偏屈な老人とアジア系移民の少年との交流から
アメリカの大衆の現実を鋭くとらえた
正否よりも心を揺さぶるヒューマンドラマ
クリント・イーストウッドが主演・監督を務め、自身の作品の中で過去最高となる全米興行収入1億2000万ドル突破を記録した作品。出演はイーストウッドのほか、オーディションで選出された新人ビー・バン、アーニー・ハー。偏屈な老人とアジア系移民であるモン族の少年少女との交流、そこから変化していく老人と少年の生き様を描く。滂沱の涙が止まらない、感動のヒューマンドラマである。
愛する妻に先立たれ、ますます偏狭になってゆく朝鮮戦争退役軍人のウォルト。2人の実の息子やその孫たちも寄りつかず、死んだ妻と懇意だった若い神父にも毒づく始末。近所に増えてきたモン族の人々には偏見の眼差しを向け、白人やアフリカ系、アジア系で小競り合いをする若者らに罵声を浴びせる日々。そんなウォルトの唯一の楽しみは、’72年製のヴィンテージ・カー、グラン・トリノを磨いて眺めること。ある日、その愛車を盗めと不良たちに強要されたモン族の少年タオが忍び込むも、ウォルトによってM-1ライフルで返り討ちに。庭に逃げたタオが不良らから暴行されそうになった時、ウォルトが自宅の庭に侵入された怒りにまかせて不良たちを撃退したところ、町内のヒーローに。モン族の人々から感謝され、望んでもいないお礼の捧げものが次々と届けられるようになる。
血縁でも互いに理解がなくすれ違う親子、アメリカで暮らすアジア系移民の現状、戦争後に居場所をなくしたモン族の人々、今も根強く残る白人至上の差別主義、帰還兵たちの癒えることのない心の傷。本作ではアメリカの小さな町に実際にあるだろうシビアな現実を、ブラックユーモアとともに描いている。ウォルトは相手が神父だろうと老女だろうと差別用語をバンバン飛ばし、モン族の言葉しか話せない老女と怒鳴り合う場面では、英語と異国語なのに内容がなんとなく合致していたり。最初は得体の知れない捧げものを捨てまくっていたウォルトも、食べ物がおいしいとわかると10代の少年のようにパクついて、頑なに拒んでいた贈り物も受け入れたりして。この偏屈な老人はどうにも憎めない。またモン族の利発な姉スーがウォルトを頼れる人物だと見抜いて弟のタオを預け、タオを男らしく育てることにウォルトが生き甲斐を見出していくくだりもとても好い。そしてウォルトが最後に下す、その決断とは?
『ミリオンダラー・ベイビー』以来4年ぶりに俳優として出演したイーストウッド。「実は俳優業は控えようと考えていた」という彼は、本作で映画脚本家としてデビューしたニック・シェンクの脚本を気に入り、出演を決めたとのこと。アメリカ軍に加担したためベトナム戦争後に難民となり、ラオスなどからアメリカに移住したモン族の真の姿を伝えるべく、登場人物は本物のモン族の人々からオーディションで選出。心優しいタオ役はバンが、しっかり者のスー役はハーが、演技経験も映画出演も初めての2人が好演している。
クリント以外は無名の役者や新人、新進の脚本家を起用しながら、興行的に大成功を収めている本作。イーストウッドは語る。「チャンスを与えるのが好きななんだ。新人には機会があったらどんどん出てきてほしい。名の知れた俳優が作品や役にふさわしいと思えば起用するし、無名な俳優でも適任だと思えば起用する。一定のルールはない。作品ごとに、つくりも中身も変わるからね」。今年で79歳にして、映画作りの手腕が冴えわたっているイーストウッド。次回はマット・デイモンとモーガン・フリーマン共演の『Human Factor』を監督・製作。アパルトヘイト後の南アフリカを舞台に、白人と黒人混成のラグビーチームの活躍と彼らを支援するネルソン・マンデラ大統領の実話に基づく物語を映す。人種や立場を超えた人間同士の結びつき、意識の改革、未来に道筋を示して礎を築いていくこと。人間的なテーマを映画として力強く魅せていくイーストウッド作品に、今後も大いに期待したい。
公開 | 2009年4月25日公開 丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2008年 アメリカ |
上映時間 | 1:57 |
配給 | 配給 |
配給 | ワーナー・ブラザース映画 |
監督・製作 | クリント・イーストウッド |
脚本 | ニック・シェンク |
原案 | デイブ・ジョハンソン ニック・シェンク |
出演 | クリント・イーストウッド ビー・バン アーニー・ハー クリストファー・カーレイ ジョン・キャロル・リンチ ブライアン・ヘイリー ブライアン・ハウ ウィリアム・ヒル |
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