イン ザ カット

ジェーン・カンピオン監督が綴る官能サスペンス
ラブコメの女王メグ・ライアンが
新境地開拓を賭した意欲作の評価やいかに

  • 2004/03/29
  • イベント
  • シネマ
イン ザ カット

「私の女優人生を吹き飛ばす爆弾のような存在」と、主演女優メグ・ライアンに語らしめた話題作。'93年に映画『ピアノ・レッスン』にて、アカデミー賞3部門を受賞したジェーン・カンピオンが監督・脚本を手がけた、官能サイコ・スリラーである。「ケ・セラ・セラ」の甘くけだるい旋律にのせて、意味深なシーンやセクシャルな台詞を編集した予告映像は思わせぶり。さて、本編はというと……?

「私の女優人生を吹き飛ばす爆弾のような存在」と、主演女優メグ・ライアンに語らしめた話題作。'93年に映画『ピアノ・レッスン』にて、アカデミー賞3部門を受賞したジェーン・カンピオンが監督・脚本を手がけた、官能サイコ・スリラーである。「ケ・セラ・セラ」の甘くけだるい旋律にのせて、意味深なシーンやセクシャルな台詞を編集した予告映像は思わせぶり。さて、本編はというと……?

イン ザ カット

花も、言葉も、映像も、女優も、すべて妖艶。浸れる要素がこれでもか、と盛り込まれている。それなりに酔える、淫靡なムードに満ちた作品だ。でも個人的には映像も物語も、どこかで見たことのある、妖しく美しいものたちのコラージュのように思えた。迫りくるものがないのだ。カンピオンの'99年の作品『ホーリー・スモーク』でも、コンセプトとして“女の性(さが)”を据えているような、味気ない感覚を受けた。

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ラブコメの女王として君臨したライアンは現在42歳。新境地を目指して本作に挑み、艶かしいベッドシーンで胸を露出したことが話題となったが、こちらもいまひとつ消化不良。「キレイでステキな女優の私」という垢抜けた雰囲気が垣間見えて、フラニーではなくメグ・ライアンそのものが見えることに、どこか白けてしまうのだ。ちなみに本作はもともと、カンピオンがニコール・キッドマンのイメージで脚本を書き上げた作品。しかしライアンが脚本に惚れ込んで強力にアプローチしたため、キッドマンは主演を彼女に譲って製作に回った、という背景がある。

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物語でも演技でも、本気で突き詰めた上で自然とにじみでてくる持ち味やテイストには、心を打つ何かが必ずある。観る側に想像力を膨らませ、共感や反発を引き出し、感情の振幅を押し広げる。しんと静まる湖面に雫が落ちて、ゆっくりと波紋が広がっていくかのように、身体の芯から繊細に震わせてくれる。たとえばカンピオンの'93年の作品『ピアノ・レッスン』は、そんな素晴らしい映画だった。人々の業、女の性、宿命に支配されずに自分の意志で命の道を選択することが、かの有名なマイケル・ナイマンのピアノ曲と相まって、観る者の心を響かせていた。

カンピオンにはぜひ、ライアンもいずれは、固まったパターンから解き放たれて、新たな感動を届けてほしい。一観客として、待ちわびている。

作品データ

イン ザ カット
公開 2004年4月3日公開
丸の内ピカデリー2ほか松竹・東急系にて全国ロードショー
制作年/制作国 2004年 アメリカ
上映時間 1:59
配給 ギャガ・ヒューマックス共同
監督 ジェーン・カンピオン
製作総指揮 ローリー・パーカー
ニコール・キッドマン
出演 メグ・ライアン
マーク・ラファロ
ケヴィン・ベーコン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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