世界の中心で、愛をさけぶ

かの純愛ベストセラーを行定勲監督が映画化
原作にない新たな設定を先導役に、
青少年から青年へ、心の行き先を前向きに描く

  • 2004/05/03
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世界の中心で、愛をさけぶ

'01年の発行から3年かけて、遂に発行部数200万部を突破した、片山恭一のベストセラー小説『世界の中心で、愛をさけぶ』。全国書店売り上げランキング第1位(2004年4月20日調べ)、国内作家の小説本として200万部を超えたのは、小松左京『日本沈没(上)』、村上春樹『ノルウェイの森』に次ぐ3作目、という。人によっては、気恥ずかしさを感じさせるような青春純愛ストーリーのため、賛否が分かれているこの物語。その話題作を、行定勲監督が映画化した。出演は、大沢たかお、柴咲コウ、山崎努、そして若手の長澤まさみ、森山未來。どのようなテイストに、仕上がっているのだろうか。

結婚を目前に控えた朔太郎と律子。引越しの準備をしている最中、律子は書置きを残して、姿を消す。その夜、律子が2人の故郷である高松にいることを知り、朔太郎も彼女を追って帰郷。引き寄せられるように実家に立ち寄った彼は、いつのまにか律子より、白血病で死んだ10年前の彼女・亜紀との思い出を追うことになる。

世界の中心で、愛をさけぶ

画面いっぱいに広がる海や空、誰もが心に描くような“日本の田舎”のノスタルジックな風景。そして、プラトニックのまま、全身でお互いにのめりこんで行く17歳の少年少女。強烈に心を打つ感動はなくとも、最後に前向きな感覚がほのかに残るような、そんな感じだった。ただ、このキャスト+行定監督の本作に期待していたため、少々肩透かしされた感もあった。原作のイメージが強力にあることが、少し抑制となってしまったのだろうか。

小説と映画ではポイントとなる設定を一部変えてあり、全編に流れるトーンが異なっている。なかでも大きく違う点は、映画には冒頭から、婚約者・律子が登場すること。彼女が朔太郎の過去に関わっていることにより、「何があっても未来は続いていく」という、静かで前向きな感覚が、心地よく伝わってきた。個人的に、小説には、青春の刹那や時間によって美化されていく何かがあり、映画には、少年少女の生々しいパワーと、青年の淡々とした逞しさ、双方があるように思えた。

世界の中心で、愛をさけぶ

主人公・朔太郎と同じく、'80年代に青春を過ごした35歳の行定監督。佐野元春「SOMEDAY」や渡辺美里の「きみに会えて」ほか当時のヒットナンバーや、その頃に流行した小物など、懐かしの'80年代カルチャーが楽しめる点も注目だ。

そして最後のトドメは、エンディングに流れる、本作のために平井堅が書き下ろしたという彼の新曲「瞳を閉じて」。しっとり系のメロディに「これはずるい」と思いながらも、気持ちよくなってくる。大きな共感や感動を求めるより、さりげない強さや爽やかさを感じたい時に、おすすめしたい映画である。

作品データ

世界の中心で、愛をさけぶ
公開 2004年5月8日公開
全国東宝邦画系にてロードショー
制作年/制作国 2004年 日本
上映時間 2:18
配給 東宝
監督 行定勲
脚本 坂元裕二、伊藤ちひろ、行定勲
原作 片山恭一
出演 大沢たかお
柴咲コウ
長澤まさみ
森山未來
山崎努
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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