ロード・オブ・ウォー

不況知らずの武器ビジネスのからくりとは?
武器の供給を断ち切れないシビアな現実など
誰も描かなかった社会の裏側をシニカルに暴く

  • 2005/11/18
  • イベント
  • シネマ
ロード・オブ・ウォー

ニコラス・ケイジ主演、イーサン・ホーク、ジャレッド・レト共演。製作・監督・脚本は、97年『ガタカ』の監督・脚本を手がけてデビューしたアンドリュー・ニコル。ハリウッド作でありながらアメリカの資本が一切入らず、配給は『華氏911』を配給したカナダのライオンズ・ゲートという本作。世界を股に掛け、裏社会で暗躍する武器商人のビジネスをテーマに、冷戦終結から民族紛争へとシフトした現代社会の問題の裏側を描く。ハリウッドらしい派手な銃撃や爆発シーンが多々ある、エンタメ系社会派ドラマである。

1980年代にソビエト連邦のウクライナから一家でアメリカに移住してきたユーリー。両親や弟とともにさえない暮らしを送っていたある日、武器商人として金儲けをしようと決意。“悪事はいやだ”と反対する弟を巻き込み、武器ビジネスを開始する。最初は大物から門前払いをくったりしたものの、だんだん仕事は軌道に乗り、規模が拡大。インターポールの刑事バレンタインからマークされることになる。

ロード・オブ・ウォー

「私は殺し屋じゃない。人を撃ったこともない。戦争で稼いではいるが、人が死なずに済めばと願っている」。見事な詭弁。その身勝手さには呆れるばかりだが、聞き手を一瞬「そうか」と思わせてしまう妙な勢いと説得力が怖い。主人公のユーリーは、実在する5人の有名な武器商人の要素をかけあわせたキャラクターとのこと。特に30代後半でありながら、武器密輸の世界で最大のプレイヤーのひとりといわれるロシア人武器ディーラー、ビクトル・バットの経歴を参考にしたらしい。実際の“ビクトルB”は、中東やアフリカの独裁者たちを相手に荒稼ぎし、国連の武器禁輸制裁破りの名手として有名なのだとか。

ロード・オブ・ウォー

ユーリーは許し難い“死の商人”だが、映画で見る限りは不思議と憎みきれない。自分がどういう連中と商売をしているのかよく理解していて、妻が去ることを恐れている。物語は彼のモノローグによって進み、独特の思考が伝えられる。国家間の軋轢、政府と軍の諍い、民族間の対立……世界の不安定な社会情勢のすべては、彼にとって金の源。TVのニュースで有利な展開が見えたときなど、自分の好きなスポーツチームが勝ったレベルの無邪気な喜びようだ。こうした特殊な人物像に、どんな役でも演じ分けるニコラス・ケイジが大きな説得力を与えている。一本気ゆえユーリーに敵わない刑事を演じたホークとのバランスもなかなかだ。また、全体的に一歩引いたシニカルな見せ方がとても巧い。銃を乱射する顧客の姿をユーリーが眺めるシーンでは、銃声に会計レジの“チーン”という金勘定の音を重ね、人気のロシア産自動小銃AK47カラシニコフに思いをはせるときは、ロシアの名曲チャイコフスキーの「白鳥の湖」にのせて、宝石でも映すかのような優雅なカメラワークで見せる。こうした“彼ら”のズレた感覚の正確な描写は、製作・監督・脚本のアンドリュー・ニコルの手腕だろう。

ロード・オブ・ウォー

“国家と武器商人の関わり”を事実に基づいて赤裸々に描いたために米国で資金繰りができず、さまざまな国の投資家の助力によって製作・公開が実現した本作。自分たちに直接関わりがなくとも、どこかでつながっている荒廃した世界。その現実を私たちは知る必要があるのではないだろうか。

作品データ

ロード・オブ・ウォー
公開 2005年12月17日公開
有楽座ほか全国東宝洋画系にてロードショー
制作年/制作国 2005年 アメリカ
上映時間 2:02
配給 ギャガ・コミュニケーションズ
製作・脚本・監督 アンドリュー・ニコル
出演 ニコラス・ケイジ
イーサン・ホーク
ジャレッド・レト
ブリジット・モイナハン
イアン・ホルム
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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