100年以上前なのに斬新! 着物の型紙から江戸の粋と美意識を学ぶ

江戸伊勢型紙美術館(永田町)

  • 2013/02/28
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江戸伊勢型紙美術館

江戸時代、着物に文様を染める際に使った伊勢型紙。100年以上前の仕事道具である型紙をアートとして蘇らせ常設展示しているのが江戸伊勢型紙美術館だ。
 館長の梶浦淳代氏は、日本語教師養成と、外国人ビジネスマンへの日本語教育を行う語学学校の理事長。日本橋の老舗染物屋が廃業の際に放出した江戸から昭和初期の伊勢型紙5000枚を基に世界で唯一の常設美術館をオープンした。

伊勢型紙は、型地紙に縞彫り、突き彫り、道具彫り、きり彫りなどの人間業とは思えない彫刻技法で文様を彫りぬいたもの。楮(こうぞ)から作った和紙を柿渋で数枚張り合わせ、天日干し、燻煙、再度柿渋に浸して天日干し、室干しした型地紙は伸び縮みせず、着物文化が発達した江戸時代には隆盛を極めた。その起源は奈良時代で、三重県鈴鹿市の伊勢湾に近い白子町、寺家町で作られたため、伊勢型紙と呼ばれている。型紙商は全国各地の要望をまとめて受注して販売していた。

2〜3Fと2フロア構成の展示室。2Fは大きいサイズのものと、文様を復刻して製作したオリジナルグッズが並ぶ。扇のように舞わせた「蝶の扇」、流水に桜が配された「桜」など、見ているだけで気分が華やぐものが多い。「着物の柄は日本の文様であり、伊勢型紙はいわば日本文様の美の集大成とも捉えられます。古来からの文様が全て型紙として残っているのは世界でも類がないので、外国人はもちろん、日本人も驚かれることが多いですね」と館長。幼虫から美しく変わる蝶は不死不滅、丈夫な麻の葉は子どもの健康願いなど、モチーフは季節感だけでなく願望を具象化したものも多い。細かいモチーフが広がる江戸小紋は、特に江戸で好まれたスタイル。四季の花の小紋をパッチワークのように集めた小紋寄せは一年中着られる実用性も兼ね備えていたとか。お洒落の中に合理性も求める江戸の人々のしたたかさに舌を巻く。

3Fは四季に合わせた型紙や着物の展示、イベント等で使われる茶室がある。必見なのは型紙をはめた格子窓。自然光で葵や亀甲、藤などが浮かび上がる様は非常に美しい。小さな柄を散らしたものから、デフォルメしたモチーフを大きく配したものまで、現代人にも斬新に映る。日本人の古来のデザイン感覚や美意識を外国人や若者に伝えたいという館長の思いも納得の秀逸さだ。

館内は片面がガラス張りで、隣接の緑が視界に広がる有名建築家によるモダンな空間。センスの良いカフェを訪れた感覚で、現代アートのように型紙のデザインを楽しみ、古の文様を心に彫り込んでみたい。

モダンな造りのギャラリー建築家 芦原太郎の設計によるギャラリー。高い天井や螺旋階段など、モダンな造りの建物に額装された伊勢型紙が並ぶ。梶浦館長曰く、「和室に和柄の型紙だと沈んでしまうので、敢えて対極にインテリアも額もモダンテイストでまとめました」とのこと。
3階展示室の格子窓にはめた型紙螺旋階段を上った3階の展示室。格子窓にはめた型紙は空け感が美しい。隣接する紀尾井の森が垣間見える。展示は季節ごとの入れ替え制。時節にあった柄に江戸の人々の四季への憧憬が見えてくる。
茶室3階展示室の奥には茶室も完備。茶道の会合や外国人の文化交流にも利用されている。所蔵する型紙の見本帳や、いくつかの原本が置いてあり、イベントがなければ自由に閲覧可能。
型紙「梅林の参道」「梅林の参道」と名付けられた型紙。参道の両脇に梅が広がる様を直線で大胆に表した構成は現代人が見てもモダン。江戸の人々の斬新なアート感覚に驚く。
型紙「撫子」秋の七草「撫子」の柄。楚々とした日本女性への賛辞などにも使われるこの花の花期は、実は春から夏。そのため、常夏とも呼ばれたという。花の間に見える格子状の細いものは、柄を固定するために加えられた生糸で、この作業を糸入れと呼ぶ。非常に難しい作業だ。
竹垣の型紙涼やかな竹垣の型紙。裏に見える薄い布は紗張りされた更紗。大正11年に柄を固定する新しい技法として紗張りが考案され、糸入れに取って代わったため、型紙の制作年代を知る手掛かりになっている。
アート作品のような孔雀の羽の型紙着物の型紙という仕事道具が、シンプルな額装に入れて裏地に金色の紙を入れるとモダンなアート作品に早変わり。毒虫を食べる習性から益鳥として奈良時代から文様によく登場している孔雀の羽を図案化したもの。
販売されているアンティーク型紙「現代にも通じるモダンな和柄をインテリアにしたい」という来館者の要望に応えて、販売も行っている。アンティーク型紙は入手方法が難しく、愛好者たちの貴重なスポットに。
オリジナルグッズ型紙から柄を復刻して開発したオリジナルグッズ。和三盆の干菓子、ハガキ、手ぬぐい、扇子、折りたたみ傘、マグカップなどの食器、バッグなど、多様なものが展示販売されている。特に美術館のキャラクターにもなっている「ふくら雀」の柄が人気だ。

基本情報

名称 江戸伊勢型紙美術館
所在地 千代田区紀尾井町3-32 紀尾井アートギャラリー2〜4F
電話番号 03-3265-4001
料金(税込) 大人1,000円
営業時間 11:00〜18:00(最終入館は閉館1時間前まで)
休館日 月・水曜、GW、夏季(7月中旬〜8月)、年末年始(12月中旬〜1月中旬)
アクセス 半蔵門線・有楽町線・南北線「永田町駅」徒歩3分
公式サイト http://www.kioi.jp/

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