よりボーダレスになった世界で、さまよい、探索し、楽しむ!

森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス(麻布台)

  • 2024/04/17
  • カルチャー
  • アート
森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス チームラボ《人々のための岩に憑依する滝》、《世界はこんなにもやさしくうつくしい》、《花と人、コントロールできないけれども共に生きる - A Whole Year per Hour》© チームラボチームラボ《人々のための岩に憑依する滝》、《世界はこんなにもやさしくうつくしい》、《花と人、コントロールできないけれども共に生きる - A Whole Year per Hour》© チームラボまさにチームラボを象徴するような空間は、2階建てに相当する天井高があり、地下にあるとは思えないほど解放的でボーダレスな世界が広がる。

約1年半の「休業」を経て、お台場から麻布台ヒルズに2024年2月に移転オープンした「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」(以下、チームラボ)。お台場では開館からわずか1年で世界160以上の国・地域から約230万人の動員を達成し、「単一アート・グループとして、世界で最も来館者が多い美術館」としてギネス世界記録にも認定されるなど、デジタルアートの本拠地として国内外で大きな注目を集めてきた。
 麻布台での新チームラボでは、「境界のないアート群が、より進化し、より多くの場所へ移動し、複雑に関係し合い、永遠に変化し続ける境界のない一つの世界を創る」という。
 進化した“ボーダレス”とはどのようなものだろうか。新しいコンセプト「認知上の存在」とはいかなるものか。お台場との違いに焦点をあてながら紹介していきたい。

まず、全体の構造や特徴について、チームラボと協働で麻布台への移転や運営を推進してきた森ビル株式会社 新領域事業部 部長の永井研吏氏に伺った。
 「お台場は2階建てでしたが、麻布台は1フロアとなりました。ミラー貼り面を増やしたり、天高を上げたりと館内の設計段階から作品に適した空間のサイズや形状を整備していったこともあり、より『境界なく連続する一つの世界』を体感していただける空間となりました。また、プロジェクターも470台から560台に増設。画像生成のためのPCも520台から610台に増えるなど、最新の機材により、さらに没入感の高い空間を創造しています」。

森ビル 永井研吏氏森ビル株式会社 文化事業部 新領域事業部 部長 永井研吏氏

それでは、エントランスから見てみよう。早速、チームラボの世界観を体感できる作品《人間はカメラのように世界を見ていない》がある。
 天井や壁にペイントされた「teamLab Borderless」の文字は特定のポイントからカメラを通して見るときだけ、空間に浮き上がり正体する。
 「チームラボを設立する以前から、世界は境界がなく連続しているにもかかわらず、認知上分断してしまうこと、特に、レンズで見ると、自分の身体がある世界と見ている世界が分断されることに興味があった。本来、人間の視野は広く、視線とフォーカスは動き回るが、レンズで撮った世界はフォーカスが1点で動かないため、視野が狭くなり、意志を失う」とオープニングに寄せたチームラボ代表・猪子寿之氏の言葉の意味を体感できるような空間だ。SNS全盛時代に、まず入り口から、実際に体験すること、疑ってみること、多角的に見ることの大切さを静かに示唆しているようにも思える。

チームラボ《人間はカメラのように世界を見ていない》©チームラボチームラボ《人間はカメラのように世界を見ていない》©チームラボ肉眼に近い見え方の画像(左)と特定のポイントからレンズを通した画像(右)

特に見どころは、新しいコンセプト「認知上の存在」を一番に体感できる世界初公開となる作品空間《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》だ。展示空間は無数の球体群によって埋め尽くされ、それぞれの球体の中には、異なる光の現象が入り混じっている。球体の光には@物理的な光源によるもの、A光源が消えた球体に周りの球体の光源が反射しているもの、Bビー玉のような光、Cプルプルとしたシャボン玉のような光の4種類があるといい、このうちBとCは実際には物質的に存在しないが、私たちの認知上のみ存在する光の現象なのだという。

同様に無数の光が空間を走り続ける作品《マイクロコスモス - ぷるんぷるんの光》は、ゼリー状の光の塊がプルンプルン揺れながら走るが、その光のゼリーは物質的には存在していない。これも私たちの認知上のみ存在する光のゼリーなのだ。

チームラボ《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》©チームラボチームラボ《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》©チームラボ無数の球体群によって埋め尽くされた空間(左)、真ん中のシャボン玉のような光は実際には存在しない認知上の光(右)

新しいチームラボの世界にはこうした認知上に存在する実験的な作品群が複数展示されている。光の線によってつくられる彫刻作品「ライトスカルプチャー - Flow」シリーズもその一つ。16作品を40分間で上映する本作のうち、《Light Vortex》は外側へと流れ続ける光による彫刻。作品の構成要素が外側に流れ続けていても、部分に連続性や秩序が形成された時、一つの存在として認識され、時には生命のようにすら感じられる作品だ。
 また、新作《中心も境界もない存在》は、作品の手前には認知上の壁が存在するが実際には存在しないため、手で触ると通り抜けてしまう。触ることではじめて壁がないことを認知できる作品だ。

チームラボ《Light Vortex》©チームラボチームラボ《Light Vortex》©チームラボむせかえるほどの光が体全体を包み、一体化するような空間。
チームラボ《中心も境界もない存在》©チームラボチームラボ《中心も境界もない存在》©チームラボ

「私たちは、見えている世界を認知しているのではなく、認知している世界を見ている。認知している世界が変わると、見ている世界が変わり、見えている世界が変わると、無自覚に行動が変わっていくのではないか」とチームラボは解説する。認知上の存在を体現するこれらの作品を通して人間が世界をどのように見ているのかを模索する作品があちらこちらにちりばめられている。

チームラボ《Walk, Walk, Walk:探し、遠ざかり、また 出会う》©チームラボチームラボ《Walk, Walk, Walk:探し、遠ざかり、また 出会う》©チームラボ通路も飽きさせずに私たちを誘導してくれる。能の囃子のような音楽とともにゆっくり進んでいく牛車やウサギ、カエルたち。手をかざすとこちらを向いたり、手を振り返してくれたりと、インタラクティブな反応が楽しい。

進化したという“ボーダレス”作品も見てみよう。
 さなぎから生まれた蝶や、別の部屋にいるカラス、楽器を奏でたり踊ったりする人々、花が集って生まれた動物たちなどが、部屋から出て自由に通路を闊歩しているのはお台場と同じだが、麻布台では、さらに作品がシームレスに動き回り、影響し混ざりあい、新たな“ボーダレス”の世界観を創り上げている。

例えば、葛飾北斎《富嶽三十六景》にある神奈川沖波裏のような荒波の作品《Black Waves: Flowing Beyond Borders》は、以前は一つの部屋で完結していたが、麻布台では、通路を伝い、時に色を変えて別の空間へと移動し、他の作品と融合しながら新しい世界《Dark Waves: 闇から生まれ闇に帰る》を創り上げている。「海は全ての海と繋がっていて、この世界の全ての波は繋がりあっている」ことを想起させるダイナミックな作品だ。

チームラボ《Black Waves: Flowing Beyond Borders》©チームラボチームラボ《Black Waves: Flowing Beyond Borders》©チームラボ
チームラボ《Dark Waves: 闇から生まれ闇に帰る》©チームラボチームラボ《Dark Waves: 闇から生まれ闇に帰る》©チームラボ

このようにさまざまなモチーフが館内で移動するボーダレスと、ミュージアムや国を超えたボーダレスが見られる作品がある。
 その一つが、紙に描いた魚が他者の描いた魚たちとともに目の前の海で泳ぎ出す空間《スケッチオーシャン》だ。魚たちは部屋を出て、他の作品の境界を越えて館内を泳いでいくが、その中でもマグロは、物理空間も超えて、世界の他の場所で行われている展覧会の《スケッチオーシャン》や《世界とつながったお絵かき水族館》の海まで泳いでいくことも。また、世界の他の場所で今、描かれたマグロたちが、目の前の《スケッチオーシャン》の海の中に泳いで来ることもある。現在は北京やマカオといった東アジアが中心だが、今後チームラボの建設が予定されている中東やヨーロッパの国々と相互に行き来するマグロたちも見られるようになるのだとか。麻布台の《スケッチオーシャン》はさらに世界とのつながりを感じることができる空間へ進化していく。

《共有する巨石》も世界を超えていく。巨石は空間を出て、通路を浮遊し壁の中にめり込み、そして物理空間を超えて世界の他の場所に、めり込んだ分だけ姿を表す。空間を超えているが一つの作品だ。ちなみに、壁にめり込んでいる時、巨石に触れると、巨石は青く光るのだとか。

チームラボ《スケッチオーシャン》©チームラボチームラボ《スケッチオーシャン》©チームラボ左端に見える「Back from the World!」と書かれた水色の旗に導かれるのは麻布台で描かれたマグロたち。これから各国のチームラボのミュージアムへ泳いでいく。その後を続くピンク色の旗「Born Beijing」に連なるのは、北京からやって来たマグロたちだ。

この他にも特長的な作品などについてチームラボのメンバー、工藤岳氏に伺った。
 「庭に行くと四季によりちょっとした変化がありますよね。二度と同じ風景にならないし、一緒に行く人によっても異なって見えるし、何度行っても新たな発見があると思います。チームラボもまさに庭のようにさまざまな作品が混ざり合い、絶えず変化し、瞬間、瞬間で新しい世界が生まれています。それを特に体感できるのが、誕生と死滅を永遠に繰り返していく花のようすを捉えた作品《永遠の今の中で連続する生と死 II 》や、悠久な里山の景色を表現した作品《地形の記憶》ではないかと思います。これらの作品は1年を通して刻々と変わっていきますが、毎年、ほとんど変わらず続いていきます。でも、自然の景色が同じようで二度と同じではないように、次の年の同じ時は同じ景色ではありません。今、この瞬間しか見ることができません」。だからこそ、「何度来ても楽しく、新しい発見がある」と工藤氏は語る。

チームラボ《永遠の今の中で連続する生と死 II 》©チームラボチームラボ《永遠の今の中で連続する生と死 II 》©チームラボ
チームラボ《地形の記憶 》©チームラボチームラボ《地形の記憶 》©チームラボ

「麻布台ではお台場にあった《運動の森》や子ども向けの共創をテーマにした《学ぶ!未来の遊園地》がありません。けれども、そのような作品がなくても、私の子どももそうですが、『いつ来ても楽しい!』という声が聞かれます」。
 代わりに麻布台では、植物や虫、気象など私たちの想像を超える秩序が重なって存在するものが多くある自然界のように、より多くの秩序が重なった美しい空間を創り出したという。「子どもは大人が思うよりもずっと想像力を働かせて楽しむ力があります。子どもも大人も想像力をより豊かにする作品であふれています」と工藤氏。

前述の子ども向けの体験作品はなくなったが、《スケッチオーシャン》は少し進化している。自分が描いて生まれた魚を思い出に持ち帰れるプロダクトに変えるファクトリーがガーデンプラザA(B1F)の駅前広場に新設された。お台場との違いは、自分で描いた魚にAIが少しだけデザインを調整してくれること。鑑賞中にQRコードから発注すると効率的だが、缶バッチやTシャツ、トートバックになっていくようすをファクトリーのガラス越しに鑑賞するのも楽しい。

沢山歩いて疲れたら、館内のカフェ「EN TEA HOUSE・幻花亭」へ。茶碗にお茶を注ぐと中に花が咲き、茶碗を持ち上げると散るという作品《小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々》を体験できる。作品を鑑賞し、そのお茶を飲む行為が、五感で作品世界に没入という同館のコンセプトを一層身近に感じさせてくれる。器を置いた場所に照準を合わせて花が咲くのではなく、お茶の中だけに花が生まれる仕掛けは、飲んでホッとする度に花が生まれ、安らぎも。店内が暗いため、喉を通り抜ける清涼感と花の彩りのインパクトが強く、普通のカフェで休む感覚とは異なる不思議な体験が味わえる。

チームラボ《小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々》©チームラボチームラボ《小さきものの中にある無限の宇宙に咲く花々》©チームラボ

もっと気軽にひと休みしたいという人にも、麻布台にはちょっとしたスペースがある。ペットボトル不使用のミネラルウォーター自販機もあるので、喉を潤しながら、空間に書かれた書「空書」の掛け軸のような作品《生命は生命の力で生きている II》を静かに鑑賞することができる。

休憩スペース10名程度が座って小休憩できる静かなスペース

鑑賞にはぜひ「チームラボアプリ」をダウンロードしたい。刻々と移動していく作品には説明文が掲示されていないが、アプリでは、自分の近くの作品の詳細を確認できる。他にも、混んでいる作品の整理券が発券できたり、アプリで作品の一部を創ることも。

また、会場内の床面は一部、デコボコしていたり鏡面で滑りやすくなっていたりするので歩きやすいパンツスタイルにスニーカーなどの履き慣れた靴をオススメしたい。スカートで不安な人にはハーフパンツの貸し出しもあるので受付で確認してほしい。
 よりシームレスになった麻布台では、一般の来場者ばかりでなく、車いす使用者も移動がしやすくなったというが、移動が難しい場所は要所要所にいるスタッフがサポートしてくれる。その他にも、お手洗いの場所が分からないなど困った場合にも丁寧にサポートしてくれるので安心を。

最後に工藤氏と永井氏にオススメの廻り方や、楽しみ方を聞いてみた。
 「ここには、効率的な廻り方なんてないんです。そもそも迷うような構造にしています。現代は目的が明確で達成までの最短距離を取ることが良いような価値観がありますが、ここでは自由に歩き廻り、迷っても決してネガティブにならずに、そこで出会ったものを楽しんでみてください。何度も同じ場所に来てしまっても、それはそれで違う景色が楽しめるのがチームラボの特長でもあります。さまようことが気持ちいい!とポジティブに思って頂けたら本望です」と工藤氏。

チームラボメンバーの工藤氏(チームラボ《人々のための岩に憑依する滝》にて)「オススメの空間は一つではなく、他者と一緒に没入できる、このボーダレスの館全体がオススメだと自信を持って言えます」とチームラボメンバーの工藤岳氏。チームラボ《人々のための岩に憑依する滝》にて。

そして永井氏は、「世界初の新作に加えて、人気作品もかなりアップデートされました。お台場とは異なる魅力があるので、これまでチームラボを体験した事があるお客様でもお楽しみいただけると思います。作品は常に変化しています。ぜひ、一度鑑賞した作品空間へまた10分後に訪れてみてください。全く異なる作品空間が広がっているでしょう。アクセスのよい都心部に移転したことで、麻布台ヒルズの来街者にはより気軽に、日常の中でアートに触れていただけたらと思います」と話す。

館内は自由に撮影でき、作品の幽玄な世界を記録したり、友人知人と共有するのも楽しみ方の一つ。スマホのカメラでも驚くほど鮮やかに撮影でき、圧倒する空間のようすや華やかな作品をいくつも撮りたくなること請け合いだ。
 デジタルアートという最先端の分野でありながら、書道や祭りなど和を感じるものが巧みに組み込まれた作品や、チームラボのアロマチームが開発した空間ごとに異なる香りも安らぎも感じさせる。現実でありながら、どこか別世界のような不思議な空間にゆったり身を委ね、自分のペースで体感してほしい。
 さまよい、探索し、発見するからこそ楽しい。そう、人生のように!

基本情報

エントランス
名称 森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス
所在地 港区麻布台1-2-4 麻布台ヒルズ ガーデンプラザB(B1F)
電話番号 03-6230-9666(10:00〜18:00)
料金(税込) 大人(18歳以上)3,800円〜、中高生(13〜17歳)2,800円、子ども(4〜12歳)1,500円、障がい者割引 1,900円〜、3歳以下無料 
※大人と障がい者割引は変動価格制 ※現地での購入の場合、上記価格に+200円の追加料金
営業時間 10:00〜21:00
※最終入館は閉館の1時間前まで
※「EN TEA HOUSE・幻花亭」は開館の30分後にオープン、ラストオーダーは閉館の30分前
休館日 不定休(公式HPを要確認)
アクセス 東京メトロ日比谷線「神谷町駅」5番出口 直結、東京メトロ南北線「六本木一丁目駅」2番出口 徒歩4分
公式サイト https://www.teamlab.art/jp/e/borderless-azabudai/

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