クワイエットルームにようこそ

松尾スズキ×内田有紀×宮藤官九郎
強制入院させられた女性を軸に人々の心模様を描く、
笑って泣ける、松尾印の冴えた人間ドラマ

  • 2007/09/07
  • イベント
  • シネマ
クワイエットルームにようこそ© 2007『クワイエットルームにようこそ』フィルムパートナーズ

ある日、フリーライターの明日香が目覚めると、見知らぬ白い部屋で5点拘束されていた。わけがわからず呆然としていると、鉄面皮のナース江口がやってきて、自殺未遂で強制入院させられたことを知る。差し入れをもって訪れた同棲相手の鉄雄からその時の状況を聞いてなんとなく思い出すも、明日香は「睡眠薬を飲みすぎただけで自殺じゃない!」と主張するが、江口は取り合わない。腑に落ちないまま、女性専用の閉鎖病棟で明日香の入院生活が始まった。

庵野秀明が演じるお気の毒な医師、平岩紙(大人計画所属)が演じるくどいほど頷く人のいいナース山岸。そこかしこに仕込まれたブラックな笑いでのっけから観客をとらえるのはさすが。なかでも放送作家をしている鉄雄役の宮藤が、明日香に状況を説明するシーンは抜きん出て面白い。このインパクトあるお笑いシーンが、後に違う意味をもってくるところが深い。監督曰く、「鉄雄は宮藤を浮かべながら(小説を)書いた」とのこと。大人計画の俳優として16年間松尾氏とともに活動してきて、実際に構成作家もしているだけあって、宮藤は鉄雄というキャラの旨味をマックスに引き出している。

クワイエットルームにようこそ

9年ぶりの長編映画主演で明日香役を自然に演じた内田、拒食症患者のミキ役で新境地に挑戦した蒼井、過食症患者の西野役で期待通りの野太い演技でみせる大竹、顔や雰囲気から冷徹なナース江口にハマっているりょう、鉄雄の子分役でおバカにハジける妻夫木、松尾監督の感性を信じて慕う出演者たちの心意気がよく伝わってくる。

クワイエットルームにようこそ

たった800字のコラムが書けずに行き詰まってオーバードーズ、恋人とのひどいケンカ、バツイチになって鉄雄と暮らすようになるまでのこと。自分をごまかし続けることはできない。そして“才能”に憧れても、ないものはナイ。自分の能力と限界をまざまざと知り、絶望から這い上がったり、諦めて自分らしくやっていこうと開き直ったりしたことがある大人になら、明日香の気持ちの流れは痛いほどわかるはず。自分に仕事に笑っちゃうほど真摯に向き合う人間たちの物悲しさや滑稽さ、そしていとおしさを、作家として監督として松尾氏が丁寧に映し出している。

クワイエットルームにようこそ

あのとき一体何が起きたのか?1シーンを鉄雄と明日香、双方の目線でとらえて明かされていく展開にはサスペンスの要素があり、登場人物それぞれの背景などから人物描写がしっかりなされているところも魅力だ。

時には温かく時にはシビアに、登場人物たちの生々しい気持ちが触れてくる人間ドラマ。人は誰でも1人で生きていて、いつでもやり直すことができる。クドカンで笑ってオチで泣いて。痛みを経て自分らしさを獲得する道行きを映す、ほろ苦い良作である。

作品データ

クワイエットルームにようこそ
公開 2007年10月公開
シネマライズほか全国ロードショー
制作年/制作国 2007年 日本
上映時間 1:58
配給 アスミック・エース
監督・脚本・原作 松尾スズキ
出演 内田有紀
宮藤官九郎
蒼井優
りょう
大竹しのぶ
妻夫木聡
平岩紙
中村優子
高橋真唯
馬渕英俚可
筒井真理子
宍戸美和公
箕輪はるか(ハリセンボン)
塚本晋也
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。