嗤う伊右衛門

古式ゆかしい日本のエロスここにあり!
原作・京極夏彦、監督・蜷川幸雄により
あのお岩さんの物語が濃厚で熱い恋愛ドラマに!

  • 2003/12/29
  • イベント
  • シネマ
嗤う伊右衛門

ままならぬ現世うつしよことわり……? 演出家・蜷川幸雄が監督を手がけた映画作品第2弾。原作はミステリーや怪奇もので人気の・京極夏彦が、四谷怪談の“お岩さん”をモチーフに脚色して書き下ろし、第25回泉鏡花文学賞を受賞した同名の小説。主役の唐沢寿明や小雪をはじめ、キレイな俳優たちが人間のもつ生々しい情念や怒りや苦しみ、愛を熱く表現。女が、そして男が、それぞれに愛する者へ捧げた情念や純情をこってりと描いた恋愛ドラマである。

嗤う伊右衛門

ときは江戸。町で評判の美女であった民谷岩は悪い病を患った後、顔の右半分が醜く崩れてしまっていた。民谷家の存続と娘の幸せを願う岩の父は、金はなくとも実直な浪人の伊右衛門を婿に迎える。夫婦となった2人は次第に深く思い合うようになるが、以前の岩に執着していた悪徳与力の喜兵衛にそそのかされ、岩は伊右衛門の幸せを願いつつ彼に離別を申し入れて家を出る。その後、伊右衛門は後妻として喜兵衛の愛人を娶らされ……。

互いに深く思い合いながら、それが裏目にでてしまったり奸計にハメられてしまったり。自己犠牲ばかりがすばらしいとは思わないが、胸に秘めた情熱やそれがほとばしる瞬間の爆発的なエネルギーの鮮やかなコントラストは、古式ゆかしい時代が背景だからこその説得力だ。

嗤う伊右衛門

演技力に定評のある唐沢寿明、香川照之、椎名桔平に、ドラマに映画に活躍中の小雪が輝いていたのは言わずもがな。驚いたのは、モデル出身のハンサム俳優・池内博之が浮かずにしっかりとハマっていたこと。長い台詞まわしも、こっけいになりがちな狂気的シーンでも、よく魅せてくれた。それもそのはず、蜷川氏は撮影中に彼にみっちりと演技を指導し、それに応えて池内も成長。撮影が終わる頃には「俺の演出よりいいよ、コンチキショー!」と蜷川氏を唸らせたこともあったそうだ。高度な要求に応えて成長をとげた池内もすごいが、役者の能力を引き出して育て上げ、自らの追求する世界を完成させる力量はさすが演出家ニナガワである。

唐沢、小雪、椎名、池内らのキレイな俳優たちが、情念にとりつかれて千々に乱れ、くずれてゆく様はなんとも色っぽい。日本古来のエロス、とでもいおうか。そしてその大もとにあるのは、狂気と正気、現世とあの世とのはざま、残虐さと表裏一体のところにある純愛。どこまでも透明で澄みきっているからこそ、周りを巻き込み、自らを滅ぼしてしまうほどの……。感覚も映像も現代とはちがう、異世界にひゅっと取り込まれたかのような気分になる作品である。

作品データ

嗤う伊右衛門
公開 2004年2月7日公開
ヴァージンシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2003年 日本
上映時間 2:07
配給 東宝
監督 蜷川幸雄
原作 京極夏彦
脚本 筒井ともみ
音楽 宇崎竜童
出演 唐沢寿明
小雪
香川照之
池内博之
椎名桔平
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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