私は貝になりたい 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
私は貝になりたい

©2008『私は貝になりたい』製作委員会
かの有名な物語を脚本に加筆してリメイク。
戦犯とされた帰還兵とその家族の苦悩を描く
戦争の深い傷痕を伝えるシリアスな人間ドラマ



  58年のフランキー堺の主演によるテレビドラマ化をはじめ、テレビや映画で何度も取り上げられてきた作品をリメイク。出演は俳優としても活躍するSMAPの中居正広、コメディでもシリアスでも魅せる仲間由紀恵、演技派の西村雅彦や平田満、ベテランの石坂浩二ら豪華キャストが集結。監督はTBSで演出家として『砂の器』『華麗なる一族』などを手がけ、本作が初監督作品となる福澤克雄。脚本は黒澤明監督の作品や、『白い巨塔』『日本沈没』などで知られる昭和の大物脚本家、橋本 忍。本作では同氏が執筆した'58年のTV放送時の脚本に自らが加筆・修正。戦犯として逮捕された帰還兵と、その家族たちの苦悩や悲しみを描くシリアスな人間ドラマである。


 高知で理髪店を営む清水豊松は妻の房江と息子の健一とつましくも幸せに暮らしている。が、召集命令により出兵。豊松は国内の中部軍の部隊で過酷な訓練や指令を体験するも戦争が終結して無事に帰還。平和な暮らしが再開し、妻も2人目の子供を授かって穏やかに暮らす中、豊松は戦犯として逮捕されてしまう。そして自分が所属していた部隊で起こった、アメリカ人捕虜の処刑にまつわる事件で軍事裁判にかけられる。
私は貝になりたい
 「こんど生まれかわるのなら私は人間になりたくありません。<中略>貝なら兵隊にとられることもない。妻や子どもを心配することもない。どうしても生まれ代わらなければならないのなら、私は貝になりたい」。旧日本軍の内情や当時の日本人の国民性を理解できないアメリカ軍の軍事裁判によって事実よりも重い刑が下され、絞首刑となるいち帰還兵の悲劇。とても有名な物語ゆえ結末がわかってはいても、やはり辛い。このような事実があったことを知識としてのみ知る戦争を知らない世代にとっては映画で追体験することにより、戦争を経験した方々への理解を深めるきっかけのひとつになるのではないだろうか。


 中居は追い詰められて憔悴していく豊松を、仲間は夫の無実を信じて2人の子供を育てながら嘆願書の署名を集め続ける献身的な妻・房江をそれぞれに熱演。演技派やベテラン勢、個性派の荒川良々やバラエティで活躍する笑福亭鶴瓶など幅のあるキャストにより深い世界を確立。また豊松が監獄で同室になる大西役に草薙剛がゲスト出演。2人並んで正面から映すとどうしてもSMAP的になるところを、顔のアップは斜めや横から違うイメージでとらえたり、一人ずつ映したりするなど巧みなカメラワークによってそれぞれの演技と個性が上手に生かされている。
笑福亭鶴瓶
 原作は日本軍の陸軍中尉や新潟の東京捕虜収容所第五分所長をつとめた加藤哲太郎による半自伝的な物語『狂える戦犯死刑囚』。もともと’53年に発表された『あれから七年―学徒戦犯の獄中からの手紙』にペンネームで寄稿したために本物の遺書と誤解されたこともあり、最初のTV放送時には原作者に無許可でクレジットもなく、製作側と原作者の間にトラブルがあったとのこと。その後、クレジットを明記することで和解。そうした背景があるためか本作の資料でも原作者にはほとんど触れられていない。実際には加藤哲太郎はBC級戦犯となり絞首刑がくだされたものの、嘆願書の提出や再審を経て死刑を免れ、その後に釈放されたとのこと。多くの人間が裁判で不条理な刑に服し、命を落とした戦中・戦後の混沌とした時代に、本作の原作者が実際は助かっていた、という事実には少し救われる。


  言論弾圧によって60人が逮捕され30人が有罪、4人が獄死した「横浜事件」の再審が認められる、という画期的なニュースもある近ごろ。ドラマを通じて当時の混沌や悲劇を伝える、大切な意味のある作品である。
『私は貝になりたい』 2008年 日本映画
データ
2008年11月更新

仲間由紀恵

2008年11月22日公開
全国東宝系にてロードショー

■2008年 日本映画
■上映時間 2:19
■東宝配給
■遺書・原作・題名/加藤哲太郎
■監督/福澤克雄
■脚本/橋本 忍
■音楽/久石 譲
■出演/中居正広 仲間由紀恵
柴本 幸 西村雅彦
平田 満 マギー
加藤 翼 武田鉄矢
伊武雅刀 片岡愛之助
名高達男 荒川良々
泉 ピン子 笑福亭鶴瓶
上川隆也 石坂浩二



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。