絵画のような映像が奥深い美しさを湛える。
故郷の妻を愛し、異国の少女に恋をした男が
たどる切なくもいとおしい邂逅の軌跡。
イタリアの人気作家アレッサンドロ・バリッコが、19世紀の日本とフランスを舞台に描いた世界的なベストセラーを映画化。出演は舞台出身の若手俳優マイケル・ピット、旬の女優キーラ・ナイトレイ、独特の存在感があるアルフレッド・モリーナ、日本からは役所広司、中谷美紀、そして大抜擢を受けた新人の芦名星。監督は『レッド・バイオリン』のフランソワ・ジラール、音楽は坂本龍一。和洋の才能が結集して作られた、ミステリアスで詩的なラブ・ロマンスである。
1860年代のフランス。製糸事業をたちあげた村で蚕に疫病が発生。青年エルヴェは妻エレーヌを故郷に残し、良質な蚕の卵を求めて極東の地・日本へ赴く。砂漠を越え、大陸を横断し、海を渡ってたどり着いたエルヴェは、幕末の日本で闇取引をしている権力者・原十兵衛のもとへ。原に妻として仕える、絹のように美しい肌をもつ少女と出会い、互いに強く惹かれ合う。少女とは何もないままエルヴェは故郷へ蚕の卵を持ち帰り、妻との平穏な暮らしに戻るも、少女が忘れられずに再び日本を目指す。
「これほど美しく詩的な短編小説を脚色する難しさは想像できなかった」と語るのは、脚本を担当したマイケル・ゴールディング。一方ジラール監督は、原作者バリッコが’94年に執筆した一人芝居の脚本『海の上のピアニスト』の戯曲化でも成功し、相性の良さは実証済み。この映画は、シルク・ド・ソレイユの舞台演出家としても高く評価されているジラール監督の確かな美意識の賜物といえるだろう。豊富なアイディアを活かし、感覚的なアプローチに徹底したことで、映像に詩的なニュアンスとゆったりとした奥行きを与えている。
物語の鍵となるのは、あふれるほどの思いのたけが日本語で綴られたエルヴェ宛の手紙。「あなたの幸せのためなら ためらわずに私を忘れて―」。囁きかけるかのようなその優美なメッセージには、強く静かに心を揺さぶる力がある。純粋で絶対的な愛を思いがけないかたちで示す。この手紙がのちに大きな意味をもってくるところがとても好い。
ピットは若さゆえの情熱や妻への静かな思いの双方をあわせもつ青年を熱演。快活でキュートなイメージのナイトレイに病弱で貞淑な妻役はどうかとも思ったが、意外となかなか。モリーナは自分の掟に忠実な実業家を印象的に演じている。原を演じた役所は静かな威厳をたたえ、フランス在住のマダムを演じた中谷は強さと情念と独特のモラルを表現。ジラール監督に「僕が何年も思い描いてきた少女そのもの」と言わしめた芦名は、東洋の神秘の象徴であり台詞が一言もない“少女”を好演している。
“西洋のシーンはモネの絵画に描かれた庭園のように、東洋のシーンは水墨画を意識して”撮影されたという本作。19世紀フランスのクラシカルなドレスや館、一面に百合が咲く庭園。そして日本の雪深い鄙びた山村、野趣あふれる温泉、黒澤和子氏が手がけた着物の数々。幻想的な映像とともに秘められた愛が明かされるラストシーンに、あなたは何を感じるだろうか。
公開 | 2008年1月19日公開 日劇3ほか東宝洋画系にて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2007年 日本=カナダ=イタリア |
上映時間 | 1:49 |
配給 | アスミック・エース |
監督 | フランソワ・ジラール |
脚本 | マイケル・ゴールディング |
原作 | アレッサンドロ・バリッコ |
衣装デザイン | カルロ・ポジオッリ 黒澤和子 |
音楽 | 坂本龍一 |
出演 | マイケル・ピット キーラ・ナイトレイ< 役所広司 中谷美紀 芦名星 アルフレッド・モリーナ 國村隼 本郷奏多 |
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