デジタルアート専門! 体験し、創造の一翼を担う面白さを発見森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス

森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス

ヴィーナスフォートや大観覧車があるパレットタウンの一角に建つ「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」。ウルトラテクノロジスト集団として、世界中でデジタルアートの展覧会やイベントを手掛けているチームラボの作品が60以上も見られる、デジタルアートの本拠地。約1万uある巨大な館内には、一面の花畑、描いたものが泳ぐ水族館、ランプが無数に輝く森など、5つの世界が設けられ、“ボーダレス”のコンセプトのもと、作品と鑑賞者や、作品同士に境界がない創造的な体験が行える。

ミュージアム全体を取りまとめているMORI Building DIGITAL ART MUSEUM企画運営室 室長の杉山央氏。テクノロジーアートのイベント「Media Ambition Tokyo」の立ち上げメンバーの一人でもあり、デジタルアートへの造詣は深い

1日に入場できる人数は決まっており、6月のオープンから連日チケットは完売。毎朝、開館と同時に入りたい人が行列を作るほどの盛況ぶりだ。全入場者の約3割が外国人と、海外からの注目度も高い。「2020年のオリンピックに向けて注目を集めている今、東京に新たに世界レベルの文化的拠点を創りたいと考えました。各国で何十万人と人を集められる注目度がありながら本格的な拠点がなかったデジタルアートに着目し、漫画・アニメにおける秋葉原や池袋、ファッションにおける原宿と同様、東京の魅力を形作る発信地の一つとして、お台場にこの施設を造成したのです。訪日客を意識し、東洋の美や日本の原風景の美しさを感じさせる作品を多く手掛けていたチームラボさんとの協働を企画。先方も同じ思いを持っており、このプロジェクトが具体化していきました」と、MORI Building DIGITAL ART MUSEUM企画運営室 室長の杉山央氏。

葛飾北斎『富嶽三十六景』にある神奈川沖波裏のような荒波の作品も。360度ぐるりと波に囲まれた部屋だが浮世絵と同じく平面的な描かれ方で、奥行きを感じさせない

入口には「彷徨い、探索し、発見する」と掲げられ、「花の森」、「運動の森」、「バタフライハウス」と3つに道が分かれている。言葉だけでは何があるのか想像できないが「花の森」を選択。細い通路を進んでいくと、壁や床一面に咲き誇る鮮やかな花々が視界に飛び込んできた。館内のワンフロア全域を使った「Borderless World」の作品の一つだ。
 順路の案内も館内地図も見当たらず、ヒーリングミュージックのようなBGMを聞きながら、作品を探して歩く不思議な空間。鑑賞者の足元から生まれた花々が、密集したり、散って吹雪になったり、雲のように無限に変化しながらゆったりと動く。誘われて進むうちに、現実世界がどこか遠くに置き去りにされ、幽玄なデジタルアートの世界に没入。モザイク絵のような作品、書のような作品、浮世絵のような作品などがあり、この部屋は何があるだろう?と見つけていく過程が楽しい。杉山氏は1万uという広大な敷地面積を必要とした最大の理由は、世界観への没入ではなく、来館者自身が“彷徨う”ことにあると話す。
 「情報が発達した現代では、ネットで何でもすぐに検索できます。身体を動かさずに簡単に情報が得られ、あたかも現地に行ったような感覚になれる時代だからこそ、自分の足で何があるか分からない所を歩き回って、作品を発見してもらう体験の重要性を鑑賞者に感じてもらいたく、敢えて順路をなくし、分岐点をたくさん作り、鏡を多用した、迷路みたいな空間に仕上げました」。

分岐や小部屋を多く設け、迷路のように彷徨って楽しむ「花の森」。奥の部屋で生まれた蝶が飛んできて、花と混じり合うボーダレスな光景も

「バタフライハウス」では、立ち止まった人の体にさなぎの映像が現れ、そこから生まれた蝶が部屋を飛ぶ。蝶が壁からディスプレイの中、そして別の部屋とシームレスに飛び回ることができるのは、チームラボの高度な技術の賜物なのだとか。部屋の端に来ても消えず、隣の部屋の花々の中を自由に飛んでいく。蝶だけでなく、別の部屋にいるカラス、楽器を奏でたり踊ったりする人々、花が集って生まれた動物たちなども、部屋から出て自由に通路を闊歩。館名通り、作品と作品の境界がない“ボーダレス”な世界だ。
 「カラスは色々な部屋に飛んで行き、ほかの作品と融合します。次にどの部屋に飛んでいくかは、カラスが自分たちで決めているため、作った我々にも分かりません。ほかの作品の動きを見ながら、空いているこちらへ行こう、スペースが埋まっているから引き返そうなど、その場で変化します。プログラムを組んで投影しているのではなく、自分たちで考えるように設定されているため、常に作品同士でコミュニケーションを取り、交じり合う世界が生まれるのです。同じ光景が二度と現れない点では自然と一緒ですね」。

各作品の部屋や通路に突然飛び込んでくるカラスたち。同施設では、「くぼみにある宇宙」と「浮遊する巣」などでもこのカラスの姿が見られる

刹那的な変化や情景を楽しむ。いつ行っても異なる展開が楽しめる、それは訪れる人にとって無限の魅力でもある。カラスの作品は、2016年に森美術館で開催した「宇宙と芸術展:かぐや姫、ダ・ヴィンチ、チームラボ」で登場した《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして衝突して咲いていく - Light in Space》の進化系。当時は四方と床面にカラスが飛び回る作品だったが、同施設に設置されたものはネットの上に座って全方位で眺められる形にパワーアップしている。黒いネットがスクリーンと同化して宇宙空間に佇んでいるような浮遊感が得られる点が魅力だ。

「Wander through the Crystal World」は、一つひとつのLEDがプログラミングされており、部屋の奥にあるディスプレイやスマホから山、雨、雷などの象形文字を選ぶとその情景を光で演出

一般の美術館と異なり、とことんハマりこんでしまうのは鑑賞者が作品に変化を与えることができるからだろう。触れると、村人衆が振り向いたり、花が散ったり、蝶が死んでしまう。
 「館内に張り巡らされたセンサーやカメラで、人の動き、触れているものを520台のコンピューターがリアルタイムにキャッチ。その情報から計算し、作品映像を創り出しています。プロジェクターも最新のものを470台使用。散りゆく花弁の一枚一枚もコンピューターが人の動きに合わせて、色合いや光を調節しながら描いているのです。中には人がいないと出現しない作品もあり、自分以外の人が体験している様子が空間を作っていく要素となるわけです」。
 作品同士だけではなく、鑑賞者と作品との境界もボーダレス。もちろん、入場者全体のコントロールは行っており、混雑時でも作品が見えないレベルにはならないので、安心を。

録画ではなく、コンピューターが瞬時に計算して映像を描いていくため、その情景は常に一期一会。バックヤードにはサーバーがズラリと並んだ部屋が何部屋もある

代表作は、ホールのような広い空間で見られる「人々のための岩に憑依する滝」。滝の水が岩に見立てた凸凹の床に当たって広がっていく幻想的な光景が美しい。両側の壁では「木」「山」「虹」「蝶」などの象形文字が上の方から降りてくる。「山」の字に人がタッチすると壁に山の景色が現れ、「木」の字をタッチすると、若木から大木になっていく映像が出現。色々な現象が1つの部屋の中で同時に起こり、独特の世界観を創り出している。凸凹の床に座って滝に打たれるも良し、“花見台”と呼ばれる展望台から全景を眺めるのもオススメだ。

「花の森」を進んでいくとたどり着く天井高9mの大空間。滝が流れ落ち、無数の花が漂う。両側の壁にある象形文字をタッチするとその景色が現れるのも面白い

アート鑑賞であり、現実にはない世界の体験であり、運動もできる同施設は、一般的な美術館の概念では括れない。杉山氏は、アートの文脈の中に、教育的要素やエンタメ要素も盛り込んだ新しいミュージアムの在り方を提示したかったと話す。「この施設は森ビルとチームラボが合弁会社を作り、合議制で運営しているのですが、最初から大掛かりな施設を作ろうとプロジェクトチームを作ったわけではありません。数年前、小規模な企画からスタートし、アーティストであり、さまざまな展覧会やイベントを手掛けてきた経験もあるチームラボと、街づくりの中で文化施設を企画運営してきた森ビルが、互いのノウハウを掛け算し、議論を重ねてきました。チームラボが見せたいものと森ビルが作りたいものをキャッチボールする中で、ここでしかできない体験を提供するコンセプトが生まれ、大きな空間が必要だとか、最初に迷わせるような導線を作った方が良いとか、探して発見する楽しみを味わってもらうのはどうかといった具体的な内容が固まってきたのです。まとめるのは大変でしたが、しっかり議論したことで、コンセプトが明確になりました」。

混んでいる日は整理券が出るほどの人気を誇る「ランプの森」。制限時間があるものの、少人数制でゆったり写真を撮りながら鑑賞できる。無数のランプの光が広がっていく光景は感嘆の一言

1つ上のフロアには体を動かす「運動の森」、子ども向けの共創をテーマにした「学ぶ!未来の遊園地」、カフェ「EN TEA HOUSE 幻花亭」がある。
 “身体で世界を捉え、世界を立体的に考える”ことをコンセプトにした「運動の森」は、「Borderless World」とは対照的に開けた空間で、ボルダリングやバルーンが浮かぶ部屋があったり、トランポリンがあったり、凸凹の床に子どもが描いたカエルやトカゲが床を飛び回ったりと、幻想的なアート空間というよりはポップで楽しい空間といった趣。

上のフロアにある「裏返った世界の、巨大!つながるブロックのまち」。家のブロックなどを並べると乗り物が走り、街が発展していく仕組みになっている

「この施設ならではのコンテンツを検討した結果、皆で一緒に動きながら作品世界を作る、自分の動きによって作品世界を少し変えられるものにたどり着きました」と、杉山氏はデジタルアートと運動が結びついた理由を説明。「運動の森」の休憩室には、このプロジェクトを始めた経緯がパネルで解説されている。リーダーシップやコミュニケーション能力といった外部と関わっていく力は、自分の体で世界を切り開いていく中で培われた経験から紡ぎ出されるもので、物事を立体的に捉える空間認識能力が重要なのだとか。

「運動の森」の施工風景。作品「グラフィティネイチャー 山山と深い谷」に合わせてアップダウンのある床を造る

足をかけるべき場所を光で示す「光の森の3Dボルダリング」、トランポリンで跳ねることで星の一生が見られる「マルチジャンピング宇宙」、揺れる棒の上を渡るアスレチックのような「色取る鳥の群れの中のエアリアルクライミング」と、アトラクションのような作品は、どれも人気で並ぶこともしばしば。トランポリンは正しく上に飛ばないと星が生まれず、棒渡りは平衡感覚が試されて、普段運動していない大人にはなかなかハード。でも、光のインスタレーションの中で思い切り体を使うと、ジムなどでのエクササイズとはまた違った爽快感があって面白い。

身長100cm以上から参加できるボルダリングは、自分で決めた光の色だけをタッチしてゴールへと進む。「運動の森」の入口で運動靴を貸し出すコーナーもあり、サンダルなどで来ても履き替え可能

沢山歩いて疲れたら、ぜひカフェ「EN TEA HOUSE 幻花亭」へ。茶碗にお茶を注ぐと中に花が咲き、茶碗を持ち上げると散るという作品「小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々」を体験できる。作品を鑑賞し、そのお茶を飲む行為が、五感で作品世界に没入という同施設のコンセプトを一層身近に感じさせてくれる。
 「施設全体が広いので休めるカフェを作ることになった際、ただお茶を提供するのではなく、それ自体が作品になっている、カフェと作品のボーダレスを体験してもらうアイデアが生まれました。メニューは訪日客を意識し、日本茶にしています」。同施設が東京の魅力の一つとなるべく生まれたように、カフェも世界を意識した構成。器を置いた場所に照準を合わせて花が咲くのではなく、お茶の中だけに花が生まれる仕掛けは、飲んでホッとする度に花が生まれ、安らぎも。店内が暗いため、喉を通り抜ける清涼感と花の彩りのインパクトが強く、普通のカフェで休む感覚とは異なる不思議な体験が味わえる。

カフェ「EN TEA HOUSE 幻花亭」で提供される日本茶。テーブル上の茶碗にお茶がある限り花が咲き、茶碗を動かすと花が散っていく作品でもある。チームラボの“デジタルアートで食を拡張する”プロジェクトの一環

来館者の滞在時間は一般的な美術館よりも長めのようだ。記者は一般来館者と同じように見学し、3時間ほどかかった。出口の手前に、「Borderless World」へ戻る分岐があるため、迷って見つけられなかった作品をもう一度探すために戻る人、刻々と変わる作品の違う景色が見たくてもう一周する人と、知らず知らずのうちに作品世界にどっぷりハマってしまう。取材日も迷って、館内のスタッフに聞いている人を多数見かけた。コンセプトがコンセプトなだけに、スタッフもその場所へのヒントを教えてくれるのみ。その手掛かりを元に探して、見つけた時の達成感も作品の美しさや凄さと同じくらいインパクトがある。館内は自由に撮影でき、作品の幽玄な世界を記録したり、友人知人と共有したり、SNSに上げていくのも楽しみ方の一つ。スマホのカメラでも驚くほど鮮やかに撮影でき、圧倒する空間の様子や華やかな作品をいくつも撮りたくなること請け合いだ。
 デジタルアートという最先端の分野でありながら、書道や祭りなど昔ながらのものが巧みに組み込まれた作品はどこか安らぎも感じさせる。現実でありながら、どこか別の世界のような不思議な空間に身を委ね、アートや人との新しい関係性を築いてみてはいかがだろうか?

「お絵かき水族館」では子どもたちの描いた魚が自由に泳ぐ。「グラフィティネイチャー 山山と深い谷」のトカゲや鳥などを合わせて、70〜80人くらいが一度に描けるお絵かきスペースを用意。子どもだけでなくカップルなども楽しんでいた
森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス(台場)
外観
江東区青海1-3-8 東京お台場パレットタウン
03-6406-3949(10:00〜18:00)
入館料
大人(15歳以上)3,200円、小人(4〜14歳)1,000円
月〜木
11:00〜19:00
金曜・祝前日
11:00〜21:00
10:00〜21:00
日祝
10:00〜19:00
※最終入館は閉館の1時間前まで
※営業時間はシーズンによって異なる
休館日
第2、第4火曜日
りんかい線「東京テレポート駅」徒歩5分
新交通ゆりかもめ「青海駅」徒歩5分
webサイト
2018年7月取材/2018年7月更新