの発展を中心で見続けてきたギャラリーが、これからの日本のアート界にどんな影響を与え、どんな作家を世に送り出していくのか、まだまだ楽しみは尽きない。

  • OTA FINE ARTS(六本木)
  • 港区六本木6-6-9 ピラミデ3F
  • 03-6447-1123
  • 11:00〜19:00
  • 休廊:月曜日、日曜日、祝日
  • 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩1分
  • webサイト
2020年3月取材/2020年5月更新