Books and Modern + Blue Sheep Gallery(乃木坂)
乃木會舘の向かいのビルにある「Books and Modern + Blue Sheep Gallery」。世界各国のデザイン、アート、人文系の書籍が約1,000冊そろった書店であり、写真、イラスト、版画、クラフトなどが並ぶギャラリーでもある、本とアートのセレクトショップだ。2018年からは、展覧会企画と出版事業を手掛けるブルーシープ(Blue Sheep)が合流。海外のアーティストやインドでデビューした日本人作家など、より多彩なジャンルで個展を展開している。
入ってすぐのテーブルには、開催中の個展に関連した書籍やクラフトが並び、その後ろに天井までの高い本棚が立つ。奥は白い壁のギャラリー空間。編集を通じて知り合った作家、デザイナーなどに声をかけ、年間10〜15本の企画展を実施。画家の中内渚、アニメーション作家のmiiya、版画家の沙羅、山下陽子、写真家のかくたみほやハービー・山口、型染め作家の関美穂子、陶芸作家の玉銀喜(オク・ウンヒ)など、絵画、版画、写真、クラフトなどのジャンルで個展を展開してきた。
ほぼ毎月に渡って企画展を行うのには理由がある。企画展で人が店に集うことがこの場所を知ってもらうきっかけになるからだ。当初から地道に良い展示を続けたとしても3年。周辺の人にこの場所を知ってもらうまでにはそれくらいの年月が必要と試算した。サイン帳をチェックして、訪れている人がどのジャンルの個展に来ているのか集計も欠かさない。2年、3年と年数を経るにつれて徐々に顧客が付き、好きな地域のクラフト展示関連なら必ず顔を出す人や、写真展だけに訪れる若者、毎週書店に立ち寄るワーカーなど、さまざまなファンが生まれてきた。
4年目を迎え、新たな飛躍を考えていた時にブルーシープの草刈氏と出会う。2017年に板橋区立美術館で開催された「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」展のプロデュースをブルーシープが担当。事前に出版された書籍をPRする書店リストに同店がピックアップされていたのがきっかけだ。展覧会企画や関連書籍の出版を行っている草刈氏と、書店とギャラリーを運営している若井氏の目指す方向性が似ており、共同運営が実現。草刈氏側は、企画展や本づくりの余禄で生まれる情報を発信できるプロモーションスペースを探しており、若井氏側は本のキュレーションや編集など他の仕事を広げられると、双方の求めていた部分が合致したことも大きい。
毎月の企画展は年に6回ずつプロデュース。2018年は1〜8月まで若井氏が、後半は草刈氏が中心に企画。取材時時点で、9月は「フェルメール/植本一子展」(写真)、10月は「平野恵理子展」(版画)、11月は「齋藤名穂『南インドのキッチン』展」、12月は「ルート・ブリュック展」の予定だ。
『南インドのキッチン』は、南インドの台所を取材した英語の本。全ページをシルクスクリーンで作った絵本で世界的に注目を浴びているインドの出版社「タラブックス」が、当時日本でも著作のなかった建築家の齋藤名穂を見出して制作したものだ。「11月に日本語版を出版することになり、その告知を兼ねた企画展になります。台所の間取りを描いていたり、現地の料理のレシピも掲載していたり、台所での会話を通じて家族の歴史に触れたりと、南インドを感じられる本なので、その内容を立体的に伝える展示を検討しています」と、草刈氏。
ルート・ブリュック展は、フィンランドのセラミックアーティストで、2019年に東京ステーションギャラリーで企画展が予定されている注目の作家。実は、若井氏にとってルート・ブリュックはいつか個展で取り上げたい作家だったのだとか。「2010年、フィンランド取材の折にルート・ブリュックの娘に会いに行きました。著名な絵やクラフト作品もステキですが、ルート・ブリュックが住み、現在は娘が暮らす家の台所で、何気なく使われている食器類なども一つひとつが遊び心とセンスにあふれていて、こういったものを紹介したいと思ったのです。ポイントを押さえたデザインは、暮らしの中にあると幸せな気分になると思います」。
オーナーの若井浩子氏は、大学卒業後、商店建築社、東京ガス リビングデザインセンターOZONE、アルクで建築・デザイン・ライフスタイル誌の編集に携わってきたベテランの編集者。アートと本の両方を立体的に楽しむ場所を目指して同店を開き、当初は“命懸けの買い取り”と称して本を集めていたとか。現代アート、写真、クラフトと3つのジャンルを織り交ぜているのは、取り入れることで良い気分になる“生活のアート”を提案していきたかったから。
「本格的なプライマリーギャラリーが扱う作品は価格も数十〜一千万円以上と高く、投機目的の購入などもあり、深い知識や業界内外とのコネクションが求められます。しかし、うちで扱っている作品は数千〜十数万円まで。それでも、一般人にとっては気軽に何度も払える額ではありません。だからこそ、日常が彩られる作品を選んでいます」。若井氏は、個展で扱っている作家の書籍や作品を自分でも購入。自らが顧客目線で使ってみる、本を読んでみることで、その良さを生の声で伝えられるように心掛けている。ネットでの一律的なPR文言に疲れ、本当に良いものを求めている人にとってはハズレ無しの安心空間かもしれない。
作品の展示では、長めのキャプションが特徴的。その理由を若井氏は、作品世界をより深く知るためには知識が欠かせないからと話す。「本物の美術品は、インパクトだけで見る人に感動を与えられるという考え方がありますが、私は違うと感じています。やはり、知識を得て見るのと、知らずに見るのとでは、作品への理解や感動の仕方が異なるのです。うちでは、作品をポンと出すだけでなく、制作背景などをキャプションで解説します。作品周辺の情報を知ることで、作品の面白さや意味を深く味わってほしいですね。そんな鑑賞スタイルだからこそ、私の中では、本とアートは常に一体。切り離して考えられないものなのです」。例えば、黒人が厳しい労働を強いられている絵の場合、その絵を描いたのが白人の画家なのか、黒人の画家なのかによって、その絵の意味は変わってくる。若井氏は、その背景を知らずに絵を見て労働の苦しさが伝わってくると言ってもそれは空しいだけだと話す。
ここでは、もし作品を見て心が動いたら、それに関わる書籍も手に取れ、作家が影響を受けた文化や歴史に想いを馳せることも可能だ。難しい解説書ではなく、紀行文やエッセイなどから作家や出身地などを探り、作品観を掘り下げられるのも初心者には嬉しい。生活の一部に手軽にアートを組み込めることを教えてくれるギャラリーであり、自分の世界を感性と知性の両方で広げてくれる書店でもある希少なスポット。何か新しいものと出会いたい時にこそ、訪れてみてほしい。
名称 | Books and Modern + Blue Sheep Gallery |
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所在地 | 港区赤坂9-5-26 パレ乃木坂201 |
電話番号 | 03-6804-1046 |
営業時間 | 12:00〜19:00 |
休廊 | 月曜日、日曜日 ※展覧会により変更する場合あり |
アクセス | 千代田線「乃木坂」駅徒歩1分 |
公式サイト | http://booksandmodern.com/ |
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