ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた

© 2007 TWENTIETH CENTURY FOX
身勝手な亭主と望まない妊娠、そして不倫。
パイ作りの天才にして薄幸のジェンナはどこへ行く
おいしそうなパイに焼き込められた女の人生劇場。



 人生最悪と思った出来事がめぐりめぐって、何もかもすべてを大きく転換する。身勝手な夫との不毛な結婚生活で望まない妊娠をしたウェイトレスの人生の行方は? 出演はTVシリーズ『フェリシティの青春』でブレイクしたケリー・ラッセル、TVシリーズ『firefly』で人気を博したネイサン・フィリオン、TV界の伝説と呼ばれるアンディ・グリフィス、監督は脚本・出演も果たしているエイドリアン・シェリー。低予算映画でありながら本国アメリカでじりじりと人気をのばし、2007年のサンダンス映画祭をはじめ各国の映画祭で賞賛を受けたユニークな話題作。パイ作りの名人ジェンナに起こった顛末をコミカルに描く、ひとりのオンナの人生劇場である。


 アメリカ南部の田舎町。ダイナーで働くジェンナは苦悩していた。常々別れたいと思っていた亭主に妊娠させられてしまったから。パイ作りの名人である彼女は思わずパイを焼く。その名も、“アールの赤ん坊なんていらないパイ”。重苦しい気持ちとは裏腹にパイの仕上がりは今日も上々。ウェイトレス仲間のベッキーとドーンはその出来に感心しながらも、ひどく自己中心的で粗忽な夫と暮らすジェンナを哀れむ。そしてジェンナが仕方なく産婦人科に行くと、いつもの女医から代わったという風変わりな男性の医師ポマターが診察する。


妊娠を夫に隠し、ヘソクリを貯めて、家出を画策し、不倫しながら、いつも通りに働く日々。日増しに大きくなるお腹に愛着を感じられず、自己嫌悪する。過渡期の女性心理がずいぶんリアルに描かれていると思ったら、これは監督・脚本を手がけ、ドーン役で出演もしているシェリーの人生観そのものとのこと。本作の脚本を妊娠8ヶ月の時に執筆したという彼女は、まさにジェンナと同じ気分だったという。自分のキャリアがこれからという時、ベビーが生まれた後の自分がまったく想像できず、不安と恐怖で頭が変になりそうだったとのこと。そうしたシビアな現実に向き合いながら、作品としてくっきりとメリハリの効いた愛らしいコメディに変換できるところは、シェリーの優れた感性の賜物だろう。
ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた
 この映画のもうひとつの主役は、色とりどりのおいしそうなパイの数々。全編で200個以上のパイを焼き、クライマックスのシーンでは50個のパイが登場。ダイナーには27種のパイがあり、“恋するチョコパイ”“マーメイド・マシュマロ・パイ”などの定番メニューのほか、“憎き亭主!パイ”、“惨めな妊娠と自己憐憫パイ”“夜泣きの赤ん坊で人生が崩壊するパイ”というジェンナの心情が込められた特製パイが登場。ネーミングがどんなに悲惨でも、パイはどれも最高においしそう! というところが皮肉で面白い。また、ジェンナの質問に答えるダイナーの店主や、ワルツを踊りながらジェンナを諭す気難し屋のオーナーの台詞にはぜひ注目を。気取らない言葉で素朴な人生教訓がさらりと語られ、胸にすとんと響く 。


実はエイドリアン・シェリーは2006年11月、不幸な事件で殺害され、40歳で帰らぬ人となってしまった。この作品が遺作になるとは、本人も誰も想像していなかったことだろう。ラストに登場するかわいい子供はシェリーの実子とのこと。ギュッと濃縮された彼女の人生そのものが、普遍的な愛される作品として遺された。この事実が彼女にとって何よりのはなむけとなり、安らかに満たされてほしい。心からそう願うのである。
『ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた』 2007年 アメリカ映画
データ
2007年11月更新

ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた
オフィシャルサイト
『ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた』


2007年11月17日公開
シャンテシネほかにて
全国順次ロードショー

■2007年 アメリカ映画
■上映時間 1:48
■20世紀フォックス映画配給
■脚本・監督/エイドリアン・シェリー
■出演/ケリー・ラッセル
ネイサン・フィリオン
シェリル・ハインズ
ジェレミー・シスト
アンディ・グリフィス
エイドリアン・シェリー



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。