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河�P直美監督がドリアン助川の同名小説を、日・仏・独の合作で映画化。出演は現在公開中の映画『駆込み女と駆出し男』の樹木希林、2014年の台湾映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』がアジア各国で大ヒットした永瀬正敏、樹木の実孫で'11年の映画『奇跡』の内田伽羅(きゃら)、1983〜'08年のテレビシリーズ『家政婦は見た！』の市原悦子、現在ドラマ『アイムホーム』に出演中の水野美紀ほか。
 小さなどら焼き屋の雇われ店長のもと、あん作りの名人の老女が「雇ってほしい」と訪れ……。登場人物それぞれの過去や環境、世間の差別や偏見、生きるということについて。河瀬監督による生命力あふれる緑の映像とともに、日本人をはじめ今を生きる人たちにある命の経験を伝える作品である。

小さなどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしている千太郎のもと、「ここで働かせてほしい」というひとりの老女、徳江が現れる。高齢のひとには大変だからと一度は断るも、後日に徳江から手作りのあんを渡され、そのおいしさに驚き、千太郎は粒あん作りを徳江に任せることに。常連客の中学生たちから美味しくなったとほめられ、口コミで評判となり、「どら春」は毎日行列ができる繁盛店に。が、ある心ない噂が広まり、客足がぱったりととだえてしまう。

刑務所暮らしを経験した男、過去にハンセン病を患い手や腕に後遺症の残る老女、どら焼きのカステラの焼き損じをわけてもらう母子家庭の少女。大きな期待や望みをもつわけではなく、ただ静かに暮らそうとする彼らの喜び、悲しみ、苦悩、あきらめ、怒り、そして希望が描かれている。

これまでオリジナルの脚本で撮ってきた河�P監督が、初めて原作をもとに製作した作品。クレジットにドリアン助川氏の名前を見たとき、個人的に「えっ。金髪で深夜番組やってたロッカーっぽい……？」と思わずプロフィールを確認。1996〜'98年の深夜番組『金髪先生』で知られる氏は、早稲田大学在学中に劇団を主宰し、卒業後は雑誌ライターや放送作家などを経て、ドリアン助川の名で「叫ぶ詩人の会」を結成。ドリアン助川名義以外でも執筆やライブ活動などを行い、今に至るそうだ。河瀬監督とは'11年の河瀬作品『朱花の月』に出演したため以前から親交があったとのこと。監督は原作のメッセージ性の高さに共感し、「これを映画化させないといけない」という使命感を感じたそうだ。

また本作は現在フランスで開催されている第68回カンヌ国際映画祭の公式上映作品として、「ある視点」部門のオープニングフィルムに選出。上映の際の舞台挨拶にて、監督は小説『あん』を映画化したことについてこのように語っている。「ドリアンさんは原作を20年温めていて、そして仕上がった原稿を、大手の出版社はことごとく断って。それを今の出版社（ポプラ社）がすくい上げた。この世に出なかったかもしれないものを、映画としてつくらせてもらいましたし、俳優の皆さんもここに存在しているけれど、ハンセン病を患って逝ってしまった名も無き魂が本当にたくさんあるのかな、と思うと、もしかしてこれはあり得ない現実かと思うし、でも一人の人間ができることはわからないけれど、希望を捨てずに誰かと誰かが出会えばここまでこれるんだと」

あん作りの名手である老女・徳江役は樹木希林がどこかかわいらしく、超越的に。ドリアン氏はもともと、「徳江さんは、樹木希林さんを想像して書いた」そうだ。「どら春」の雇われ店長・千太郎役は永瀬正敏が飄々と、店の常連である中学生ワカナ役は内田伽羅が素朴に、千太郎の雇い主である「どら春」のオーナー役は浅田美代子が世間体を気にするリアリストとして、シングルマザーのワカナの母親役は水野美紀が投げやりな様子で、徳江の友人・佳子役は、今回が樹木氏と初共演となる市原悦子がおだやかな余韻を残す存在として、それぞれに演じている。
 現在イギリス留学中の学生である内田伽羅は、祖母である樹木氏のすすめにより本作のオーディションを受け、撮影には学校の休みを利用して参加したとのこと。前述のカンヌの舞台挨拶にて、女優を続けていくかという質問に対し、「それはまだわからないですけど、もう少し経験してみたいとは思います」と答えている。

ハンセン病についてわかりやすく解説されている厚生労働省の中学生向けパンフレット「ハンセン病の向こう側」を紹介するサイトより、引用し記載する。
 1943年に発表された薬により、現在は容易に治る病気であるハンセン病。「らい菌」よる感染症で、体の末梢神経のまひ、皮膚がただれたようになる、病の進行により容姿や手足が変形することから、感染力・発病力が弱い病気であることが理解されず、患者は差別の対象になってきた。日本政府は1907年に「癩（らい）予防に関する件」という法律を制し、1931年に「癩予防法」を確立し、患者を療養所に入所させ強制隔離によるハンセン病絶滅政策をとり、一般社会から隔離。1996年に「らい予防法」がやっと廃止されたのち、1998年にハンセン病の患者・元患者が熊本地裁に「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟が提訴し、2001年に原告が勝訴。2001年6月に衆参両院で「ハンセン病問題に関する決議」が採択され、新たに補償を行う法律を制定。国は患者やもと患者たちに謝罪し、2002年に療養所退所後の福祉増進を目的として、「国立ハンセン病療養所等退所者給与金事業」を開始し、名誉回復のための対策を進めているそうだ。

実際に患者やもと患者が受けた差別や偏見は、こうして平易にまとめられるものではないだろう。この映画では過去を批判し糾弾することには焦点をおかず、今も起こりえる差別や偏見に対して理解を促すことを、これから生きていく人たちへのメッセージを伝える内容となっている。

日・仏・独の合作であり、日本での公開前にすでにフランスやドイツをはじめ海外配給が決定しているという本作。カンヌ国際映画祭の名誉会長ジル・ジャコブ氏はこのようにコメントしている。「大変素晴らしい作品でした。河�P作品はすべて好きですが、本作は、非常に心に触れる謙虚さがあり、また物語の語りとしてはパーフェクトの高みへと洗練されていました。日常の営みの細部に触れ、3世代を扱い描いていることに好感を持ちました。指に障害を抱えた年配の女性・徳江をスクリーン上にこのように存在させられたことを誇りに思うべきです」

最後に4月6日に行われた本作の完成披露試写会での舞台挨拶より、監督のメッセージをどうぞ。「(キャストが)自分たちの生を注いでくれた。これから観る皆さんが映画を育んでくれると信じている。この映画をお届できて幸せ」