虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーの緑

愛宕山と一体化するように続く緑が心地よい
地域をつなぎ、新たなグリーンネットワークをつくり出す

  • 2025/07/07
  • カルチャー
  • 緑の散策路
虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーの緑

ひとつの街としての一体感を生み出しながら自然との共生を目指し、東京有数のグリーンネットワークを形成している虎ノ門ヒルズ。
各タワーをつなぐデッキに緑を配置するなど、生物多様性に配慮した緑地がエリア全体で21,000平方メートル広がる。

2022年の虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワーの完成により、エリアの低層部の緑が連続。隣接する愛宕山や愛宕グリーンヒルズの緑とも繋がり、周辺エリアと結びついた新たなグリーンネットワークが創出されている。
約2,400平方メートル以上の緑地が広がるレジデンシャルタワーで、緑の中心となるのが、ステップガーデンをはじめとする緑地だ。

広場都会の真ん中とは思えないほど緑が生い茂っている広場

街に開放されている東西をつなぐ通路と、車道に面した北入口から続く広場は、環境に応じた多様な樹木や下草類が植えられており、訪れる人々を、あふれんばかりの緑で迎えてくれる。

虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー 緑の歩行図虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワー 緑の歩行図
青い矢印は2階のデッキ部分を表し、ブリッジを介して北は虎ノ門ヒルズ 森タワーに、南は愛宕神社の参道へ続く。黄色い矢印は1階(地上レベル)の通路で、広場と東西の歩道は街に解放されており、散策を楽しむ近隣住民の姿なども見られる
(画像提供:株式会社竹中工務店)

南側には、『東京23区内で一番高い山』である愛宕山の丘陵地が広がっている。山頂には、徳川家康の命により祀られ、出世の石段でも有名な愛宕神社が鎮座し、豊かな自然を今に残す都会のオアシスだ。
 取材で訪れた初夏の時期には、鬱蒼とした愛宕山へ続いているように、レジデンシャルタワー周辺の木々も色濃く広がっていた。

愛宕山へ続く緑愛宕山へ続く生命力あふれる緑は、もはやどこまでが地上のものか、どこからが愛宕の緑か、一瞬分からないほどだ

「この広場では、愛宕山に自生している植物と同じ種類のものをいくつか植えて、より『愛宕山へとつながる緑』を演出しています」と語るのは、森ビル株式会社 設計部 外構担当 中右麻衣子氏。
今回は、虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワープロジェクトに携わった中右氏の案内で、レジデンシャルタワーの緑の見どころを探っていこう。

中右氏「休憩時間など、ワーカーの方に活用してほしい、と思いながらこの広場を計画しましたが、多くの人がお昼を食べたり、休憩したりという様子を実際に見ると、感無量です」と語る中右氏

「想像していた以上に緑が育っていますね」と目を細める中右氏は、プロジェクト完了後にこの緑地を訪れるのは久しぶりだそう。
 「竣工は1月だったので、植え付けたばかりの植物が心もとなく、心配していましたが、梅雨を経てひと夏を越えた頃から驚くほど緑の量が増え、ほっとしたことを覚えています。以降、年を追うごとにボリュームが出てきて嬉しい限りですね。では、北の入口から緑を見ていきましょう」。

北入口北入口は、虎ノ門ヒルズ 森タワーと道路を挟んで向かいに位置する

北入口から入って一番手前にあるイロハモミジに続いて、広場の主役の一つとも言えるソメイヨシノが、通路を挟んで左側にはモクレンが植えてある。春先には、大ぶりの花を咲かせるモクレンに続いて薄ピンクのソメイヨシノが花開き、格別の眺めとなる。
 「ここの桜は東入口や愛宕山へ続くデッキ下の桜なども、すべてソメイヨシノです。一度に花が咲いてとても華やかですので、ぜひ桜の季節を楽しみにしてください」。

ソメイヨシノ広場のシンボルツリーともいえる、ソメイヨシノ。この日はあいにくの曇天であったが、晴れた日は広場の緑と桜、そして青空とのコントラストが美しい

ここで一度時間を巻き戻して、桜の時期の様子を紹介しよう。
広場の2本の桜のほか、中右氏おすすめの桜スポットは、愛宕下通りに面する東入口だ。ここでは5本の桜が訪問者を歓迎するように咲いている。

東入口から見た桜の様子東入口から見た桜の様子。木の下のベンチに座り、花を見ながらひと休みすることもできる。

西アプローチ側にも桜の見どころがある。西側からブリッジを見上げると、左手に桜、右手には緑の間から愛宕神社参道へ続く赤い鳥居が見え隠れして、色のコントラストが美しい。

西側の遊歩道から愛宕神社へ続くブリッジ西側の遊歩道から愛宕神社へ続くブリッジを見上げた様子。歩道のすぐ脇には、ランチタイムに行列のできる個性的なビストロなどがある

ブリッジに上がると、2本の桜を擁する広場全体を横から眺めることができる。
鳥居の向こうは愛宕神社へ続く神域だ。朝や昼休みに参拝に行くワーカーも多く、良い息抜きにもなるので、桜を眺めながら散歩するのも良いだろう。

(左)愛宕神社へ続くブリッジ、(右)ブリッジから見た桜咲く広場(左)この鳥居のすぐ脇には、愛宕神社車道(参道)が続いている。愛宕下通り方面を眺めると、手前に参道沿いの桜を、遠くに東入口の桜を同時に見ることができる(右)ブリッジから見た桜咲く広場

再び初夏の緑地に戻ろう。
メインとなる広場には、シラカシやアラカシ等の常緑広葉樹を基本とし、ソメイヨシノやアジサイなどの季節を告げるもの、足元にはコデマリやクチナシなどの花が咲く低木類が人々の目を楽しませてくれる。
「本来自然の環境では、高木、中木、低木と、バラエティに富んだ階層構造があるので、それを再現した方が生きものにもやさしい。虎ノ門ヒルズは、生物多様性にとても配慮して設計されており、生きものにも環境にもやさしく、その上でどれだけ人が心地よく憩える場になるかを考えて開発しました」。

ステップガーデン南側から新緑のステップガーデンを望む。桜の季節の写真と比較すると、緑の成長の早さがよくわかる

この緑地の大きな特徴となるステップガーデンは、北入口から奥に向かうにしたがい、ゆるやかな扇状に広がることによって、より緑が豊かに見え、愛宕山の緑との一体感を演出している。
「ステップガーデンに植えてある緑はヤマボウシなどの高木から、ナツツバキ、シラカシなどの中木、セイヨウシャクナゲなどの低木まで、さまざまな種類の樹木や、春にはヒラドツツジ、秋にはシュウメイギクなどの季節を感じられる植物、また、ぜひ注目してほしいのが、フジバカマやワレモコウなどの小さな草花です」。

(左)サルビア・ミクロフィア、(右)ステップの途中にあるベンチ(左)中右氏が「ぜひ、見てほしい」とお勧めする小さな花を咲かせる植物の一種、サルビア・ミクロフィア。可憐な花が印象的だ(右)ステップの途中にあるベンチ。季節の植物に囲まれる特等席は、ランチタイムや休憩などで利用する人が後をたたない

また、このステップガーデンには、デッキ階へと続く階段が2カ所あり、植物を間近に見ながら上ることができる。
2つの階段には、それぞれ途中にベンチがあり、緑に入りこめるような休憩スポットは利用者に大人気だ。

愛宕神社へ続くブリッジに向かう階段階段を上がると、愛宕神社へ続くブリッジに出る。濃い緑に囲まれているこの季節、まるで愛宕山へ続く登山口のようにも見えた

ステップガーデン下の広場にもベンチがたくさんあり、ワーカーや通行人が思い思いに過ごしている。
「虎ノ門ヒルズのテーマカラー『虎ノ門グレー』を、この広場でも手すりなどに取り入れ、他のビルとの統一感をもたせています」。

(左)広場、(右)レジデンス1階の滝(左)ワーカーや地域の人が散歩し、ひと休みする憩いの広場(右)レジデンス1階の滝。水が落ちる音で耳からも癒される空間となっている

ベンチに座ってみると日陰が多く風も通るので、思った以上に涼しく快適に過ごすことができる。また、どこからか心地よい水の音も聞こえてくる。
「レジデンス1階部分に、人口の滝があります。ここも、水の落ち方などを何回もテストして、現在の形に決まりました。ではここで、目線を上に移してみてください。広場からステップガーデンを伝って、建物からさらに上へと視線を導く『上昇する緑』をコンセプトに、建物の8階までの庇を緑化しています」。

ステップガーデンから建物へ視線を導く緑空へのぼるような緑が圧巻だ。庇の角度などは、ビジネスタワーのものと合わせることで、街全体に一体感を持たせている

「竣工当初は、ステップ側の樹木がまだ低く、葉が茂っていなかったため、上の緑とつながる感じが希薄でしたが、今こうして見ると、空に向かってのぼっていく感じが実現していますね。よくぞここまで育ってくれたと、本当にうれしいです」。

庇部分にはヤマボウシやナツツバキなど、基本的にステップガーデンと共通の樹種が植えられており、北側はハマヒサカキの植え込みを作ることで、緑を保てるようにし、日照が良いその他の方角は十分な潅水を行い、乾燥に気をつけているそうだ。

ステップガーデン野草があり花も咲き、「人が愛おしみ手をかけている庭」をイメージしたステップガーデンには、樹木のほか季節の花など、計40種ほどが植えられている

また、ここと同様に8階までを緑化しているビジネスタワーと、グリーンの種類は異なるのだろうか。
 「やはり愛宕山に接していることが大きな違いです。こちらは愛宕山と繋がるように、常緑樹主体の厚みのある緑を一部取り入れています。また、ステップガーデンから足元にかけては親しみのある緑で、人が手をかけて世話をした庭のような、丁寧な緑を意識しています。
次は緑地の東西をつなぐ歩道を見てみましょう。この歩道も、どなたでも通行できるよう一般に開放しています。こちらも、まず東入口から西に向かって歩いてみましょう」。

東入口4月には5本の桜が迎えてくれた東入口は、新緑がまばゆいばかりに輝いていた。東アプローチに植えられている緑にも注目してほしい

「東アプローチの左側は、ヤツデやアオキなど愛宕山の植生を取り入れ設計されているので、愛宕の緑のように、しっかりと色が濃いのがわかりますでしょうか。前方の大きな木は、愛宕山の大けやきです。また、ここの木の中には、愛宕神社の敷地から移植したものもあります」。

ケヤキ東アプローチから広場への入口付近に立つ、一段と背の高いケヤキ。愛宕山の御神木が緑地を守っているようにも見える

「左側の石積み擁壁をよく見てください。安全対策の保護ネットを張っていますが、すぐ向こう側にそびえる愛宕山から下りてきた緑が壁のネットの部分に絡まり、自然に広がっているのです」。
 設計して植えたものではなく、自然に根付いて増えているというから驚きだ。
人の手による『つながる緑』に、自然の力でつながった緑が加わり、今後どのように変化するのか注目したい。

(左)擁壁のネットに育つ緑、(右)東西アプローチ(左)よく見ると、擁壁のネットに小さな緑が育っている。いずれ『緑の壁』になるかもしれない。上の坂道は車でも上ることができる、愛宕神社への参道だ(右)東西アプローチは散歩で利用する人も多い

「広場を抜けて西側のアプローチを見てみましょう。ここは『木立の中を歩く』イメージで、樹木をジグザグに植えることによって、視界に入る緑の量が多くなるよう工夫されています。緑が重なるよう、配置にはものすごくこだわりました」。
 西アプローチに入るとすぐ左手には店舗などの建物が見え、景色がガラッと変わる。西出口に近づくと、日本料理店の趣ある外装が、古都の小道を歩いているような気分になった。

樹木がジグザグに植えられた西側アプローチジグザグに植えた樹木は程よく日陰ができ、暑い日は直射日光から守ってくれる

デッキ階に上がり、森タワー側からレジデンシャルタワーへ続くブリッジの上で中右氏は、
「ブリッジも緑がものすごく増えましたね。私たちはグリーンネットワークを図面上で表すときに緑色の線を引くのですが、ここに来ると緑が本当につながっていると実感できます」。
愛宕神社へ続くブリッジでは、鳥居をくぐる際に深々と頭を下げる高校生の姿が見られ、地域の人に活用されている様子を垣間見ることができた。

(左)ブリッジの緑、(右)愛宕神社への参道に続くブリッジ(左)「この緑はアジサイですね。この後の季節、憂鬱な気持ちを晴らしてくれるような花を楽しめますよ」と中右氏が語るブリッジのグリーンの中には小さな花の姿も(右)愛宕神社への参道へと続くブリッジは、鳥居を撮影する海外の方も多い

取材日のほか、桜の時期、ツツジ咲く日、アジサイが咲き始めた頃と、数回この地を訪れて感じたのは、植物の成長の早さと多様性、季節の植物の変化を眺める楽しさだ。
この緑地で移り変わる植物を見て、日常忘れがちな季節の変化を感じるのも良いだろう。

基本情報

名称 虎ノ門ヒルズレジデンシャルタワーの緑
所在地 港区愛宕1丁目1 他
問合せ 03-6406-6192(虎ノ門ヒルズインフォメーション)
アクセス 日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」、銀座線「虎ノ門駅」
公式サイト https://www.toranomonhills.com/about/index.html

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