阿修羅城の瞳

恋をすると鬼になる非凡な宿命を背負った女と
彼女に惚れた鬼殺しの男との数奇な運命
市川染五郎の歌舞伎スキルが映える恋愛活劇

  • 2005/04/01
  • イベント
  • シネマ
阿修羅城の瞳

恋をすると鬼になる――。女なら誰しも身体の奥底に秘めているであろう、身を焦がす情念ゆえなのか。男と女のほとばしる熱情と永遠に埋められない深淵とをエンターテインメントとして見事に戯曲化した、劇団☆新感線による人気作の映画化である。監督は『陰陽師』シリーズのヒットで知られる滝田洋二郎、主演は市川染五郎と宮沢りえ。充実のメンバーが放つ、恋愛をモチーフにしたSFX活劇である。

人の姿に身をやつした人喰い鬼が横行する江戸の町。其処此処に潜伏する無数の鬼を見抜き、容赦なく斬り捨てる“鬼殺し”たちは、今夜も次々と鬼を成敗していた。ある事件をきっかけに、辣腕の鬼殺しから舞台役者へと転身した出門(いずも・市川染五郎)は美しい女盗賊のつばき(宮沢りえ)と出会い、一目惚れする。

阿修羅城の瞳

市川染五郎の歌舞伎で培われた技量がぎらぎらと光る独擅場。舞台としては1987年の劇団☆新感線による初演後、2000年に新感線と松竹のコラボ作品『Inouekabuki Shouchiku‐mix』版として復活し、染五郎主演で新橋演舞場にて上演。2003年の再演でも大成功を収めた。染五郎が新境地を開拓した作品として知られ、舞台に引き続き映画でも主演をつとめただけのことはある。それまでの俳優・染五郎は育ちがいいせいか与えられる役柄のせいか、キレイにまとまりすぎてインパクトに欠くようにも思えたが、出門を演じる姿にはすっかり参ってしまった。劇中劇で歌舞伎を披露するにしても、江戸っ子らしいべらんめえ口調で話すにしても、着物をたくしあげて走るにしても、刀で闘うにしても、所作のすべてが堂に入っている。それはもう清々しいくらい。これくらい勢いとご時世を確実に表現できる役者を中心に据えると、半ばSFタッチの娯楽時代劇にも本物感がにじみ出てくるものだな、と強く感じ入った。映画としては『陰陽師』シリーズにて、狂言師・野村萬斎がその力量を余すことなく発揮していたことと同等の成功といえるだろう。

国指定の重要文化財である香川県琴平町の旧金毘羅大芝居(金丸座)にて、ロケを行った本作。天保6年(1835年)に建てられた現存する最古の歌舞伎劇場は、江戸一番の芝居小屋・中村座として登場する。そこで千両役者の出門こと染五郎が『天竺徳兵衛』を演じるシーンも見物のひとつだ。

ハードロックをガンガン鳴らし、歌舞伎の様式美を取り入れる“いのうえ歌舞伎”とよばれる新感線独自の斬新なエッセンスは映画でも踏襲。宮沢りえはしっとりとした色気とあやうさ、負けん気の強さが憎めないつばき役を好演し、内藤剛志、渡部篤郎、樋口可南子など脇を固めるキャストもどこか色っぽさのある豪華な面々。大満足の配役だが、できることなら新感線の看板役者にしてTVや映画でも個性派として活躍する古田新太の姿も観たかったな、とほんの少しだけ思った。

阿修羅城の瞳

それにしても、舞台の活劇の面白さを映画で表現するのは難しい。なにしろ舞台の場合、人の目が捉える広い視界とライヴならではの臨場感で、想像力を最大限にかきたてることができる。しかし映画では、そのスケール感をスクリーンという限られたスペースと二次元の映像で表現しなければならない。今回の映像はCGとミニチュアを組み合わせて熱心に作りこまれたとのことだが、変身ヒーローものの特撮を思い出して脱力してしまうシーンも多々あった。また、すぐにでも海外に配給できるよう、全編に英語字幕付き。字幕を読む習慣がある場合、目にちらつくのが少しうっとうしく思えるかも。しかし本作には、そうした部分に目をつぶるくらいの価値はある。

物語の顛末そのものはシンプルだが、意味深で猥雑な台詞の応酬や、設定や状況に暗喩が見え隠れする舞台作品らしさが強烈にそそる本作。普遍的な男女間のジレンマや諍い、それでも否応なしに惹かれあってしまう様が劇的に退廃的に、そして耽美的に描かれている。たとえアクションシーンが7割であっても、やはり本作は徹底的に恋愛もの! なのである。

作品データ

阿修羅城の瞳
公開 2005年4月16日公開
丸の内ピカデリー2ほか全国松竹系ロードショー
制作年/制作国 2005年 日本
上映時間 1:59
配給 松竹
監督 滝田洋二郎
企画・プロデュース 宮島秀司
原作 中島かずき(劇団☆新感線)
脚本 戸田山雅司、川口晴
出演 市川染五郎
宮沢りえ
樋口可南子
小日向文世
内藤剛志
渡部篤郎
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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