季節の移り変わりが感じられる里山のような緑に囲まれる中央広場と、多様な緑の桜麻通り。
人々が集い、つながり、活用される広場で、人と緑が未来をつむぐ。

誰もが豊かに暮らせる環境をめざした「ヒルズの未来形」として、2023年11月に開業した麻布台ヒルズは、2025年11月のレジデンスの完成によりプロジェクトが完結、六本木一丁目駅とも地下でつながり、アクセスもより便利になった。
「緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街」 - Modern Urban Village -をコンセプトに、「Green」と「Wellness」を二つの柱とし、緑に囲まれ、自然と調和した環境の中で多様な人々が集うよう開発された街は、約6,000㎡の中央広場を含む約24,000㎡の緑地が広がり、この秋レジデンスの緑もつながったことで、都会の中にいるとは思えない豊かな緑を形成している。
朝の中央広場の風景。広場の中心付近に立つと、緑に囲まれるような感覚を味わえる「麻布台ヒルズはヒルズの未来形として、人の営みと深く関わるような街を目指して計画が進められましたが、その象徴となるのがこの約6,000㎡ある中央広場です。住宅やオフィス、店舗やホテルなどがあり、いろいろな用途で集まる人々をつなぐ場として、この広場を中心としていきたいという想いが、このプロジェクトの出発点でした。街の中心となるこの広場からシームレスなランドスケープを計画し、3棟のタワーを配置しています」。
と語るのは、森ビル株式会社 麻布台ヒルズ運営推進室 運営部の清水一史氏。
清水氏は、森ビル虎ノ門ヒルズビジネスタワーの西桜公園や駅へ通じる地下通路などの設計に携わった後、現職にて麻布台ヒルズの外構空間の設計を担当。植物の選定やどのような屋外空間にするのか計画し、現場の施工者と一緒に作り上げてきた。
今回のプロジェクトでも、自身の担当するエリアの樹木の選定のために、実際に関東圏の圃場まで足を運び、500本ほど自身の目で確かめ選定したという。
緑地計画についていきいきと語る清水氏は「(緑の)一つひとつの個性を知るのが楽しいですし、しっかりと選別し環境を作った上で植え込むことは、緑地計画を作った以上、責任があることと考えています」と語った一見、ありふれた緑地に見えるかもしれない中央広場を中心とした、麻布台ヒルズ敷地に広がる緑には、多くの工夫が施され、実に多くのみどころがある。今回は清水氏の案内で、麻布台ヒルズの緑地をひも解いていこう。
「この広場は街の記憶を受け継ぐ場所でもあります。ここはもともと地名に『谷』の文字がつく18メートルの高低差があるような街で、それを継承するように、広場はゆるやかなすり鉢状の傾斜がかかっています。この場所からでは分かりにくいかもしれませんが、広場の真ん中辺りに立つと斜面地が両側からおりて緑に囲まれるような感覚を味わえるのもここの見どころの一つです。また、地形だけではなく、この地にもともと生育していた在来種、いわゆる雑木と呼ばれていたような、モミジやイヌシデなどを中心に植えています」。
Artificial Rock. No.109(2015)中央広場を彩るパブリックアートの一つ、中国を代表する彫刻家 ジャン・ワンが手がけた銀色の彫刻《Artificial Rock. No.109》の左側にシンボルツリーのケヤキが見える「広場のメインとなる樹木として、3本のケヤキを植えています。ケヤキをシンボルツリーとした理由は、道(桜麻通り)を挟んで向かいにあるアークヒルズ仙石山森ビルの『けやき広場』では、その名の通り大きなケヤキが植えてあるので、双方の緑がつながるようなイメージでセレクトしました」。
都市部の緑地では、冬でも緑を保ち、落葉等のメンテナンスの手間が少ない常緑樹を植えるケースもあるが、麻布台ヒルズの中央広場では全体の95パーセント以上落葉樹を採用しているという。
「常緑樹を用いれば一年中緑の風景を保つこともできますが、落葉樹を採用することで、春の新緑から夏の深い緑、秋には葉が色づき、冬には落葉し木立の風景も美しいという、四季を感じられる里山のような風景を実現しています。また、高木だけではなく足元周りも、季節の移り変わりが感じられるようなものを積極的に取り入れています」。
夕方には、近隣の子どもたちが広場で楽しそうに遊ぶ姿が見られたいわゆる都市緑地の中では、立ち入りを規制したいなどの理由で常緑の低木を植えることが多いが、ここではかつてこの地域で見られた、季節の移り変わりを感じられる植物が積極的に取り入れられている。どこか懐かしい『入れる、活用できる緑』には、未来への期待と豊かな可能性が感じられるのだ。
取材日には、深まる秋にぴったりなイベント「やきいも広場」の看板が掲示されており、中央広場が活用されている様子が伺われた「ここの緑地に人が集まり、いろいろな活動が展開し続けてほしいという願いを込めて、開発もイベントも計画しています。この場所で目指すことは、大きく二つ。まず一つは子どもたちの原風景になるような場所でありたい。都市で暮らす子どもにも、自然の風景は必要ですので、子どもたちにどのような場が提供できるのか、考えていきたいです。二つ目は子どもたちだけではなく、ここに暮らす人々が、地球環境に対してどのような眼差しを持つことができるのかなど、未来を考えるきっかけになるような街でありたいです。都市開発は建物が完成して終わりではありません。そこに住む人や過ごす人が街をつくり上げていく、スタートとなるのです」。
豊かな未来に必要なものとして、美術館などと相談しながら緑地にもパブリックアートを設置した。
「あちらに見える奈良美智氏のパブリックアート《東京の森の子》は、背景にイロハモミジを植え、この街の妖精さんのような子が森の中から這い出てきたというストーリーで、木の高さを調整するなど、デザインしました」。
奈良美智《東京の森の子》(2023) 撮影:森本美絵中央広場のシンボルともいえる、《東京の森の子》。青森県立美術館などに設置されている「森の子」シリーズの8体目となる本作品は、シリーズ過去最大のサイズとなる。また、奈良美智の野外彫刻が都内に常設されるのは、本作が初となる《東京の森の子》が見守る広場では、平日でも多くの親子連れがピクニックしながら深まりゆく秋を楽しむ姿や、ワーカーがリフレッシュに利用する姿が、あちらこちらで見られた。
ところどころ茶色い部分が目立ってきている芝生を見ると、これからの季節は特に芝の育成や保全は大変ではないだろうか。
「芝生も生きているものなので、どうしても休ませる期間が必要です。そこで、バランスをみながら広場を開放する部分と、閉じて養生する部分に分け、いつ来てもどこか開いているよう調整しています」。
石器時代の最後の夜(2017/2023)(左)解放されている部分の広場の様子(右)撮影時、養生中区域の広場の様子。右端のパブリックアートは、彫刻家・曽根裕が手がけた《石器時代の最後の夜》。こちら側が解放されている時にぜひ近くで観てほしい中央広場を歩いていると、どこからか小川のせせらぎを思わせるような音が聞こえてくる。
「この小川も見どころの一つで、水の流れを楽しんでいただけます。今はキク科のノコンギクがきれいに咲いていますね。人が心地よいのももちろんですが、生き物にとっても住みかになることをめざしています」。
小川のほとりのほか、広場では小さな花やススキ、チカラシバなど、野山を思わせる植物が至るところで見ることができるこの小川では、ヤゴが育ち、飛び立つ姿も目撃されたという。麻布台ヒルズが着工して2年あまりとなるが、豊かな生態系が成り立ちつつあるようだ。
「小川の近くにはクルミの木も植えられています。クルミももともと日本の在来の植物で、川沿いなど水の多いところを好む植物です。この時期にクルミがとれて、クリスマス時期にくるみ割りをするというイメージです」。
中央広場の入口付近に見える小高い丘が果樹園だ。ハロウィン時期の取材であったため、たくさんのかぼちゃがディスプレイされていた広場の中に果樹園があることも、麻布台ヒルズの大きな特徴だ。普段は非公開だが、特別な機会に開放されることもある。
「もとは、低層部をデザインしたイギリスのトーマス・ヘザウィック氏が率いるヘザウィック・スタジオから、『街中に果樹を点在させてはどうか』という提案を受けたのですが、果樹が落ちてお客様に迷惑をかけてしまうことなどないように、一つのエリアにまとめて果実園としました」。
ミカンやレモンの柑橘類や、林檎、柿、あんずやスモモなどが植えられているほか、足元にはハーブ類が育っている。また、果樹園の一角に小さな菜園もあり、地域の保育園の園児たちが参加する、植え付けや収穫などの体験に一役買っている。
取材した時期には、かんきつ類が大ぶりの実をつけていた日光が降り注ぎ、立地に恵まれたこの果樹園が、麻布台ヒルズマーケットが入る建物の上にあると聞くと驚くが、屋根の傾斜をいかした段々畑は日当たりや水はけの良さが抜群で、果実が育つには最適な環境となっている。足元からはローズマリーやミントなどのハーブが香り、見上げるとビルと空の合間に果実が見える。
(左)果樹園を下から見上げた風景。果実の種類で季節を感じるのも楽しい(右)屋根の上に果樹園がある麻布台ヒルズマーケットが入る建物を横から見たところ。竣工当初の写真と見比べると、果実をはじめとした植物がかなり育っている「つい先日には、まちの保育園の園児たちが参加した、『お芋ほり&焼き芋体験会』のイベントを開催しました。植え付けや収穫など、年に4回開催している保育園の方とのイベントを通し、この街の緑を背景に一般の方に向けた子供向けのイベントを行いたいという想いから、『FAMILY GREEN アトリエ』というイベントへと発展しています」。
日本の伝統的な暦の考え方『二十四節気』からインスピレーションを得て、色や企画など季節ごとのテーマを決めて開催する、『FAMILY GREEN アトリエ』は、回を重ねるごとに参加者も増え、麻布台ヒルズで人気のイベントとして定着してきた。
「このイベントで個人的に良いと思っている点は、事前申込不要で参加人数を絞らず、いつ来てもどなたでも楽しめるということです。皆さまのタイミングで参加いただけ、自由に楽しんでいただく。『自由にと言われても、どう遊べばいいの…』と、最初のうちは戸惑う方もいらっしゃいましたが、次第に皆さんの自然を見る目というものが少しずつ養われてきているように感じるので、意義を感じます」。
果樹園から桜麻通り側に出たところで、「神谷町駅まで続く、この通り沿いにも多くの見どころがあります」と清水氏。ではここで一度、神谷町駅側から中央広場へ向かう形で、桜麻通りと麻布台ヒルズ低層階エリアの緑を見てみよう。
地下鉄の出口から上がってすぐ、桜田通りにつながる辺りの桜麻通り。実際に下から見るとかなり傾斜があり、かつての地形をうかがい知ることができる桜田通り(国道1号)を背に、桜麻通りの入口から見上げると道を挟んで右側に麻布台ヒルズガーデンプラザA、左側にガーデンプラザBが見える。
ガーデンプラザなどの低層部は、先の話でも登場したイギリス人のデザイナー、トーマス・ヘザウィック氏が率いるヘザウィック・スタジオが手がけた。波打つように立体的なデザインは、かつてここが高低差のある谷地であった土地の記憶を表現しており、その屋根の上を中心とした至るところに緑があふれている。
(左)ガーデンプラザAの2Fへと続く階段。ここからカフェやギャラリーへ行くこともできる(右)階段の両脇や踊り場なども緑にあふれ、まるで立体的な庭園の中を上るような気持ちになるガーデンプラザAは階段から上ることができる。上から向かいのガーデンプラザBの屋根の上を眺めると、屋上など至るところに緑があり、ところどころ高い木が植えられているのもわかるだろう。
ガーデンプラザAからB側をのぞむ風景。屋上には、かつてこの地に生えていたチガヤも植えられており、隣接する西久保八幡神社の「夏越の大祓」で使われる茅の輪にも活用されている清水氏はこの低層部の緑の設計や選別にも携わった。
「ヘザウィック・スタジオから提案されるものの中には、日本の環境になじまない種類の植物もありました。そこでヘザウィックスタジオのデザインを日本の植生に落とし込み、在来の植物をベースに選んで上手くはまるようレイアウトしていきましたが、文化背景の違いがあるため、調整には根気が必要でした。現場が動き始めた後は、40万株ほどという膨大な数の植物を扱うのですが、職人の方によって個性があるので、何平米あたりいくつ植えて、高さなども一つひとつ指定しながら進めました。また、計画段階から時間が経つと『植物の在庫が足りません』など、予定外のことも多々ありまして。私自身も日々現場で共に汗を流して配置を調整していました」。
40万株の植物とは、さぞかし根気のいる作業であったとうかがえる。竣工後3年ほどたち、今では屋上の植物も思い思いに枝を伸ばしているという。今の時期はチガヤなども刈り取られているが、緑あふれる時期にぜひ、低層部の屋上の緑も見上げてほしい。
多彩な緑が楽しめる桜麻通り。天気の良い日はぜひ歩いて季節の移り変わりを楽しんでみよう続いて地上に降りて、ガーデンプラザB側の歩道を歩いてみよう。
この通りは、さまざまな樹種をみることができる。通常の街路樹は管理しやすいよう、ケヤキや桜など、1〜2種類の並木とし、足元も単一の品種を植えることが多いそうだが、桜麻通りでは32種類の樹木が植えられている。
「自然の風景の中では、1種類の木だけがドンと並ぶことは稀ですよね。ここに本当に野山があって、下から上ってきた時に見える風景はどのようなものだろうと考え、在来の樹木を中心に32種を選んで植えています。そのため、季節によって葉の違いや、紅葉の時期は黄色や赤、常緑種は緑のままなど、多彩さを楽しんでいただけます。また、桜はソメイヨシノだけではなく、5種類の桜をエリアごとに植えています。先ほど通ったガーデンプラザAのあたりでは一番早く咲く河津桜を、上がってきて中央広場の入口ではソメイヨシノ、広場周辺では数種の桜が楽しめ、一番上のエリアでは八重桜が一番遅く咲きます。これは山里ではふもとの桜が一番早く咲き、山の上の方に行くにしたがって開花が遅くなるというイメージです」。
(左)谷地という土地の歴史にヒントを得て、水が集まり広場へ流れていくイメージの小川が作られている(右)ヘザウィックスタジオがデザインし、匠の技で仕上げられたベンチと聞けば、座らずにはいられない樹木の足元に植えられている緑も、バラエティに富んでいて見飽きない。取材した時期は緑のみだが、季節によっては美しい花が咲く様子も楽しめるそうだ。また、ここにも足元に心地よい水音を聴く事ができる。
「足元の植物は同じ品種を2〜3uのかたまりとし、それをパッチワーク状に植えることで、単調な景色になるのを防ぎつつ、メンテナンスのしやすさも保つことができています。また、この通りや広場にもある、この白いオブジェは、『ぺブル・ベンチ』と名付けられた、ヘザウィックスタジオがデザインしたベンチです。石がころころ転がっているようなイメージですが、手触りと表面の細かさにこだわっており、96歳の職人が手作業で磨いて仕上げたものです」。
(左)晩秋の時期のガーデンプラザAからの眺め(右)中央広場入口付近の街路樹。クリスマスマーケットが始まる時期は特に美しいので、ぜひ見てほしい取材日の後、クリスマスの足音が聞こえてくる時期に訪れた桜麻通りでは、清水氏の話にあった通り、美しく紅葉した樹と常緑樹とのコントラストを楽しむことができた。地下鉄の駅から屋内を歩いて広場などへアクセスできるので、この通りを利用したことのない人も多いかもしれないが、気候の良い日などはぜひ桜麻通りの散歩も楽しんでみたい。
中央広場がクリスマス一色になる「麻布台ヒルズ クリスマスマーケット」は、早くも冬の風物詩となっている麻布台ヒルズが竣工して3回目となるクリスマスシーズンには、中央広場は「麻布台ヒルズ クリスマスマーケット」の会場として活用され、仕事帰りのワーカーや家族連れで連日にぎわっている。
広場の樹木を剪定した枝を使ったリースや、広場の緑を一部取り入れたブーケも販売されるなど、『入ることのできる、皆で使うことのできる緑』の活用が進み、定着している様子が見て取れる。
麻布台ヒルズの豊かな緑は、国土交通省が令和6年度に創設した「優良緑地確保計画認定制度(TSUNAG)」の第1号認定において、最高ランクの「★★★(トリプルスター)」を取得した。
これは、開かれた緑や果樹園などの活動などが、高く評価されての認定とのことだ。
「これまでの緑地評価は、緑化面積などが評価の対象であり、『人にどのように活用されているか』が評価の対象となることは稀でした。そこで今後私たちにできることとして、まちの保育園との取り組みが『FAMILY GREEN アトリエ』というイベントに発展したような活動を、これからも増やしていきたい。この街の緑を我々の資源として、麻布台ヒルズに入る多彩なテナントさまと一緒に活用し、未来のために何ができるのかを考えていきたいです」。
| 名称 | 麻布台ヒルズ |
|---|---|
| 所在地 | 港区麻布台1丁目3他 |
| 問合せ | 03-6433-8100(麻布台ヒルズ 総合インフォメーション) |
| アクセス | 日比谷線「神谷町駅」、南北線「六本木一丁目駅」直結 |
| 公式サイト | https://www.azabudai-hills.com/about/index.html |
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