ザ・ロード

ピューリッツァー賞を受賞した小説を映画化
文明崩壊後、南へ旅する父子の足跡を追う
人間の尊厳を映し出す重厚なヒューマンドラマ

  • 2010/06/25
  • イベント
  • シネマ
ザ・ロード

全米でベストセラーとなり、’07年にピューリッツァー賞のフィクション部門に選出されたコーマック・マッカーシーの小説を映画化。出演は『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのヴィゴ・モーテンセン、ベテランのオスカー俳優ロバート・デュヴァル、個性派俳優のガイ・ピアース、オスカー女優のシャーリーズ・セロン、そしてオーストラリアで活躍する子役のコディ・スミット=マクフィーなど演技派の俳優が集結。監督は2005年の『プロポジション 血の誓約』(日本未公開)で実力が評価されたオーストラリア出身のジョン・ヒルコート。文明が破綻した地球で、人間らしく生き抜こうとする父子の苦難に満ちた足跡を追う。親と子の関係性や子供の成長、何よりも人間の尊厳を丁寧に描き出す、シリアスで重みのあるヒューマンドラマである。

人類が文明を失ってからすでに10年以上が経過。地球は寒冷化が進み、動植物が死滅。生き残った数少ない人間たちは保存食で食いつなぐしかなく、食料が尽きたら餓死か自殺、という極限の状況。理性を失った輩は徒党を組み、人が人を狩って食らうという惨状がそこかしこにあった。そんな荒廃した世界で、父と子は寒さをしのぐため南に向かって歩いてゆく。父子はわずかな食料を分け合い、人食い連中から逃れ、まれに出会う人たちと緊迫したやりとりがある中、父は息子に自分たちがどんな時も“善き者”であることが大切だと説く。

ザ・ロード

飢えと寒さと恐怖と、終わりのない悪夢のような絶望的な世界を生き抜く父と子のロードムービー。同時期に日本公開の『ザ・ウォーカー』は、“文明崩壊”“歩きの旅”“男とティーンエイジャー”“人食い”など背景やキーワードがそっくりなものの、趣はまったく異にする。本作はよくあるタイプの世紀末を舞台にしたバトルストーリーではなく、“人の生きる道”について緻密に掘り下げ、“文明の崩壊は地球で実際に起こりかねない”という現代人への警告を含んでいる内容だ。理由や設定よりも、生きていく上で誰もが経験する厳しい局面や選択しなければならない現実について、暗喩で巧みに描かれている。

原作者はアメリカの現代文学を代表する作家のひとりといわれるコーマック・マッカーシー。本作の原作『ザ・ロード』は’06年に発表されたベストセラーであり、’07年のピューリッツァー賞にてフィクション部門を受賞。マッカーシーはこの小説を自身の息子に捧げている。また1992年に発表した小説『すべての美しい馬』は、2000年にマット・デイモン主演にて同名で映画化されたことでも有名。全米図書賞や全米批評家協会賞を受賞したこの小説はマッカーシーの“国境3部作”の第1作目であり、2作目の『越境』、完結編の『平原の町』と続いている。そしてマッカーシーの’05年の小説『血と暴力の国』は、’07年にコーエン兄弟によって『ノーカントリー』として映画化。アカデミー賞で作品賞や監督賞など主要4部門を受賞し、話題となった。

ヴィゴ・モーテンセン、シャーリーズ・セロン

ひたむきに幼い息子を守ろうとする実直な父親役は、モーテンセンが真実味あふれる演技で表現。雪や雨のふる寒くて厳しい環境のロケ現場で、モーテンセンは毛布やテントを拒んで雪や雨で体を冷やし、自らを追い込んでいったとのこと。またマッカーシーと直接会い、お互いの息子や家族との関係について話をしたことも、役作りの参考にしたそうだ。純粋な息子役はマクフィーが演じ、健気な様子がよく伝わってくる。回想シーンで登場する母親役にセロン、道で会う老人役にデュヴァル、そして某役でピアースが出演。脇にも演技派をそろえて、重厚な物語をしっかりと支えている。

ヴィゴ・モーテンセン、コディ・スミット=マクフィー

人気作家のベストセラーとはいえ、陰惨な面のある物語の映画化は、メジャースタジオや製作者たちが二の足を踏んだ……という本作。製作のニック・ウェスラーがマッカーシーの大ファンであることから作品の権利を取得し、完成に至ったのだそう。そしてウェスラーに指名されたヒルコート監督は、「原作が断固たる姿勢で人間性の深みを探求しているところがとても気に入っている」とのこと。そして、「核であろうと彗星であろうと、大災害が起きたその日から原因などは無関係になって、人々は根本的な変化と闘うことになる。私にはその不安定な状態の書き方が独創的で非常に忘れがたく、心をかき乱された。今の時代にはとても現実的で、特に関連性が高いと感じたんだ」とコメントしている。苛酷な状況下、人間らしく生き抜こうとする父子の旅路の果てにあるものとは。すさんでいる現代社会に向けて、作られるべくして作られたかのような真摯な作品である。

作品データ

ザ・ロード
公開 2010年6月26日公開
TOHOシネマズ シャンテほか全国順次ロードショー
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 1:52
配給 ブロードメディア・スタジオ
監督 ジョン・ヒルコート
脚本 ジョー・ペンホール
出演 ヴィゴ・モーテンセン
コディ・スミット=マクフィー
ロバート・デュヴァル
ガイ・ピアース
シャーリーズ・セロン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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