江戸伊勢型紙美術館(永田町)
江戸時代、着物に文様を染める際に使った伊勢型紙。100年以上前の仕事道具である型紙をアートとして蘇らせ常設展示しているのが江戸伊勢型紙美術館だ。
館長の梶浦淳代氏は、日本語教師養成と、外国人ビジネスマンへの日本語教育を行う語学学校の理事長。日本橋の老舗染物屋が廃業の際に放出した江戸から昭和初期の伊勢型紙5000枚を基に世界で唯一の常設美術館をオープンした。
伊勢型紙は、型地紙に縞彫り、突き彫り、道具彫り、きり彫りなどの人間業とは思えない彫刻技法で文様を彫りぬいたもの。楮(こうぞ)から作った和紙を柿渋で数枚張り合わせ、天日干し、燻煙、再度柿渋に浸して天日干し、室干しした型地紙は伸び縮みせず、着物文化が発達した江戸時代には隆盛を極めた。その起源は奈良時代で、三重県鈴鹿市の伊勢湾に近い白子町、寺家町で作られたため、伊勢型紙と呼ばれている。型紙商は全国各地の要望をまとめて受注して販売していた。
2〜3Fと2フロア構成の展示室。2Fは大きいサイズのものと、文様を復刻して製作したオリジナルグッズが並ぶ。扇のように舞わせた「蝶の扇」、流水に桜が配された「桜」など、見ているだけで気分が華やぐものが多い。「着物の柄は日本の文様であり、伊勢型紙はいわば日本文様の美の集大成とも捉えられます。古来からの文様が全て型紙として残っているのは世界でも類がないので、外国人はもちろん、日本人も驚かれることが多いですね」と館長。幼虫から美しく変わる蝶は不死不滅、丈夫な麻の葉は子どもの健康願いなど、モチーフは季節感だけでなく願望を具象化したものも多い。細かいモチーフが広がる江戸小紋は、特に江戸で好まれたスタイル。四季の花の小紋をパッチワークのように集めた小紋寄せは一年中着られる実用性も兼ね備えていたとか。お洒落の中に合理性も求める江戸の人々のしたたかさに舌を巻く。
3Fは四季に合わせた型紙や着物の展示、イベント等で使われる茶室がある。必見なのは型紙をはめた格子窓。自然光で葵や亀甲、藤などが浮かび上がる様は非常に美しい。小さな柄を散らしたものから、デフォルメしたモチーフを大きく配したものまで、現代人にも斬新に映る。日本人の古来のデザイン感覚や美意識を外国人や若者に伝えたいという館長の思いも納得の秀逸さだ。
館内は片面がガラス張りで、隣接の緑が視界に広がる有名建築家によるモダンな空間。センスの良いカフェを訪れた感覚で、現代アートのように型紙のデザインを楽しみ、古の文様を心に彫り込んでみたい。
名称 | 江戸伊勢型紙美術館 |
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所在地 | 千代田区紀尾井町3-32 紀尾井アートギャラリー2〜4F |
電話番号 | 03-3265-4001 |
料金(税込) | 大人1,000円 |
営業時間 | 11:00〜18:00(最終入館は閉館1時間前まで) |
休館日 | 月・水曜、GW、夏季(7月中旬〜8月)、年末年始(12月中旬〜1月中旬) |
アクセス | 半蔵門線・有楽町線・南北線「永田町駅」徒歩3分 |
公式サイト | http://www.kioi.jp/ |
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