アークヒルズの施設内に造園されたアークガーデン。
コンセプトの異なる4つの庭は、都会の直線的な庭園ではなく、自然の力を存分に引き出した植栽が魅力。
特に、通常非公開のルーフガーデンは“秘密の花園”として人気を集める。
1996年、アークヒルズの開業10周年リニューアルを機に造園されたアークガーデン。コンセプトの異なる4つの庭「ルーフガーデン」「メインガーデン」「フォーシーズンズガーデン」「バックガーデン」が敷地内に点在し、サントリーホール屋上にあるルーフガーデンは毎年春と秋に特別公開、それ以外は通年で公開されている。各ガーデンには、都心にいることを忘れさせる四季折々の豊かな景色が広がり、ワーカーや近隣住民にとってかけがえのない憩いの場となっている。
まずはアークガーデン誕生の舞台裏までさかのぼろう。日本初の民間による大規模開発事業として1986年に誕生したアークヒルズ。オフィス、住宅、ホテル、文化・商業施設などを集積させ、“一つの街”をつくるように都市開発を進めるスタイルは、今でこそ定番だが、アークヒルズはまさにその先駆け。また、街にはもちろん緑が必要と、まだ一般的ではなかった屋上緑化にも積極的に取り組んでいた。しかし当時のアークガーデンは、あくまでヒートアイランド現象の緩和というような緑の機能面を重視したもので、今では“秘密の花園”として草花が咲き誇るルーフガーデンにも、常緑樹と芝生のみが植わっていたという。
そして、10周年のリニューアルを機に持ち上がったのが、アークガーデン造園事業だった。当時から、植物を通した“コミュニティの形成”を重要視していた故・森稔社長(当時)にとって、このプロジェクトの持つ意味は非常に大きかったという。そんな中、「人々のコミュニティが生まれるお庭を一緒につくりませんか?」と提案し、森社長とすぐに意気投合したのが、今回インタビューに答えてくれた園芸家の杉井明美氏だった。以来、現在まで20年以上、アークガーデンの専任ガーデナーとして、このオンリーワンの景観づくりに尽力している。
サントリーホール横の階段を上りきり右手に進むと、いつでも自由に散策できるメインガーデンと、苗の養生などを行うバックガーデンが現れる。
メインガーデンは、ビルとビルの狭間に現れるプライベートガーデンのような雰囲気。庭の中心と周りをぐるりと取り囲むように高い樹々が植えられているため、春は木漏れ日が心地良く、夏は旺盛に伸びた葉が涼しげな木陰をつくる、自然観あふれるスポットだ。回遊できる小道の脇にはベンチや水場などもあり、少し人目を避けてホッと一息つきたい時などにはピッタリかもしれない。
また、バックガーデンは、こぼれ種から植物を育てたり、植える苗の養生を行う、言わばアークガーデンの準備室。植物の成長サイクルを尊重し、四季の流れに沿って植え替えを行うアークガーデンだからこそ必要な場所と言える。
さて、次は先ほどの階段を左手に進んでみる。すると、通年公開のフォーシーズンズガーデンが見えてくる。こちらは、古代に日本へ渡来した植物や日本原産の植物だけでつくられたエリアで、花壇の中に目を凝らすと、フウチソウ、ヤマブキ、ハギ、クサボケ、メグスリノキ、イソギク、ムサシアブミ、チョウジガマズミなど、驚くほど多様な山野草の植生があることが分かる。「日本の昔ながらの植物は、風情と奥行きがあって本当に素敵なの」と目を輝かせる杉井氏の言葉通り、決して華やかではないが、素朴で愛らしい小花や実、ユニークな草姿を眺めていると、子どもの頃道端や野山で出会った植物たちを思い出して幸せな気分になってくる。また、このガーデンはランチ場所としても人気があり、春になると桜の木の下やベンチで花見がてらお弁当を広げるワーカーも多い。
フォーシーズンズガーデンからさらに上へ。こちらが、アークガーデンの中でも中心的なエリアで通常非公開のルーフガーデンだ。1580uの敷地は上下3層に分けられ、約100種、5000株以上もの草花で造園されている。上段は、近隣のビルから眺めた時に美しく見えるように、英国の国旗・ユニオンジャックをモチーフに花壇が設計されており、最も草花の種類が多い。中段は、リンゴ、レモン、ブルーベリー、ユスラウメなど果樹の鉢植えが中心のエリアで、小さな池が鳥の憩いの場にもなっている。そして下段はバラが中心のガーデン。育てやすく景色にも馴染みやすい日本のバラを多く取り入れたアーチが美しく、ガーデンコンサートなどはこちらで開催される。
2017年には、サントリーホールの半年間の改修工事に合わせ、リニューアル工事が実施された。全ての植物を一度掘り上げ土壌改良を行ったり、傾斜が急だった階段の架け替えを行うなど、植物と訪れる人双方に心地良い環境に。さらに、その年を機に、これまでの年2回程度の公開から、春と秋で約40日と大幅に公開日が増えたのも嬉しいニュースだ。
造園当初は、ここで草花が育つのだろうかという不安が大きかったそうだが、「周りの木がこんなに元気に育っているんだから大丈夫!」との杉井氏の力強い言葉と共に、プロジェクトが動き出した。
杉井氏が目指したのは人と自然がふれあい生まれる「ふるさとの景色」を東京のど真ん中につくり出すこと。その想いを実現するために、全ての作業は植物の持っている自然の力を引き出す方向に集約されていった。例えば、人工的に草丈を低くした矮性の苗は使わず、本来の姿でのびのび成長するよう促す。そして、シーズンごとで全ての苗を入れ替えることが多い都市型花壇とは異なり、植え替えの際は全体の3/4は残し、それらが花のシーズンを終え種をつけるまでじっくり見届けるという。また、取材時の4月前半の時点では、花壇のあちこちに土の表面が見えていたが、これも夏に向けてぐんぐん育つ植物たちに十分なスペースを確保するための“余白”で、人間本位の見栄えの良さは二の次だ。「若い頃はこの余白をつくるのが不安な時もありましたけど、植物が本来の力を発揮して元気に育ったら、それだけで十分綺麗なんだと気づきました」
一方、こぼれた種や鳥が運んできた植物など花壇の枠内に収まらない草花にも、愛情深い目が注がれる。「ほら見て、こんな所にも咲いて可愛いでしょう」と杉井氏が一段と目を輝かせるのは、土壌改良の際に花壇からこぼれた種から、ひっそりと咲いたスイセンだったりするのだ。
自然に逆らわず、あくまで人間は植物が気持ちよく育つためのお手伝いをする。植物目線に立ったその謙虚な気持ちが表れたアークガーデンは、訪れる人を景色の一部として優しく迎え入れ、「またいつでもおいで」とさり気なく背中を押す。それはまるで、誰にでもあるふるさとの記憶そのものではないだろうか。
名称 | アークガーデン |
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所在地 | 港区赤坂1・港区六本木1(アークヒルズ敷地内) |
問合せ | 03-6406-6663(森ビル株式会社) |
開園時間 | 8:00〜21:00 ※ルーフガーデンは通常非公開。公開スケジュールはアークヒルズ公式webサイトを参照 |
アクセス | 南北線「六本木一丁目駅」から徒歩5分 南北線・銀座線「溜池山王駅」から徒歩7分 |
公式サイト | https://www.arkhills.com/ |
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