リバティーン

自らの才能とカリスマ性に耽溺して夭折
17世紀に実在した詩人ジョン・ウィルモットの
スキャンダラスな生き様が感性を刺激する

  • 2006/03/17
  • イベント
  • シネマ
リバティーン© 2005 STANLEY(IOM)PRODUCTIONS LIMITED.ALL RIGHTS RESERVED.

天賦の才能と不遜な態度、男女かまわずむさぼる性的志向で17世紀を駆け抜けたスキャンダラスな詩人ジョン・ウィルモットことロチェスター伯爵。彼の波乱の半生を描いた物語である。主演は美形の性格俳優ジョニー・デップ、監督にミュージックビデオやCMの制作で活躍してきた新鋭ローレンス・ダンモア、音楽は『ピアノ・レッスン』『ガタカ』の叙情的なサウンドで知られるマイケル・ナイマン。啓蒙的な言葉や猥雑な映像が感性をちくちくと刺激する、ダークなドラマである。

1660年代のロンドン。科学技術や芸術が急速に発達し、性の解放が広まりつつある時代。ジョンは莫大な財産を継いだ妻と瀟洒な屋敷に暮らし、国王チャールズ二世に目をかけられて何不自由なく暮らしながらも、面白半分に権威に反発。性描写たっぷりに政治批判の詩を読み上げたり泥酔したりと空虚に生きる彼は、芝居小屋で新人女優エリザベス・バリーと出会う。

リバティーン

「淑女たちに警告。私はところ構わず女を抱ける。紳士諸君も嘆くことなかれ。私はそっちもいけるから気をつけろ」。やおら挑発的なモノローグで始まる本作。上品な口調で下世話な言葉を連発するジョンは、観る側に不快感と快感を同時に与える扇情的な人物だ。破滅型は身近にいたら迷惑だが、独特の理屈や信念、周囲を翻弄する身勝手ぶりはちょっとのぞいてみたくなるもの。ジョンの生き様はそうした野次馬心を大いに満たしてくれる。

この映画の一番の見どころは、登場人物たちの問答。女優、妻、娼婦、国王、友人たち……ジョンと彼を取り巻く人々との会話に、エロな行為に、下卑た野次に、真実のかけらがちりばめられている。まるで作品全体がジョンの詩そのもの。何かをインスパイアする言葉や感情が暗号のように鋭く差し込まれているところが面白い。もともと舞台の作品だったことを生かし、最初と最後をモノローグで舞台調にしているところも洗練されている。CMやPVで磨かれ、本作で映画監督デビューを果たしたローレンス・ダンモアの個性がよく生かされているようだ。

リバティーン

やはりジョニー・デップは個性的な役によく映える。下品で退廃的でずるくてだらしなくて、それでも人を惹きつけてやまないジョン役はハマりすぎ。そのためにほかの役者があまり印象に残らないものの、ジョンが惚れ込む女優エリザベスを演じるのはアカデミー賞ノミネート経験のあるサマンサ・モートン、国王役は舞台でジョンを演じ、映画化の発案者であり本作の製作に名を連ねるジョン・マルコヴィッチなど演技派が脇を固めている。

天才詩人がエゴイスティックに周囲を愛し、自らまいた災いの火種に焼かれ、どこまでも堕ちていく様。哲学的に観るもよし、ワイドショー的に観るもよし。五感を開いて、個性的な物語を味わってみるのも一興だ。

作品データ

リバティーン
公開 2006年4月8日公開
テアトルタイムズスクエア、シネセゾン渋谷ほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2005年 イギリス
上映時間 1:50
配給 メディア・スーツ
監督 ローレンス・ダンモア
脚本 スティーヴン・ジェフリーズ
音楽 マイケル・ナイマン
出演 ジョニー・デップ
サマンサ・モートン
ジョン・マルコヴィッチ
ロザムンド・パイク
トム・ホランダー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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